27 / 57
・チュートリアルボス 本編前に倒される
しおりを挟む
かくしてなんの苦労もなく、給水装置のある地底湖に到達した。
ここでもシナリオ通りの状態になっていた。
この迷宮に設置された給水装置は、異常成長したブルースライムに現在乗っ取られている。
「先生もうやだぁーっ、帰りたーいーっ!」
「落ち着いて下さい、先生。あれだけ成長していようと、たかがブルースライムです」
まず先生を落ち着かせた。
ここでシナリオ通りの展開になってしまうと困るからだ。
「先生、ここは俺が戦いますので、レクチャーを」
給水機は動力部、取水機構、地上に水を転送する小型プールが1つとなった超大型機械だ。
それが今、ボス名ファット・ブルースライムの体内に包み込まれている。
「あ、あのね……スライム系には物理より魔法が効くわ……。マジックアローを中心に戦って……っ」
「わかりました、俺に任せて下さい」
シナリオ通り、アルミ先生のこの指示に従うと大惨事に発展する。
この装置はマジックアローのような純粋魔力を吸収する仕組みを持っているのだ。
シナリオでは主人公が撃ったマジックアローが原因となり、この給水装置が稼働してしまう。
そして装置はブルースライムごと、地上の水道設備に取水した水を転送する。
結果、魔法学院中の蛇口という蛇口から、ブルースライムが吹き出すという最悪の大惨事に発展してしまうのだ。
それによりファット・ブルースライムは弱体化し、主人公は見事これを倒すのだが……。
その後、地上で主人公とアルミ先生を待っていたのは、賞賛ではなく教頭によるお説教だった。
「あ、あの……っ、ヴァレリーくん……?」
「なんですか、先生?」
「それ、マジックアローじゃないような、気がするのですけどぉ……」
「はい、すみません」
水道管にスライムが流れ込むなんて人災は、俺だってお断りだ。
水道管のどこかにいつまでもこびり付いて、いつか脳とか食い荒らされそうで超嫌だ。
「えっ、ど、どんどん大きくなってる……っ!?」
「反撃される前に、これでアレを一撃で焼き払います」
「ヴァレリーくんって、すっごーい……」
通常の術者ならば制御し切れないその先まで、俺はファイアーボールを過剰増幅させた。
やがてバランスボールほどの火球となったそれは、俺の頭上で太陽のように赤々と燃え上がる。
「灼熱の火球よ、我が敵を焼き払い、その業炎をもって真理を書き換えよっ!! 爆ぜよっ、ファイアボールッッ!!!」
叫ぶ必要はない。だが言葉は時に言霊となって事実を書き換える。
俺は燃えさかる火球をヒュージ・ブルースライムおよび、乗っ取られた給水装置に投げ付けた。
着弾するなりただちに火球は爆裂し、ヒュージ・ブルースライムを爆散させた。
迷宮設置仕様の頑丈な装置に損傷はなかった。
「これでどうですか、アルミ先生?」
「あれを、一発……っ!? わぁぁぁ……すっごーい……」
「アルミ先生みたいな持久力はないですけどね」
動力部に微弱なアイスボルトを撃って冷却して、ハッチ解放のために試行錯誤した。
やけにゆるいレバーを引いてロックを解除すると、動力路のハッチが開き、入れっばまなしの【動力クリスタル】が姿を現した。
「え、えええーっ、なんでっ、それがそこにあるのーっ!?」
「前回使った時、抜き忘れたんじゃないでしょうか」
「何よ、それ……。それがブルースライムの異常成長の原因じゃない……」
「人迷惑な話ですね」
【動力クリスタル】をアルミ先生に預けた。
それから辺りを見回し、もしかしたらとお宝を探した。
湖の浅瀬に、ヒュージ・ブルースライムからドロップしたとおぼしき、トパーズに似た宝石が落ちていた。
―――――――――――――――――――――
【名称】ずぶ濡れの残滓
【区分】長剣
【効果】斬:57 薙:50 突:48
【解説】雷属性の力を秘めた剣
要注意・水に落ちるとあなたは死ぬ
―――――――――――――――――――――
アイテム名称は聞いたこともない名前だが、明らかにそれは中盤最強の長剣、ライトニングブラントだった。
