美少女ゲームの悪役令息に転生した俺、『本編先乗り』と【モンスター錬成】で原作を破壊する

ふつうのにーちゃん

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・モブ子 本編乗っ取りに感激する

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「やっと……気付いてくれたんですね……」

「えっえっえっ!? この、サラッサラッの髪……ま、まさ、か……っ」

「はい、僕ですよ、僕……」

 え、なんで? どうして? なぜお前がこういうことをするの!?
 あまりの混乱に思考がまとまらない中、やけに肉付きのないその体格に納得を覚えた。

 いや、考えるよりも今は実物の姿を確かめた方が早い。
 俺は震える手でヅラを――いやオシャレアイテムのヴィッグを――モブキャラのモイラの頭からひっぺ返した……。

「なんか、ちょっと嬉しいです……僕のこと、本気で女の子だと、思っていてくれたんですよね……」

「ジェ、ジェード……?」

「はいっ、ヴァレリー師匠! 実は、僕でした!」

「なっ、なっ、なっ、何やってんだおめぇぇーっっ?!!!」

 なんで主人公が女装してモブキャラになりすましてんだよっ!?
 なんで主人公に成り代わろうとする俺の胸でうっとりとしているしっ!!

 ついでに言うとなんでそんなにかわいいしっ!!
 俺はお前のことを自分の分身みたいに思っていたのにっ、なんでお前が女装趣味の変態みたいになってんだよぉぉっっ?!!

「知っているんです、僕」

「な、何がっ!?」

「ここで待てば、仲間のみんなが救援に来てくれるんですよね」

「な……っ」

 なぜそれを知っている……?

「ヴァレリー師匠もそれを知っていた。地下13階に落とされることも、3連戦となるボスの対策方法も。貴方はみんな知っていた」

「と、とりま、胸から離れてくれね……?」

「嫌です」

「なんでだよっ!?」

「寒いです、僕を温めて下さい……」

「主人公ムーブじゃねーだろ、それぇぇーっっ?!!」

 発狂混じりに俺が叫ぶと、おかしそうにジェードが喉で笑った。
 主人公のくせに無邪気かわいかった。

「ヴァレリー師匠、貴方は転生者ですね?」

 らしからぬ静かな声でそう言われ『ドキリ』とさせられた。何せ俺はジェードの役を乗っ取ろうとする悪役なのだから。

「……これはまた、いきなり切り込んで来たな」

「僕にはもう、さぐり合いをする必要がないんです。だって師匠の人となりをずっと隣で見ていましたから」

「ああ……なるほど」

 こいつは敵か?
 いや敵が、敵の胸にこんなにくっつくか?
 わからん、こいつの行動に合理性があるようには思えない……。

「僕も転生者です」

「簡単にそういうことぶっちゃけんなよっ、もっと人を怪しめよ!?」

「僕はbMMの1本500円合わせ買いで、2周だけこのゲームをクリアしたライトプレイヤーです」

「なんっ、とぉ……っ!? お、俺の18分の1のお値段で買いやがって、この野郎……っ」

 俺は税込み9000円オーバーで発売日に買った。
 後悔はない。俺は青春を買ったんだ。

「クリアしたのはミシェーラ皇女と侍女のメメさんだけです。ヴァレリー師匠は、ずいぶんとやり込んでいたみたいですね……?」

「ま、まあな……?」

 断言しても良い。1000時間プレイしたと言ったら、尊敬を通り越してドン引きされる。

「もうじき救援が来てしまいますし、単刀直入に言います」

「ならいったん、離れねぇ……?」

 ふるふると俺の愛した主人公が首を振る。
 なぜだ、なぜなんだ……。


「お願いですヴァレリー師匠っ、どうか僕と、主人公を代わって下さいっっ!!」


「は、はぁ……っっ!?」

 え、お前、やりたくねぇの、主人公!?
 男としてそれは、おかしくねぇ!?

「合理的に考えて、主人公を辞めるには、誰かに主人公を押し付けるしかないと僕は考えました」

「お、おう……。ま、確かにな……?」

「そして、さらにもう1つの方法も考えました。徹底的に主人公の座を放棄するのならば――」

 ジェードはそこでいちいち間を置いた。
 彼は真剣にこちらを見ていたが、しかしそれが急に微笑み、なぜかはわからないが俺の胸にまた顔を埋めた。

 え…………ま、さ、か……。

「僕がヒロインになってしまえばいいんです」

 こ、こいつ……っ、こいつっっ?!!
 ○○かっっ?!!

「それはよぉっ、最終手段過ぎるだろっっ!?」

「いえ、何か問題でも?」

「問題しかねーだろっ!? お、男だよなぁ、お前っ!?」

 非常に重要なところである。
 美少女ゲームの主人公が女である可能性は、まあ微粒子レベルで存在しているのだが、普通は男だ……。

「あ、そういうことですか。大丈夫です、ヴァレリー師匠」

「お、女なのか、お前……?」

「身体は男の子でも、僕の心は女です」

 女の子だったら有りかなと思いかけていた俺は、谷底へ蹴り落とされた気分になった……。
 なんだ、男、か……。

「男性の身体に転生して僕も驚きました。ですが幸運なことに、元より腐趣味を嗜んでいたことが怪我の功名となりまして、趣味と実益をかねてヒロインとなることに決めたのです。外でもない、大好きな師匠のですっっ!!」

 ジェイド、なぜお前は、俺にそっちの趣味があること前提で話を組み立てているのだ……?
 ヴィックを付けて女子の制服を着たお前がムチャクチャかわいいのは認めよう! ちょっとはときめいた!

 でも俺は、○○じゃねぇぇーーっっ!!!

「師匠、何か言って下さい……」

「お、男と、男だろ……?」

「はい、何か問題でも?」

「問題だよっ、むしろ問題しかねーよっ?!」

「師匠だって主人公になりたいんでしょ……?」

「プランAでいこうよっ、Bと平行させる必要ないってーっっ!?」

 どんな頭をしていたら、ヒロインになれば主人公ではなくなるとかいう、ストーリーラインにドロップキックぶち込む発想が出て来るのだ……。
 やるなっ、やりおるわ、コイツ……ッ!

「僕、あの日、震えながら魔法学院にやって来たんです……。でも、そんな僕の前に、信じられない奇跡が起こっていた……。ヴァレリー師匠が、既に僕の代わりになってくれていた……」

 押し退けてもくっついてくる主人公(男の娘)は、また人の胸で陶酔した。

「ルプゴス王子との敵対! 陰謀との戦い! 学期末に待ち受ける大怪異! 僕にはそんなの荷が重過ぎるっっ!!」

 その言い方では、嬉々とその戦いに身を投じている俺の頭がおかしいみたいではないか。

「僕はヒロインになります!! だから、貴方は主人公となってこの物語を導いて下さいっっ!!」

 主人公よ、お前は、この世界を、ボーイズラブゲームにするつもりか……。

 とにかくこれからも俺が主人公として成り代わってやるので、主人公ヒロイン化ルートだけは、じっくりと考えさせてくれ……。
 そうと断ると、先生方と仲間たちがやっと救援に現れてくれて、ようやく今回の事件に幕が引かれたのだった。

 無論、やられっぱなしは趣味ではないので、今回の陰謀の主犯にはささやかな仕返しをさせてもらうけどな。
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