美少女ゲームの悪役令息に転生した俺、『本編先乗り』と【モンスター錬成】で原作を破壊する

ふつうのにーちゃん

文字の大きさ
上 下
39 / 57

・大狼マーナガルム モンスター錬成される

しおりを挟む
 告発劇。主人公転入。登山での負けイベントの破壊。これら3つの出来事はヴァレリウスの生活を大きく変えた。

 コルリ。ジェード。シャーロットという名のクラスメイトは、放課後を裏世界に引きこもって暮らしていた俺を現実世界に引きずり出した。

 座学をのぞけば、ここでは全てが選択式の授業となっている。
 俺が俺の決めたチャート通りに教練を選択すると、わざわざ友人たちがその予定に合わせて教練に参加してくれるようになった。
 
「アンタ、ほんと鈍くさいわね! そんな身のこなしで前に立ったら、モンスターにかじられてすぐ死んじゃうんだからねっ!」

 特にシャーロットとジェードが積極的に予定を重ねてくれた。
 万能型のミシェーラ皇女は教練となると忙しく、メメさんも侍女としてそれに従うので、2人との接点はそう多くない。

「わ、私……ヴァレリウスさんのお力になれて、嬉しいです……。言って下さればなんでもしますから、なんでも、言って下さいね……?」

 健全な18歳男子ヴァレリウスは、男性恐怖症の女性のかいがいしい姿に、ムラッと来てしまうこともあった。
 お願いすれば彼女は拒まないだろう。

 しかし原作に存在する狂気の17股ハーレムルートは、ほぼバッドエンドのようなものだった。
 いや、あれは総ヤンデレエンドと呼んだ方が正しいか。俺はあんな悲惨な結末をたどりたくない。

 まあともかく。戦士としての成長、魔術師としての成長、友情の発展、初夏の訪れ。様々な実感を画面ではなく肌で感じ取りながら、充実した日々が過ぎ去っていった。

 それからまた時が流れて、6月1日。
 先日の奉仕作業の日に地下水路で【バグ・フラグメント】を回収する機会に恵まれたこともあり、ミシェーラ皇女とメメさんを裏世界へと招いた。

 ちなみに地下水路では白いワニとの小規模な戦闘があったが、俺と俺が育てたジェードが手を組めば瞬殺だった。

「なんでごじゃりますか、最近モテモテのヴァイシュタイン卿」

「ごめんなさい、この子、最近ヴァー様にかまってもらえなくてすねてるのよ」

「言っておくでしゅが、ヴァレリーはメメのオモチャでしゅ。ゆめゆめ忘れるなかれでごじゃります」

 不機嫌なメメさんに銀色の石を見せた。
 それにアイデンティファイをかけると、マーナガルムの核の詳細が2人の前に表示された。

「まあ、楽しそうっ! これってつまりっ、そういうお誘いだってことっ!?」

「作るでしゅかっ、でっかいわんわんをっ!?」

「私以前っ、ある富豪のお庭にお邪魔したことがあるのですがっ! そこでは真っ白で大きな犬が飼われておりましてっ!」

「あいあいっ、あれはいいものでごじゃりました! 創るでしゅっ、創れでしゅっ、早くするでしゅこのプリティ・テイマーが!!」

「その変な造語止めろ……」

 メメさんの手からマーナガルムの核が返って来た。
 それを俺は裏世界の漆黒の床に置き、ポケットから触媒となる物を出した。

 ちなみにポケットの主とミニドラゴンは、いつものこの時間ならば敷地の外れで犬猫とじゃれ合っている頃だ。

 モンスター錬成開始前にもう一度鑑定魔法をかけた。

――――――――――――――――
【名称】バグ・フラグメント
【区分】武器・メイス
【効果】斬:0 薙:3 刺:10
【解説】アンフィス王国宮廷仕様
    金メッキされた黄金のプランジャー
――――――――――――――――

 どう見てもネタ武器です。
 本当にありがとうございました。

――――――――――――――――
【名称】バグ・フラグメント
【区分】補助アイテム
【効果】特定種族にバーサク効果
【解説】効果には個体差があり
    沈痛剤の材料としても利用される
――――――――――――――――

