美少女ゲームの悪役令息に転生した俺、『本編先乗り』と【モンスター錬成】で原作を破壊する

ふつうのにーちゃん

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・主人公 学舎襲来す

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 あの後、メメさんに蹴られた。
 仲間外れにされたこと、ヘマの演出に肝を潰されたこと、単に蹴りたい気分であるだけのこと、などなどの理由で何度もすねを蹴られた。

 だがあの演出は俺なりに考えてのことだ。
 悪党を持ち上げてから奈落の底に突き落としたい底意地の悪さがあったことも認めるが、あれはこの世界の性質を推測した上での行動だった。

 この世界は物語だ。物語は盛り上がりを俺たち役者たちに求める。
 盛り上がりに欠ければ、底意地の悪い創造主がテコ入れにどんな露悪的な展開を用意するかもわからない。

 だからあそこで谷を作って検証してみた。
 その結果かどうかわからないが、シナリオ上では死ぬはずだったロバート・ペンネは逃亡に成功した。

 これは俺にとっても重要なことだ。
 やつがもしこの先も生き抜いたとすれば、それはシナリオ上の死の運命を自力で覆したことになる。
 悪行の程度差さえあれど、ヴァレリウスもまたヤツと同じ死の運命にある悪役だ。

 ロバート・ペンネは俺にとって、死の運命を観測する上での風見鶏だった。

 俺は滞在が日々の習慣となったこの場所から、朝を迎えた都の町並みを見下ろす。
 いかに高く壮大な時計塔の頂上からしても、ロバート・ペンネの生存を知り得る方法はどこにもなかった。

 今日は4月16日。
 主人公がこの魔法学院を訪れ、本当の意味での物語が始まる日だった。


 ・


 いつものようにミシェーラ皇女とメメさんと登校して、教室最後尾・窓際の自分の席に腰を落ち着かせた。
 画面にすら入らないわき役で良かった。そう思える瞬間だ。

「聞きましたっ、ヴァー様!? 新入生ですってっ!」

 そこにミシェーラ皇女とメメさんが来てくれた。
 ミシェーラ皇女の席は教室中央だ。その隣に不自然に空いている席で、これから主人公が座学に励むことになる。

「そうらしいな」

「メメは女の子がいいでごじゃる」

「いや、男だろうな」

「なんでわかるでごじゃる?」

「男の方が俺が付き合いやすい」

 答えになってない答えに、メメさんは机の下にある俺の足を踏んだ。
 するとちょうどそこに淡い桃色の髪を揺らしてコルリ・ルリハが登校して来た。

「あ、あのっ、おはようございます……っ! ヴァレリウスさん……あの、昨日は、何から何までありがとうございました……っ!」

 カバンを抱えたままの一直線でこの席に来てくれた。

「おう、せいぜい感謝してくれ」

「はいっ、します……っ! 何かあったらいつでも呼んで下さいっ、ヴァレリウスさん恩返し、したいですっ!」

「お、おう……。まあ別にいらねーけど、考えとく」

 男性恐怖症の女の子が勇気を出して主張する姿に、成長やかわいらしさを感じた。

「知ってるでしゅか? 今日、このクラスに転校生が来るでしゅよ?」

「あっ、それ、私も聞きました……っ。綺麗な顔の男の子、らしいですよ……っ」

「ほらなっ」

「残念、男でしゅか……。男はどうでもいいでしゅ……」

「私も、女の子が良かったです……」

 美少女ゲームの主人公は女の子、な。
 もしそんなことになったら、世界はガールズラブゲームになってしまう。

 クラスは転入生の話で持ち切りで、目の前の彼女たちも俺を置き去りにして噂話を続けた。
 コルリ・ルリハの横顔が楽しそうに明るく笑っている。

「ぁ……っ、な、何か……?」

「いや、別に何も」

 この前までこの世の終わりみたいな顔をしていたのに、コルリはすっかりと立ち直っていた。
 こちらの視線が恥ずかしいのか、今は顔をうつむかせている。

「気を付けるでしゅよ、コルリ。ヴァレリーはスケベの露出狂でしゅ」

「露、露出狂っ!?」

 おい……。
 いくらなんでもそれはないだろう、メメさん……。

「もう、メメったら。ヴァー様は元気になったコルリさんに、ただ安心しているだけですよ」

「いや別に、そんなんじゃねぇよ……」

 否定するとコルリにまた感謝され、2人には素直じゃないと笑われた。
 そして俺への興味が薄れると、彼女たちはまたかしましくあの噂話を再会する。

 それは鐘楼の鐘が鳴る前に担任が現れるまで、ずっと続いた。


 ・


「話はもう伝わっているみたいだね。今日は転入生の子を紹介するよ。……さあ、入って来てくれ」

 イスを後ろに傾けて行儀悪くもたれ掛かりながら、俺は気のない振りをして真のライバルの入室を待った。

 教室の引き戸がサッシの上を走って『ガラリ』と響き、ほっそりとした青年が教壇へと上がった。

 想像していたよりも背が低く、女性受けしそうな甘いマスクをしていた。
 その表情は落ち着いていて、注目に動揺するような様子はどこにも見当たらなかった。

「ジェイドです。訳あって、王立学問所からこちらへ転入することになりました。これから1年、どうかよろしくお願いします」

 一瞬、さっき妄想した主人公女の子説が頭の中をよぎった。
 それほどまでに彼の声は、変声期という概念を超越していた。

「彼、嫌がらせでここに飛ばされてしまったようでね、何もかもが未経験らしいんだ。良ければみんなでサポートしてやってくれるかな?」

「入学したからには全力を尽くします。どうか皆さん、よろしくお願いします」

 下手をすれば最初の迷宮実習で死にかけない転入生に、クラスメイトの反応はそれぞれだった。
 これが半年でトップグループの一角となるなんて、とても想像も出来ない細い手足だ。

「ん……?」

 どうしたのだろうか。どうも心なしか、主人公の顔が赤いような……。
 というかさっきから、俺のことばかり見ているような気がする……のだが、俺の思い込みか……?

 いや、違う、確かにこちらを見ている。
 だが、なんだ……?
 そんな目で見られても、お前にはミシェーラ皇女とメメさんは渡さないぞ?
 な、なんで、そんなに、俺のことを凝視するんだ、主人公よ……?

 敵視か? 敵視なのか、これは……?

「ジェードくんはそこの席を使ってくれるね?」

「はい」

 主人公――ジェードは指定の席に着席した。
 親切なミシェーラ皇女がシナリオ通りのお節介をかけ始めた。

「少し早いけど、もうやることもないし座学に入っちゃおうか」

 ブーイングの中でミシェーラ皇女とジェードの席がピタリとくっつけられた。
 同じ教科書を一緒に読むという、転入最初のお約束イベントを始める気だ。

 俺はそのムカつく光景を、メメさんと一緒に渋~い顔で睨んだ。
 やっぱり、コイツ、邪魔だ。
 何がなんでも主人公の座を奪い取らなければならない。強奪の決意が炎となって胸の中で再燃した。
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