美少女ゲームの悪役令息に転生した俺、『本編先乗り』と【モンスター錬成】で原作を破壊する

ふつうのにーちゃん

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・チュートリアルボス 本編前に倒される

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 かくしてなんの苦労もなく、給水装置のある地底湖に到達した。
 ここでもシナリオ通りの状態になっていた。
 この迷宮に設置された給水装置は、異常成長したブルースライムに現在乗っ取られている。

「先生もうやだぁーっ、帰りたーいーっ!」

「落ち着いて下さい、先生。あれだけ成長していようと、たかがブルースライムです」

 まず先生を落ち着かせた。
 ここでシナリオ通りの展開になってしまうと困るからだ。

「先生、ここは俺が戦いますので、レクチャーを」

 給水機は動力部、取水機構、地上に水を転送する小型プールが1つとなった超大型機械だ。
 それが今、ボス名ファット・ブルースライムの体内に包み込まれている。

「あ、あのね……スライム系には物理より魔法が効くわ……。マジックアローを中心に戦って……っ」

「わかりました、俺に任せて下さい」

 シナリオ通り、アルミ先生のこの指示に従うと大惨事に発展する。
 この装置はマジックアローのような純粋魔力を吸収する仕組みを持っているのだ。

 シナリオでは主人公が撃ったマジックアローが原因となり、この給水装置が稼働してしまう。
 そして装置はブルースライムごと、地上の水道設備に取水した水を転送する。

 結果、魔法学院中の蛇口という蛇口から、ブルースライムが吹き出すという最悪の大惨事に発展してしまうのだ。
 それによりファット・ブルースライムは弱体化し、主人公は見事これを倒すのだが……。

 その後、地上で主人公とアルミ先生を待っていたのは、賞賛ではなく教頭によるお説教だった。

「あ、あの……っ、ヴァレリーくん……?」

「なんですか、先生?」

「それ、マジックアローじゃないような、気がするのですけどぉ……」

「はい、すみません」

 水道管にスライムが流れ込むなんて人災は、俺だってお断りだ。
 水道管のどこかにいつまでもこびり付いて、いつか脳とか食い荒らされそうで超嫌だ。

「えっ、ど、どんどん大きくなってる……っ!?」

「反撃される前に、これでアレを一撃で焼き払います」

「ヴァレリーくんって、すっごーい……」

 通常の術者ならば制御し切れないその先まで、俺はファイアーボールを過剰増幅させた。
 やがてバランスボールほどの火球となったそれは、俺の頭上で太陽のように赤々と燃え上がる。

「灼熱の火球よ、我が敵を焼き払い、その業炎をもって真理を書き換えよっ!! 爆ぜよっ、ファイアボールッッ!!!」

 叫ぶ必要はない。だが言葉は時に言霊となって事実を書き換える。
 俺は燃えさかる火球をヒュージ・ブルースライムおよび、乗っ取られた給水装置に投げ付けた。

 着弾するなりただちに火球は爆裂し、ヒュージ・ブルースライムを爆散させた。
 迷宮設置仕様の頑丈な装置に損傷はなかった。

「これでどうですか、アルミ先生?」

「あれを、一発……っ!? わぁぁぁ……すっごーい……」

「アルミ先生みたいな持久力はないですけどね」

 動力部に微弱なアイスボルトを撃って冷却して、ハッチ解放のために試行錯誤した。
 やけにゆるいレバーを引いてロックを解除すると、動力路のハッチが開き、入れっばまなしの【動力クリスタル】が姿を現した。

「え、えええーっ、なんでっ、それがそこにあるのーっ!?」

「前回使った時、抜き忘れたんじゃないでしょうか」

「何よ、それ……。それがブルースライムの異常成長の原因じゃない……」

「人迷惑な話ですね」

 【動力クリスタル】をアルミ先生に預けた。
 それから辺りを見回し、もしかしたらとお宝を探した。

 湖の浅瀬に、ヒュージ・ブルースライムからドロップしたとおぼしき、トパーズに似た宝石が落ちていた。

―――――――――――――――――――――
【名称】ずぶ濡れの残滓
【区分】長剣
【効果】斬:57 薙:50 突:48
【解説】雷属性の力を秘めた剣
    要注意・水に落ちるとあなたは死ぬ
―――――――――――――――――――――

 アイテム名称は聞いたこともない名前だが、明らかにそれは中盤最強の長剣、ライトニングブラントだった。

 単体ではまるで使い物にならないところからして、これもバグ・フラグメイントの一種なのだろうか。

「帰りましょうか、アルミ先生」

「先生、今日は驚きの連続でした……はふぅ……」

「俺もですよ。沢山の発見があった」

 スチール絵がからむイベントは、回避しても別の形となってやって来る。
 逆にスチール絵のないイベントは、こうやって難なく別の展開に書き換えることが出来る。

 避けやすい展開と、避けにくい展開の見分け方がこれでわかった。

「……先生?」

 検証に大きな手応えを感じていると、先生がピタリと隣に寄り添って来た。
 そのお嬢様のように綺麗な手で、俺は右手をそっと両手に包み込まれてしまった……。

「頼りないかもしれませんが、これからも頼りにさせて下さいね、ヴァレリーくん……?」

「は、はい……?」

「先生、貴方になら、なんでもしてあげますから……なんでも、なんでも言って下さいね? なんでも……っ」

「な、なんでも……?」

 やけに含みがあるように聞こえる『なんでも』だった。

「はい、なんでもお願いしてくれて、いいんですよ……っ♪ どんなことだって、先生がしてあげますから……」

 早く帰ってパンツを履き替えたい俺は、頬染めて色っぽく見える先生を視界から外して、考えることを止めた。

 狂気の17股主人公の役を乗っ取ると、こういうことになる……?
 いや、今は考えたくない。17股なんてこっちからお断りだった。
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