美少女ゲームの悪役令息に転生した俺、『本編先乗り』と【モンスター錬成】で原作を破壊する

ふつうのにーちゃん

文字の大きさ
上 下
25 / 57

・チュートリアルシナリオ 主人公抜きで

しおりを挟む
 主人公の出番を横取りする。
 この新しい行動理念に則って、登校初日のうちに計画を立てた。

 まずはこれから発生させるつもりの[チュートリアルイベント]について説明しよう。
 これはNPCにゲームシステムをプレイヤーに説明させるためのイベントだ。

 ストーリーの建前では、プールなどに使うサブの給水施設に異常が発生したので、主人公とアルミ先生が協力して、訓練用迷宮の隠し区画を進む展開になる。

 これを主人公登場前に解決してやろう。
 そうすれば意外とあっさりと、俺が主人公になれるかもしれない。

 しかし猶予期間はあまりない。
 16日になれば主人公が転入して来てしまう。
 後の予定も押しているので、すぐにでもチュートリアル開始のために動く必要があった。

「さすがゲーム世界、早速引き締まって来たか?」

「なーいなーい、かんちがーい」

「クルルゥ……♪」

「がんばれー、だってー。へっ、このおひとよしがー」

「キュルゥゥゥ♪」

「あとなー、ちょっと、おいしそーだってよー。ちょっとー、ワレも、わかるー」

「はっ!? 恐いからそういうの止めろってっ、お前ら?!」

「もうちょっとー、そだてさせてからにー、しよーぜー?」

「キュゥ♪」

 どんな話をしているのかそれ以上は追求せず、俺は裏世界からアルミ先生を尾行した。
 青銅の剣で素振りをしながら、新学期2日目の放課後を女教師の尾行に費やした。
 ……そういう人生があってもいいと思う。

「アルミ缶、いどーしたぞー」

「ちょい待ちっ、なんでお前アルミ缶知ってんだよっ!?」

「まおーだしー」

「いや、まおー関係ねーだろ、そこっ!」」

 アルミ先生はさっきまで魔力容量強化室で、自主練に励む生徒たちのサポートをしていた。
 ここには魔力を人間の身体に流し込む機器がある。

 仕組みは風船だ。
 破裂しない範囲でほどほどの魔力を流し込み、割と無理矢理に容量を拡張する。

 そんなちょっと怖い魔力容量強化室からアルミ先生は離れ、どうやら分棟の1階に行くようだった。
 俺は青銅の剣を肩に担ぎ、ここ分棟2階エリアから、彼方にある分棟1階エリアに飛び移った。

「おいてくなーっ、ワレ、まおーだぞーっ、バカやろー!」

「キュキュッ、キュゥゥーッ♪」

 足の遅いまおー様はやさしいキューちゃんに拾われた。

「おー、わりーなー! そーだな、たぶん、あそこだなー」

「あそこ? あそこってどこだよ?」

「ごはん、くーとこ」

「キュゥゥーンッ♪♪」

 ずいぶんと甘い声でキューちゃんが鳴いた。
 食堂はキューちゃんお気に入りの場所のようだ。

「まさか、お前ら……」

「もらってっけどー? おねーさん、ワレらに、キュンキュンだしー? おんなのかお、するしー?」

「誇りある魔王が人間に餌をたかんなよっ!?」

「それー、えさだい、だしてからいえよなー?」

「うぐっ?!」

 収納状態ならばテイムモンスターが空腹になることはない。
 だから収納を拒むお前たちが悪い。
 そう口にしたら、俺たちの信頼関係は破綻するだろう。

「お。……おねさーん、いまいねーなー?」

「先生、本当に食堂に向かったな……。だけど今って、注文が出来る時間じゃないよな……?」

「ちっちっちっ、わかってねーなー、おまえー」

「何がだよ……」

「おねえさん、いないほうが、いいにきまってんだろー?」

「……は? え、いや、まさか、お前ら……」

「へっ、これいじょうは、いえねーな……」

 お前ら普段からあそこに忍び込んで、つまみ食いをしているのか……?
 俺が少し物足りないDランクの食事で我慢しているのに、こいつら、マスターの気も知らないで、なんて勝手なことを……。

「駆除されても知らねーぞ……」

「へっ、ならこのせんせーも、くじょだなー」

「何言ってんだよ。お上品なアルミ先生がつまみ食いなんて下品なこと、するわけ――」

 ないはずなのだが……。
 俺の足元には、食堂のフライパンを勝手に使って、炎魔法で肉厚のソーセージをあぶっている女性がいた。

「そんな、ずるいよ、アルミ先生……」

「ほらなー。ここきたらー、ほかにすること、ねーしなー?」

「けど、すごいな、ドラゴンズ・ティアラの世界……。アルミ先生にこういう一面があったんだな……なんか感動だ……」

「はー、これだからなー、マニアはなー、こまるー」

 しかし先生、俺はいつ死亡フラグに呑まれるかもわからない身の上だ。
 夕飯が待てないその気持ちはわかる。だが、このチャンス、悪いが利用させてもらおう!

