美少女ゲームの悪役令息に転生した俺、『本編先乗り』と【モンスター錬成】で原作を破壊する

ふつうのにーちゃん

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・漂流『2-B』 物資を独占する

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「何……あの空……?」

「み、見ろよみんな……っ、あ、あれ……っ、トロル系か、何かじゃないか……っ!?」

 正式な名称はないが、ネットユーザーはこの場所を魔界と呼ぶ。
 立ち上がって窓の外をのぞくと、魔法学院は闇属性の亜種族系が徘徊する、魔界としか呼びようのない場所に飛ばされていた。

 当然、学校中のクラスというクラスから狂乱の叫び声が上がる。
 これが【ドラゴンズ・ティアラ】一章のクライマックスイベントだ。

 これから章がクライマックスを迎えるまで、俺たちはここで生き抜くことになる。

「ミシェーラ、クラスの仲間を落ち着かせてくれるか?」

 窓辺でバーサーカーの笑顔を浮かべる姫君を一名。その手を引いて教壇に導いた。
 彼女は皇女の役目をよくわきまえていた。メメさんも騒ぐのを止め、主人に付き従った。

 ミシェーラ皇女が背中越しに黒板を『ガンッッ』と叩き付ける。
 いくらかの注目が集まったが、それだけでは不十分とわかるなり、彼女は爪を立てた。

 古典的な方法ではあったが、本能レベルで人間が嫌悪して止まないその音が、教室中の視線をミシェーラ皇女に集めさせた。

「ミシェーラ・リンドブルムの名の下に宣言いたします。落ち着いて下さらなければ、今日はこの黒板が大合唱を奏でることとなるでしょう」

「わ、わかったわっ、わかったから止めなさいよ、ミシェ――ヒィィーッッ?!」

 抗議すら許さない見事なリーダーシップだ。
 よっぽど苦手なのかシャーロットは両耳を抱えて涙目になった。

「私、ミシェーラ・リンドブルムは、このヴァレリウスを非常事態対策委員会のリーダーに推挙します。ではヴァー様、同窓の皆様にご指示を」

 非常事態対策委員会。そんな肩書きはこの学園にない。
 だがミシェーラ皇女が言うともっともらしく、クラスの皆はヴァレリウスに注目してくれた。

「外を徘徊するあのモンスターたちは、いずれここに強襲を仕掛けて来るだろう。よって俺たちは迅速に、防衛体制を整え、他のクラスと一年生を一つに束ねなければならない」

「た、戦うのですか……っ!?」

 コルリを含むクラスの大半の者が青ざめた。
 俺たち2年生は迷宮での実習を始めたばかりの素人だ。強敵との対戦経験などなかった。

「戦うと言っても防戦だ。本校舎を盾にして籠城をする」

「フフ……ウフフフフ……♪ 籠城……なんと素敵な響きでしょう……♪」

「姫様、ご自重を。皆さまがドン引きされておりましゅる……」

 皆さまはドン引き半分、頼もしさ半分といった反応だ。

「さし当たって必要なのは『指揮権』だ。そこでまずは購買と食堂の物資をここに運び、他のクラスに対して主導権を握るぞ」

 皆からすれば『指揮権』などどうでも良い。
 だが食堂の『食べ物』と、購買の『生活必需品』および『戦いの道具』は、他のクラスに独占される前にいち早く確保しなければならならない生存に関わる物資だ。

「購買部と食堂を荒らすとか、後で怒られたりしないか……?」

 男子生徒の一人がそう言った。

「かまわないわよっ、残ってる先生、へっぽこのアルミ先生だけじゃないっ」

「私賛成っ、だって、元の世界に帰る方法なんてわからないよっ、だったら今のうちに食べ物だけでもっ」

 そこは女子生徒たちの方が現実的だった。
 ここで出遅れれば、最悪は餓死することにもなりかねない。

「決まりだな。窓際側の半分は俺に、廊下側はミシェーラ皇女に、それぞれ付いて来てくれ」

「ふんっ、しょうがないわね! アンタはあたしが護衛してあげる!」

 俺が教壇側の入り口に立つと、シャーロットが剣に手をかけて軽やかに飛んで来てくれた。
 それを見ると皆が同じように集まってくる。

「くれぐれも他のクラスの連中に気取られないよう、静かに頼むぜ」

「そんなの言われるまでもないわ。おかしな人たちに独占される前に、アタシたちで確保しましょ」

「では、がんばりましょう、皆さん!」

 ミシェーラのカリスマのおかげで、特に反感もなくすぐに教室を発てた。
 他のクラスの連中はまだ教室の中で動揺したり、無駄な言い合いを続けている。

 本来のストーリーでは、物資の分配を巡ってギスギスとした対立が起きた。
 これが原因となって指揮系統は最後まで統一されることはなかった。

 だがミシェーラ皇女率いる『2-B』が物資を全て掌握してしまえば、組織だった行動が可能になる。

「えっえっ、どうしたのー、みんなー?」

「アルミ先生、まさか外の事態にまだ気付いていないんですか……?」

「あきれたわ……。アルテミシア先生、先生も手伝って!」

「えっえっ、何をー、これ、なんなのー……?」

 渡り廊下のアルミ先生の懐柔は、野良猫を懐かせるより簡単だった。

 俺たちは2階渡り廊下を、外のモンスターたちに気付かれないよう身を屈めて渡り切ると、分棟1階食堂の物資をかき集めた。

「はっ、えらいことになっちまったねぇ、アルテミシア先生」

 食堂にはいつもの食堂のお姉さんが、外の事態に気付きもせず昼の仕込みをしていた。

「わ、私……ヴァレリーくんがいてよかったわ……。私じゃ、生徒をまとめるなんて無理だものーっっ!」

「アンタねぇ、一応担任なんだから、もっとしゃんとしなよっ!」

「む、無理よーっ、私ただの小市民だものーっ」

 こうして俺たちは食料と物資の確保と同時に、頼れる大人の女性2名を『2-B』に迎えた。
 アルミ先生は自分を小市民と言うけど、魔導師としては一線級の実力者でもあった。
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