単体ではまるで使い物にならないところからして、これもバグ・フラグメイントの一種なのだろうか。
「帰りましょうか、アルミ先生」
「先生、今日は驚きの連続でした……はふぅ……」
「俺もですよ。沢山の発見があった」
スチール絵がからむイベントは、回避しても別の形となってやって来る。
逆にスチール絵のないイベントは、こうやって難なく別の展開に書き換えることが出来る。
避けやすい展開と、避けにくい展開の見分け方がこれでわかった。
「……先生?」
検証に大きな手応えを感じていると、先生がピタリと隣に寄り添って来た。
そのお嬢様のように綺麗な手で、俺は右手をそっと両手に包み込まれてしまった……。
「頼りないかもしれませんが、これからも頼りにさせて下さいね、ヴァレリーくん……?」
「は、はい……?」
「先生、貴方になら、なんでもしてあげますから……なんでも、なんでも言って下さいね? なんでも……っ」
「な、なんでも……?」
やけに含みがあるように聞こえる『なんでも』だった。
「はい、なんでもお願いしてくれて、いいんですよ……っ♪ どんなことだって、先生がしてあげますから……」
早く帰ってパンツを履き替えたい俺は、頬染めて色っぽく見える先生を視界から外して、考えることを止めた。
狂気の17股主人公の役を乗っ取ると、こういうことになる……?
いや、今は考えたくない。17股なんてこっちからお断りだった。
ここでもシナリオ通りの状態になっていた。
この迷宮に設置された給水装置は、異常成長したブルースライムに現在乗っ取られている。
「先生もうやだぁーっ、帰りたーいーっ!」
「落ち着いて下さい、先生。あれだけ成長していようと、たかがブルースライムです」
まず先生を落ち着かせた。
ここでシナリオ通りの展開になってしまうと困るからだ。
「先生、ここは俺が戦いますので、レクチャーを」
給水機は動力部、取水機構、地上に水を転送する小型プールが1つとなった超大型機械だ。
それが今、ボス名ファット・ブルースライムの体内に包み込まれている。
「あ、あのね……スライム系には物理より魔法が効くわ……。マジックアローを中心に戦って……っ」
「わかりました、俺に任せて下さい」
シナリオ通り、アルミ先生のこの指示に従うと大惨事に発展する。
この装置はマジックアローのような純粋魔力を吸収する仕組みを持っているのだ。
シナリオでは主人公が撃ったマジックアローが原因となり、この給水装置が稼働してしまう。
そして装置はブルースライムごと、地上の水道設備に取水した水を転送する。
結果、魔法学院中の蛇口という蛇口から、ブルースライムが吹き出すという最悪の大惨事に発展してしまうのだ。
それによりファット・ブルースライムは弱体化し、主人公は見事これを倒すのだが……。
その後、地上で主人公とアルミ先生を待っていたのは、賞賛ではなく教頭によるお説教だった。
「あ、あの……っ、ヴァレリーくん……?」
「なんですか、先生?」
「それ、マジックアローじゃないような、気がするのですけどぉ……」
「はい、すみません」
水道管にスライムが流れ込むなんて人災は、俺だってお断りだ。
水道管のどこかにいつまでもこびり付いて、いつか脳とか食い荒らされそうで超嫌だ。
「えっ、ど、どんどん大きくなってる……っ!?」
「反撃される前に、これでアレを一撃で焼き払います」
「ヴァレリーくんって、すっごーい……」
通常の術者ならば制御し切れないその先まで、俺はファイアーボールを過剰増幅させた。
やがてバランスボールほどの火球となったそれは、俺の頭上で太陽のように赤々と燃え上がる。
「灼熱の火球よ、我が敵を焼き払い、その業炎をもって真理を書き換えよっ!! 爆ぜよっ、ファイアボールッッ!!!」
叫ぶ必要はない。だが言葉は時に言霊となって事実を書き換える。
俺は燃えさかる火球をヒュージ・ブルースライムおよび、乗っ取られた給水装置に投げ付けた。
着弾するなりただちに火球は爆裂し、ヒュージ・ブルースライムを爆散させた。
迷宮設置仕様の頑丈な装置に損傷はなかった。
「これでどうですか、アルミ先生?」