 俺は再び駆けて分棟2階マップに飛び移ると、そこにある壁抜けポイントから表の世界に戻った。

 そして階段を駆け下り、食堂に近付くと足音を潜め、我がクラスの副担任の犯行現場を押さえるために忍び寄った。

「もう1つくらい、焼いても気づかないかしら……?」

「いやバレてると思うけど」

「ひっ、ひゃはぁぁーっっ?!!」

 後ろから声をかけると先生は床にひっくり返りそうになった。

「どうも、アルミ先生」

「あっあっあっ、ヴァレリーくんっ!? ち、違うのっ、これは、先生……っ、食堂の人にっ、味見をお願いされていただけなの……っ!」

 メメさんがヴァレリーと呼ぶから、こっちの略称で覚えられてしまったようだ……。

「ヴァレリウスです」

「ヴァ、ヴァリリュウス、くん……っ」

 相当に動揺しているようだ。
 自分が噛みまくっていることにすら、先生は気付いていない。

「先生もつまみ食いとかするんですね」

 本編の主人公はやさしい人だから、この人をこんなふうにいじめることはない。
 だがこうして前にすると、メメさんじゃないが、いじめてオーラが先生から立ちこめているように見えた。

「お、お願い、他の先生には黙ってててっ! せ、先生……なんでもするから……ねっ、お願い……どうかお願い……っ」

 純愛系、だよな、このゲーム……?
 その気になれば鬼畜な方向にも運べそうな、脅迫まがいのストーリー展開が俺には見えた。

「どうしようかな」

「お、お願い……先生、これ以上失敗したら、減俸されちゃう……」

 減俸? 減俸は俺も死ぬほど嫌だ。
 というかこの強烈ないじめてオーラに、初志を忘れてしまいかけていた。

 俺は先生をいじめるのではなく、チュートリアルイベントを始めさせるために、ここに来たのだった。

「そんなに失敗続きなんですか?」

「うん……」

 教師が生徒に『うん……』はないだろう。
 とにかく場所を移そうと外に誘って、食堂の席に移動した。

「よかったら俺、愚痴とか相談、聞きますけど」

 いや教師が生徒にそんなこと出来るわけがないか。
 なら、別の手口から――

「い、いいの……?」

 いやいいのかよっ!
 普通立場逆だろっ!?
 教師の沽券こけんどうなってんだよ!?

「同じクラスの人間じゃないですか。聞きますよ」

「ヴァレリーくん、カレール教頭先生のこと、知ってる……?」

「ああ、あのヅ――じゃなくて、あの小者の方ですか」

「ちょっと失敗するたびに、あの人がね、先生のこと、いじめるの……」

「そりゃ先生、いじめてオーラ出てますしね」

「ええっ、嘘ーっ?!」

 自覚がなかったことに驚きだ。
 勤続2年目の気弱な女教師なんて、説教したいだけのロートルには格好のサンドバックだろう。

「先生、あの人のせいでもう、ストレスがマッハなの……っ」

「それはわかる。俺も試験で突っかかられた」

「それにね、先生……やらなきゃいけない仕事があるのに、嫌で嫌で、ずっとやってないの……」

「それは社会人としてどうかと思う」

「ひーん……っ」

 いるんだな、今時『ひーん』とか言う人。昭和のラノベみたいでなんか新鮮だ。
 しかし『嫌でやっていない仕事』か。

「手伝いましょうか?」

「え……っ!?」

「俺、先生の力になりたいんです。いじめたりしないですから、なんでも俺に言って下さい」

「補助水路……」

 ボソリと先生がその単語を漏らしたとき、俺は笑いを噛み殺すので必死だった。
 これで主人公に先んじて、チュートリアルイベントを発生させられる。

「先生ね、補助水路の点検を押し付けられたの……。でも、あそこ、不気味でね……先生、怖くて逃げ帰って来ちゃった……」

 検証成功だ。
 サブキャラによるメインストーリーの先乗りは可能だった。

「わかりました、一緒に行きましょう」

「いいの……?」

「俺、先生の教室の生徒ですから、先生の助けになりたいんです」

「じーん……。あ、ダメ、見ないで……っ。先生、今、泣いちゃいそう……っ、う、ぅぅ……っ、教師になって、良かったぁ……っ」

 この人、なんか、無性に、いじめたい……。
 だがそれはおかしなルートに分岐しかねない危険な選択肢だ、自重しよう。
 うるうると瞳を揺らす先生の手を取った。

 ううーん、やっぱりいじめたい……。

「では、今から行きます?」

「えっ、今からっ?!」

「嫌な仕事はさっさと終わらせた方が気が楽ですよ。行きましょう、アルミ先生」

「そ、そうね……! ありがとう、ありがとう、ヴァレリーくんっ!」

 先生の手を引いて立ち上がらせて、食堂の外へと引っ張った。
 その去り際、食堂のお姉さんがこちらを見ていることに今さらになって気付いた。

「まったく情けない先生だよ。しょうがないね、今日のところは勘弁しやるかねぇ……」

 自分のことで頭がいっぱいいっぱいのアルミ先生には、お姉さんの言葉が聞こえているようには見えなかった。

 いつもうちのテイムモンスターたちがお世話になっています。
 本当に本当にすみません……。
 俺はお姉さんに頭を下げて、いじめたくなる先生と冒険に出かけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました!

高見南純平
ファンタジー
最弱ヒーラーのララクは、ついに冒険者パーティーを100回も追放されてしまう。しかし、そこで条件を満たしたことによって新スキルが覚醒!そのスキル内容は【今まで追放してきた冒険者のスキルを使えるようになる】というとんでもスキルだった! ララクは、他人のスキルを組み合わせて超万能最強冒険者へと成り上がっていく!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...