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・フェードアウト されることのない世界
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―――――――――――――――――――――
【名称】マーナガルムの核
【区分】錬成アイテム
【効果】錬成でマーナガルムが誕生
【解説】強力な力を秘めた大狼の核
ボスクラスにつき、取り扱い注意
―――――――――――――――――――――
後には銀色に輝く石が残った。
イベントボスを無理矢理倒した報酬に、こんなレアドロップがあるとは知らなかった。
「信じられない……あたしたち、あれを倒しちゃったの……?」
「案外いけるもんだな」
「ちょっとっ、さっきは勝算があるって言ってなかった!?」
「あの生命力を見ただろ。戦力上の勝算はあるが、最終的にどうなるかはわからなかった」
地べたに座り込むと、シャーロットが隣にやって来て同じように崩れた。
体力を使ってしまった。これはこの後の成績に大きく影響するだろう。
進路では焼かれた生木が白煙を上げ、今は進もうにも進むことが出来ない。
ところがそこに、局所的な暗雲と豪雨が降り注いだ。
これは【スコール】の魔法だった。
どうやら本来のシナリオで救援に現れる、アルミ先生が到着したようだ。
「良かった、無事だったのねっ! ここで何があったの、二人ともっ!?」
俺たちはAランクモンスター・マーナガルムを倒した。証拠はこの核だ。
アイデンティファイをかけて、ここで何があったのかを先生に証明した。
「嘘ー……ヴァレリーくん、すごーい……」
素直なアルミ先生はあっさりと俺たちの言うこと信じてくれた。
・
その後、俺は疲労困憊の状態ではあるが、頂上への登頂を果たした。
順位は125名中、学年23位。もっと上を狙うつもりだったが、美味しいドロップが手に入ったので特に不満はない。
ちなみにミシェーラ皇女が3位、メメさんが4位、疲弊してしまったシャーロットは32位。成長途上のジェードは57位。コルリの順位は聞かないでおいた。
本来のシナリオではシャーロットはリタイア。主人公はステータスに応じて65~90位の順位を取る。
つまりジェードの好成績は、俺が育ててやったからこそのこの数字だった。ワシが育てた。
さて、ゲームではこの後、シーンがフェードアウトして時間が経過する。
地の文だけで、夜のバーベキューパーティと、ダンスを交えた演奏会があったことが語られる。
しかしこの世界で生きる1人の人間である俺には、もちろんシーンのフェードアウトなんて物足りないことは起きない。
バーベキューパーティを楽しんだ。
「昼は世話になったわね、スケベ男ヴァー」
賑やかな輪から外れ、暗がりで休んでいると、シャーロットに声をかけられた。
「スケベ男ヴァカと言われているような気がするから、その略称は止めてくれ……」
「アンタさ、Dランクでしょ?」
「おう、そうだけど?」
「せっかくのバーベキューパーティなのに、Dランクはつくねと野菜しか食べれないって、本当?」
「本当だよっ、悪いかよっ!?」
「ふふふっ、だったらこれあげる。先生にはナイショよ?」
一つ上のCランクのシャーロットが、腿肉の焼き鳥を差し入れてくれた。
「い、いいのか……?」
「食べて。だって腿肉は脂身多いでしょ、こういうの、ひかえてるのよ……」
「ひかえたところで胸は引っ込まないぜ」
「金串で刺し殺すわよっっ!!」
「魅力的なのにもったいない」
焼き鳥を受け取ってかぶりついた。
手元につくねが半分残っていたので、それと交換した。
「まったくアンタって男は、どこまでこれが好きなのよ……」
「みんな本心を隠しているだけで、男も女もみんなそうだ。みんなそれが好きだ」
「主語おっき過ぎだからっ、もうっ!」
「それはともかくありがとう、これ、ムチャクチャ美味い……」
「ふふ、差し入れたかいがあったわ。みんなで同じ物を食べられないのが、この学園の良くないところね……」
「ああ、まったくの同感だよ……。別々って、ちょっと寂しいなー」
「そうね……あたしもそう思う……」
だからこそ分け合う喜びもあるのかもしれないと、そう思いながら最後の腿肉を平らげた。
「そろそろ演奏が始まるわ、一緒に来なさいよ」
「演奏会な……。いや、俺、そういうのはちょっと……」
キャンプのダンスイベントには、生前から続く悲しきトラウマが……。
「いいから来なさいよっ! アンタのせいで成績ボロボロになったんじゃないっ!」
「お互い様だろ……うおっ!?」
「ふんっ、女の子に手を触られたくらいで、何ビックリしてるのよっ!! アンタ純情っ!?」
「そりゃ驚くだろ……お、おいっ?!」
シャーロットに引っ張られて演奏会の会場に向かうと、他のみんなも俺のことを待っていた。
本編にはない夜。本編では語られることのない月下の演奏会。
それを画面ではなく肌で感じられるなんて、俺は幸せ者だった。
良い思い出になった。
ただ一つの懸念を残して夜が更けていった。
「あはははっ、ヴァーってダンスが苦手なんだー!?」
「田舎者なんだよ、俺は」
「ふふっ、ミシェーラ皇女が気に入る理由、やっとわかった。これからはたまにかまってあげる」
「そりゃありがとよ、たまにかまってくれ。たまにな?」
俺はまた、狂気の17股に一歩近付いてしまったのだろうか。
ダンスの席でメメさんとミシェーラ皇女の視線が背中に突き刺さって、メチャクチャ痛かった……。
【名称】マーナガルムの核
【区分】錬成アイテム
【効果】錬成でマーナガルムが誕生
【解説】強力な力を秘めた大狼の核
ボスクラスにつき、取り扱い注意
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後には銀色に輝く石が残った。
イベントボスを無理矢理倒した報酬に、こんなレアドロップがあるとは知らなかった。
「信じられない……あたしたち、あれを倒しちゃったの……?」
「案外いけるもんだな」
「ちょっとっ、さっきは勝算があるって言ってなかった!?」
「あの生命力を見ただろ。戦力上の勝算はあるが、最終的にどうなるかはわからなかった」
地べたに座り込むと、シャーロットが隣にやって来て同じように崩れた。
体力を使ってしまった。これはこの後の成績に大きく影響するだろう。
進路では焼かれた生木が白煙を上げ、今は進もうにも進むことが出来ない。
ところがそこに、局所的な暗雲と豪雨が降り注いだ。
これは【スコール】の魔法だった。
どうやら本来のシナリオで救援に現れる、アルミ先生が到着したようだ。
「良かった、無事だったのねっ! ここで何があったの、二人ともっ!?」
俺たちはAランクモンスター・マーナガルムを倒した。証拠はこの核だ。
アイデンティファイをかけて、ここで何があったのかを先生に証明した。
「嘘ー……ヴァレリーくん、すごーい……」
素直なアルミ先生はあっさりと俺たちの言うこと信じてくれた。
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その後、俺は疲労困憊の状態ではあるが、頂上への登頂を果たした。
順位は125名中、学年23位。もっと上を狙うつもりだったが、美味しいドロップが手に入ったので特に不満はない。
ちなみにミシェーラ皇女が3位、メメさんが4位、疲弊してしまったシャーロットは32位。成長途上のジェードは57位。コルリの順位は聞かないでおいた。
本来のシナリオではシャーロットはリタイア。主人公はステータスに応じて65~90位の順位を取る。
つまりジェードの好成績は、俺が育ててやったからこそのこの数字だった。ワシが育てた。
さて、ゲームではこの後、シーンがフェードアウトして時間が経過する。
地の文だけで、夜のバーベキューパーティと、ダンスを交えた演奏会があったことが語られる。
しかしこの世界で生きる1人の人間である俺には、もちろんシーンのフェードアウトなんて物足りないことは起きない。
バーベキューパーティを楽しんだ。
「昼は世話になったわね、スケベ男ヴァー」
賑やかな輪から外れ、暗がりで休んでいると、シャーロットに声をかけられた。
「スケベ男ヴァカと言われているような気がするから、その略称は止めてくれ……」
「アンタさ、Dランクでしょ?」
「おう、そうだけど?」
「せっかくのバーベキューパーティなのに、Dランクはつくねと野菜しか食べれないって、本当?」
「本当だよっ、悪いかよっ!?」
「ふふふっ、だったらこれあげる。先生にはナイショよ?」
一つ上のCランクのシャーロットが、腿肉の焼き鳥を差し入れてくれた。
「い、いいのか……?」
「食べて。だって腿肉は脂身多いでしょ、こういうの、ひかえてるのよ……」
「ひかえたところで胸は引っ込まないぜ」
「金串で刺し殺すわよっっ!!」
「魅力的なのにもったいない」
焼き鳥を受け取ってかぶりついた。
手元につくねが半分残っていたので、それと交換した。
「まったくアンタって男は、どこまでこれが好きなのよ……」
「みんな本心を隠しているだけで、男も女もみんなそうだ。みんなそれが好きだ」
「主語おっき過ぎだからっ、もうっ!」
「それはともかくありがとう、これ、ムチャクチャ美味い……」
「ふふ、差し入れたかいがあったわ。みんなで同じ物を食べられないのが、この学園の良くないところね……」
「ああ、まったくの同感だよ……。別々って、ちょっと寂しいなー」
「そうね……あたしもそう思う……」
だからこそ分け合う喜びもあるのかもしれないと、そう思いながら最後の腿肉を平らげた。
「そろそろ演奏が始まるわ、一緒に来なさいよ」
「演奏会な……。いや、俺、そういうのはちょっと……」
キャンプのダンスイベントには、生前から続く悲しきトラウマが……。
「いいから来なさいよっ! アンタのせいで成績ボロボロになったんじゃないっ!」
「お互い様だろ……うおっ!?」
「ふんっ、女の子に手を触られたくらいで、何ビックリしてるのよっ!! アンタ純情っ!?」
「そりゃ驚くだろ……お、おいっ?!」
シャーロットに引っ張られて演奏会の会場に向かうと、他のみんなも俺のことを待っていた。
本編にはない夜。本編では語られることのない月下の演奏会。
それを画面ではなく肌で感じられるなんて、俺は幸せ者だった。
良い思い出になった。
ただ一つの懸念を残して夜が更けていった。
「あはははっ、ヴァーってダンスが苦手なんだー!?」
「田舎者なんだよ、俺は」
「ふふっ、ミシェーラ皇女が気に入る理由、やっとわかった。これからはたまにかまってあげる」
「そりゃありがとよ、たまにかまってくれ。たまにな?」
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