美少女ゲームの悪役令息に転生した俺、『本編先乗り』と【モンスター錬成】で原作を破壊する

ふつうのにーちゃん

文字の大きさ
上 下
34 / 57

・主人公 学舎襲来す

しおりを挟む
 あの後、メメさんに蹴られた。
 仲間外れにされたこと、ヘマの演出に肝を潰されたこと、単に蹴りたい気分であるだけのこと、などなどの理由で何度もすねを蹴られた。

 だがあの演出は俺なりに考えてのことだ。
 悪党を持ち上げてから奈落の底に突き落としたい底意地の悪さがあったことも認めるが、あれはこの世界の性質を推測した上での行動だった。

 この世界は物語だ。物語は盛り上がりを俺たち役者たちに求める。
 盛り上がりに欠ければ、底意地の悪い創造主がテコ入れにどんな露悪的な展開を用意するかもわからない。

 だからあそこで谷を作って検証してみた。
 その結果かどうかわからないが、シナリオ上では死ぬはずだったロバート・ペンネは逃亡に成功した。

 これは俺にとっても重要なことだ。
 やつがもしこの先も生き抜いたとすれば、それはシナリオ上の死の運命を自力で覆したことになる。
 悪行の程度差さえあれど、ヴァレリウスもまたヤツと同じ死の運命にある悪役だ。

 ロバート・ペンネは俺にとって、死の運命を観測する上での風見鶏だった。

 俺は滞在が日々の習慣となったこの場所から、朝を迎えた都の町並みを見下ろす。
 いかに高く壮大な時計塔の頂上からしても、ロバート・ペンネの生存を知り得る方法はどこにもなかった。

 今日は4月16日。
 主人公がこの魔法学院を訪れ、本当の意味での物語が始まる日だった。


 ・


 いつものようにミシェーラ皇女とメメさんと登校して、教室最後尾・窓際の自分の席に腰を落ち着かせた。
 画面にすら入らないわき役で良かった。そう思える瞬間だ。

「聞きましたっ、ヴァー様!? 新入生ですってっ!」

 そこにミシェーラ皇女とメメさんが来てくれた。
 ミシェーラ皇女の席は教室中央だ。その隣に不自然に空いている席で、これから主人公が座学に励むことになる。

「そうらしいな」

「メメは女の子がいいでごじゃる」

「いや、男だろうな」

「なんでわかるでごじゃる?」

「男の方が俺が付き合いやすい」

 答えになってない答えに、メメさんは机の下にある俺の足を踏んだ。
 するとちょうどそこに淡い桃色の髪を揺らしてコルリ・ルリハが登校して来た。

「あ、あのっ、おはようございます……っ! ヴァレリウスさん……あの、昨日は、何から何までありがとうございました……っ!」

 カバンを抱えたままの一直線でこの席に来てくれた。

「おう、せいぜい感謝してくれ」

「はいっ、します……っ! 何かあったらいつでも呼んで下さいっ、ヴァレリウスさん恩返し、したいですっ!」

「お、おう……。まあ別にいらねーけど、考えとく」

 男性恐怖症の女の子が勇気を出して主張する姿に、成長やかわいらしさを感じた。

「知ってるでしゅか? 今日、このクラスに転校生が来るでしゅよ?」

「あっ、それ、私も聞きました……っ。綺麗な顔の男の子、らしいですよ……っ」

「ほらなっ」

「残念、男でしゅか……。男はどうでもいいでしゅ……」

「私も、女の子が良かったです……」

 美少女ゲームの主人公は女の子、な。
 もしそんなことになったら、世界はガールズラブゲームになってしまう。

 クラスは転入生の話で持ち切りで、目の前の彼女たちも俺を置き去りにして噂話を続けた。
 コルリ・ルリハの横顔が楽しそうに明るく笑っている。

「ぁ……っ、な、何か……?」

「いや、別に何も」

 この前までこの世の終わりみたいな顔をしていたのに、コルリはすっかりと立ち直っていた。
 こちらの視線が恥ずかしいのか、今は顔をうつむかせている。

「気を付けるでしゅよ、コルリ。ヴァレリーはスケベの露出狂でしゅ」

「露、露出狂っ!?」

 おい……。
 いくらなんでもそれはないだろう、メメさん……。

「もう、メメったら。ヴァー様は元気になったコルリさんに、ただ安心しているだけですよ」

「いや別に、そんなんじゃねぇよ……」

 否定するとコルリにまた感謝され、2人には素直じゃないと笑われた。
 そして俺への興味が薄れると、彼女たちはまたかしましくあの噂話を再会する。

 それは鐘楼の鐘が鳴る前に担任が現れるまで、ずっと続いた。


 ・


「話はもう伝わっているみたいだね。今日は転入生の子を紹介するよ。……さあ、入って来てくれ」

 イスを後ろに傾けて行儀悪くもたれ掛かりながら、俺は気のない振りをして真のライバルの入室を待った。

 教室の引き戸がサッシの上を走って『ガラリ』と響き、ほっそりとした青年が教壇へと上がった。

 想像していたよりも背が低く、女性受けしそうな甘いマスクをしていた。
 その表情は落ち着いていて、注目に動揺するような様子はどこにも見当たらなかった。

「ジェイドです。訳あって、王立学問所からこちらへ転入することになりました。これから1年、どうかよろしくお願いします」

 一瞬、さっき妄想した主人公女の子説が頭の中をよぎった。
 それほどまでに彼の声は、変声期という概念を超越していた。

「彼、嫌がらせでここに飛ばされてしまったようでね、何もかもが未経験らしいんだ。良ければみんなでサポートしてやってくれるかな?」

「入学したからには全力を尽くします。どうか皆さん、よろしくお願いします」

 下手をすれば最初の迷宮実習で死にかけない転入生に、クラスメイトの反応はそれぞれだった。
 これが半年でトップグループの一角となるなんて、とても想像も出来ない細い手足だ。

「ん……?」

 どうしたのだろうか。どうも心なしか、主人公の顔が赤いような……。
 というかさっきから、俺のことばかり見ているような気がする……のだが、俺の思い込みか……?

 いや、違う、確かにこちらを見ている。
 だが、なんだ……?
 そんな目で見られても、お前にはミシェーラ皇女とメメさんは渡さないぞ?
 な、なんで、そんなに、俺のことを凝視するんだ、主人公よ……?

 敵視か? 敵視なのか、これは……?

「ジェードくんはそこの席を使ってくれるね?」

「はい」

 主人公――ジェードは指定の席に着席した。
 親切なミシェーラ皇女がシナリオ通りのお節介をかけ始めた。

「少し早いけど、もうやることもないし座学に入っちゃおうか」

 ブーイングの中でミシェーラ皇女とジェードの席がピタリとくっつけられた。
 同じ教科書を一緒に読むという、転入最初のお約束イベントを始める気だ。

 俺はそのムカつく光景を、メメさんと一緒に渋~い顔で睨んだ。
 やっぱり、コイツ、邪魔だ。
 何がなんでも主人公の座を奪い取らなければならない。強奪の決意が炎となって胸の中で再燃した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...