 マタタビだ。こう見えてゲーム上では入手難度が高い。

――――――――――――――――
【名称】バグ・フラグメント
【区分】回復アイテム
【効果】パーティ全体のHP・MP全回復
【解説】慈悲の神が作り出したとされる奇跡の薬
    裏ボス前にもう1つ拾えます
――――――――――――――――

 クソが、ネタバレすんな。
 売値は1z。まあ普通は売らない。

「またヴァレリーが変な物で変な子作ろうとしてるでしゅ……」

「ヴァー様、プランジャーってなんですか?」

「あい、姫様には一生ご縁のない、記憶力のムダとなる一品でごじゃります」

 プランジャーは水洗便器の詰まりを解消する道具だ。
 美少女ゲームの世界のトイレがぼっとん便所では、まあさすがにな……。

 俺はマーナガルムの核の左手に、それら触媒を置いた。

「さて、パッとやっちまうから見ててくれ」

「プランジャー、抜いた方がいいと思うでしゅ……」

「却下だ。プランジャーのバグ・フラグメントは必須素材だ」

「なんででしゅかっ!? う○ち臭いわんこになったら可哀想でしゅよ!?」

「レア度が高いんだよ、これ全部な」

「レア度、とは、なんですか……?」

「物品それぞれに秘められた、アイデンティファイでも知ることの出来ない、秘められた属性だ」

 ゲーム用語で言い直すとマスクデータ。あえてデータを隠すことで、ゲームに広がりを与える発明をした人が昔いたんだな。

 俺は触媒とモンスターの核を双子の円で囲んだ。

「態度悪いのに、頭だけは良いからムカつくでしゅ。素直なジェードの耳の垢でも飲ませたいでしゅ」

「錬成中に気持ち悪いこと言うなっての……っ」

「ふふっ、かわいい子をお願いしますね!」

「ああ、狼だしな! もちろん善処する!」

 大円を描き、術を制御した。
 ボスクラスをテイムモンスターとして作り出そうというのだ。
 魔力を根こそぎ奪い取られるかのような、すさまじい手応えだった。

「あ、あのさ……悪いんだけど、魔力、ちょっと分けてくれない……?」

「手伝わせてくれるのですかっ!? ええ、もちろん協力いたしますっ!」

「世話の焼けるヴァレリーでしゅねー」

 とか言いながら真っ先にメメさんが手を貸してくれた。
 樫の杖を握る俺の手に、メメさんが小振りな手を重ねた。
 ミシェーラ皇女も少し恥ずかしそうに、同じことをしてくれた。

「おおっ、2人ともすげぇ!! これならなんとかなりそうだ!!」

「ワクワクでしゅっ! 生まれたらメメ次郎と名付けるでしゅ!」

「はい、却下です」

 そりゃそうだ。

「この子は、ガルグウォーンッッよ!!」

 いやさすがは皇女様、ネーミングセンスが黙示録級だ。

「とにかく仕上げるっ、いくぞっっ!!」

 3人でゆっくりと鉛のように重くなった杖を持ち上げ、そしてガツンと大地を突いた。
 するとたちまちに重圧が消え、目前に光属性のエフェクトが発生した。

 天使を模した影と、その翼が舞い散った。効果音はノイズだらけでまともに聞き取れず、白い翼に漆黒が混じると、短い演出が終わった。

「ほ……ほわぁぁぁーっっ!!」

「ヴァー様っ、私、信じていました!! 子犬っ、子犬ちゃんっ、これを私たちは期待していましたっっ!!」

 それはあの白い大狼ではなかった。
 ボスクラスを材料にしたのに、その狼は豆柴サイズだった。
 くるんと丸まったふかふかの尾が3本、秋のススキ畑のように尻から生えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました!

高見南純平
ファンタジー
最弱ヒーラーのララクは、ついに冒険者パーティーを100回も追放されてしまう。しかし、そこで条件を満たしたことによって新スキルが覚醒!そのスキル内容は【今まで追放してきた冒険者のスキルを使えるようになる】というとんでもスキルだった! ララクは、他人のスキルを組み合わせて超万能最強冒険者へと成り上がっていく!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...