「あれを、一発……っ!? わぁぁぁ……すっごーい……」
「アルミ先生みたいな持久力はないですけどね」
動力部に微弱なアイスボルトを撃って冷却して、ハッチ解放のために試行錯誤した。
やけにゆるいレバーを引いてロックを解除すると、動力路のハッチが開き、入れっばまなしの【動力クリスタル】が姿を現した。
「え、えええーっ、なんでっ、それがそこにあるのーっ!?」
「前回使った時、抜き忘れたんじゃないでしょうか」
「何よ、それ……。それがブルースライムの異常成長の原因じゃない……」
「人迷惑な話ですね」
【動力クリスタル】をアルミ先生に預けた。
それから辺りを見回し、もしかしたらとお宝を探した。
湖の浅瀬に、ヒュージ・ブルースライムからドロップしたとおぼしき、トパーズに似た宝石が落ちていた。
―――――――――――――――――――――
【名称】ずぶ濡れの残滓
【区分】長剣
【効果】斬:57 薙:50 突:48
【解説】雷属性の力を秘めた剣
要注意・水に落ちるとあなたは死ぬ
―――――――――――――――――――――
アイテム名称は聞いたこともない名前だが、明らかにそれは中盤最強の長剣、ライトニングブラントだった。
単体ではまるで使い物にならないところからして、これもバグ・フラグメイントの一種なのだろうか。
「帰りましょうか、アルミ先生」
「先生、今日は驚きの連続でした……はふぅ……」
「俺もですよ。沢山の発見があった」
スチール絵がからむイベントは、回避しても別の形となってやって来る。
逆にスチール絵のないイベントは、こうやって難なく別の展開に書き換えることが出来る。
避けやすい展開と、避けにくい展開の見分け方がこれでわかった。
「……先生?」
検証に大きな手応えを感じていると、先生がピタリと隣に寄り添って来た。
そのお嬢様のように綺麗な手で、俺は右手をそっと両手に包み込まれてしまった……。
「頼りないかもしれませんが、これからも頼りにさせて下さいね、ヴァレリーくん……?」
「は、はい……?」
「先生、貴方になら、なんでもしてあげますから……なんでも、なんでも言って下さいね? なんでも……っ」
「な、なんでも……?」
やけに含みがあるように聞こえる『なんでも』だった。
「はい、なんでもお願いしてくれて、いいんですよ……っ♪ どんなことだって、先生がしてあげますから……」
早く帰ってパンツを履き替えたい俺は、頬染めて色っぽく見える先生を視界から外して、考えることを止めた。
狂気の17股主人公の役を乗っ取ると、こういうことになる……?
いや、今は考えたくない。17股なんてこっちからお断りだった。
93
お気に入りに追加
211
あなたにおすすめの小説

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~
春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。
冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。
しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。
パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。
そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました!
高見南純平
ファンタジー
最弱ヒーラーのララクは、ついに冒険者パーティーを100回も追放されてしまう。しかし、そこで条件を満たしたことによって新スキルが覚醒!そのスキル内容は【今まで追放してきた冒険者のスキルを使えるようになる】というとんでもスキルだった!
ララクは、他人のスキルを組み合わせて超万能最強冒険者へと成り上がっていく!

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる