美少女ゲームの悪役令息に転生した俺、『本編先乗り』と【モンスター錬成】で原作を破壊する

ふつうのにーちゃん

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・決闘騙し討ち クズ兄ざまぁ

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 鈍い黄金色に輝くネルヴァの片手杖と、ただの棒きれがぶつかり合った。

 片方は真鍮、もう片方は木材とも呼べない木の枝。
 されど魔力を帯びた双方の得物は、それぞれが殺傷力を持った凶器となって幾度と打ち鳴らされた。

「やるじゃねぇか! てっきりお前のことだから、魔法兵を盾にするかと思ったぜ!」

「戦士科目ボロボロの貴様が接近戦だと!? この俺をどこまで愚弄するっっ!!」

 仕様上、こっちの方が効率的なんだよ。
 魔法耐性の高い魔法使い同士で遠距離魔法を撃ち合っていたら、魔力のロスが大きくなってしまう。

 情けない話だが、魔力容量ならばネルヴァが圧倒的に勝る。
 よって近接戦がここは正しい。

「ヴァレリウスをひねり潰せ、FM11!!」

 何それ、どこのラジオ局?
 とツッコミを入れたいところだが、それは戦士型軍用魔法機兵11世代型のことだ。

 武装は長刀グレイブ
 身長2メートル、全重量600キロを超える不動の人型兵器だ。

 まおー様もキューちゃんも小柄な遊撃タイプであるので、魔法兵相手ではストッピングパワーに欠けていた。
 ネルヴァが後退し、入れ替わりでグレイブを持った魔法兵がこちらに迫る。

「逃がすかよ!!」

「なっ、何?!」

 俺はその魔法兵に突進した。
 それを見るや否や、上空より援護の氷の誘導弾が4発、魔法兵を貫いた。
 キューちゃんとキューちゃんに乗ったまおー様による、2連装アイスボルトの合体攻撃だ。

 間接部の凍結により魔法兵の腕部がきしみ、グレイブによる薙ぎ払いが鈍る。
 援護のおかげで難なく俺は魔法兵の足下をすり抜け、ネルヴァに得物を叩き付けた。

「こ、この動きはっ、な、なんなのだっ?! うっ、がっ、こ、このっ、うっ、うぉっっ?!」

 勝負に持ち込んだ剣道選手のように激しくたたみ掛けた。
 今日まで予定外の連続ではあったが、だいたいは当初のチャート通りだ。

 テイムで得たステータスボーナスと、【魔法制御力】による魔力の物理攻撃への転化により、俺はネルヴァを圧倒していた。

「FM11っ、援護を――んなぁぁっっっ?!」

「こんな時に余所見か、ネルヴァッ!」

 2体のFM11魔法兵ならば、キューちゃんの白い翼と2連装アイスボルト2門に翻弄されている。

 接近して自分に注意を引き付けつつアイスボルトを射撃して、戦闘機のようにキューちゃんは華麗に離脱する。当たらなければどうということはない。
 俺のテイムモンスター強過ぎだった。

「舐めるな……っ、俺を、舐めるなよ、ヴァレリウスッッ!!」

「うおっ?!」

 ネルヴァは足下にマジックアローを叩き付けた。
 乾いたやわらかい砂を術で巻き上げて、こちらの視界を奪い距離を取った。

「目、目が……くぅっ、この前の仕返しかよ……っ」

「全力でゆくぞ、ヴァレリウスッッ!!」

「おうっ、やれるもんならやってみろよ……っ!」

 左目を閉じたまま、右目だけでネルヴァの動きを見た。
 自分の間合いを確保したネルヴァは勝負に持ち込むつもりのようだ。

 ヤツが手に入れた【大魔導師】スキルは、持ち主に多彩な属性魔法への適正を与える。加えてここが強力なのだが、術の魔力消費が1/2となる。

「思い知れ……これが天才と凡才の差だ!! 貴様のような落ちこぼれの弟がっ、兄に勝つなど間違っているのだ!!」

「付ける薬なしかよ……。ならその落ちこぼれの弟に、全力を叩き付けて見せろよっ!!」

「言われるまでもないっ!! 焼けただれ凍り付き、雷撃に撃たれて全身を風に切り裂かれて死ぬがいいっ!!」

 手の内明かすバカがいるかよ。
 ネルヴァはこちらの予想通り、ありとあらゆる属性魔法を駆使してラッシュを仕掛けてきた。

 しかし俺は知っている。
 こういうのは負けフラグだ。
 小技を気力の限り撃ちまくった後に『ぜぇぜぇ、くっ、やったか……!?』とか言ってしまうやつだ。

 炎、氷、雷、風、光、闇、無。
 当たれば痛いどころではない全ての下級魔法から、俺は地を駆け抜けて逃げた。

 避けたのではなく、逃げただ。
 砂煙と爆発舞い上がる特撮の山場のようにスローモーションに感じられる世界を走り、俺はFM11の陰に逃げた。

 戦士型軍用魔法兵は【魔法ダメージ1/2カット】の特性を持っている。
 軍用だけあってHPもやたらに高く、壁にするなら最適の隠れ蓑だった。

「はあっはぁっはぁっはぁっ……や、やったか……!?」

 マジで言っちゃうのかよ、そのセリフ。
 すぐには返事を返さず、砂煙が少し落ち着いたところで俺はネルヴァに向けてゆっくりと前進した。

「なっっ?!」

 殺すつもりでありったけの魔力を叩き付けたのに、殺戮の爆心地から足音が近付いて来る。

 ネルヴァが脚をもつれさせ、恐怖に後ずさる。そんなイメージを連想させる物音が聞こえた。
 砂煙の向こうにネルヴァの姿を見つけた。ネルヴァも同じだ。目を見開いて余裕の弟に驚いていた。

「な……なぜ、生きている……なぜ、無傷なのだ……!?」

「何度も言っただろ、あの親とは縁を切った方が良い」

「長男である俺にっ、お前のような惨めな生き方をしろと言うかっ!!」

「今はお前の方がずっと惨めだ。仕送りを断たれるのが恐ろしくて、18にもなってクズ親に逆らえないお前のどこが男だ」

「だ、黙れ……っ!!」

「がんばれば俺たちは奨学金を貰える。奨学金さえあれば、お前だってあんな毒親に従う理由はないだろ。目を覚ませよ、ネルヴァ!」

 我ながらあまり賢くない行動だと思った。
 せっかくネルヴァがヴァレリウスの役割を代わってくれそうな動きをしてくれているのに、こんなことを言ったら台無しになりかねない。

「家を出る、か……。そんなこと……俺に、出来ると思うか……?」

「出来るよ。お前は努力家だ、いつかデカいことを成す男だ」

「ヴァレリウス……」

 握手を求めるようにネルヴァが腕を差し伸べる。
 俺はそれに応じた。俺の中のヴァレリウスがそれを望んだ。

「ダメッ、罠ですっ、ヴァー様!!」

 そう、だがそれは兄弟の情を利用した卑劣な罠だった。
 握手とは反対側の腕から、集束されたマジックアローが俺の左胸を狙って放たれた。

「ガハッッ?!!」

「ヴァレリーッッ!!」

 やられた。こんなバカみたいた手に引っかかってしまった。
 ネルヴァは味方側のキャラクターだという思い込みが、俺の中にあったのだろう。

 俺は左胸を抱えて激痛にうずくまった。

「やったっやったぞっ、ヴァレリウスを殺してやったぞ!! バカめっ、最後まで立っていた者が勝者なのだ!!」

 つくづく勘違いも甚だしい男だ。
 弟の心臓を、弟の使っていた技で貫いたと、ネルヴァはそう勘違いしている。
 俺は立ち上がろうとしながらも、前のめりに倒れる敗者を演じた。

「そんな、ヴァー様ッッ!!」

「あの男っ、メメがぶっ殺すでしゅっっ!!」

 ネルヴァの誤算はまおー様の【耐139】とキューちゃんの【耐20】をソースとしたステータスボーナスだ。

 テイムではこの数値から25%がマスターに加算される。計算すると少数切り上げで【耐+40】のボーナスだ。
 耐1につき【守備力】と【魔法防御力】に+1、【HP】に+10の補正がかかるので、今の俺はHP500近い終盤キャラクター並みの魔法使いということになる。

 よって、とっさの不意打ちで急所を突かれたところで、ゲーム上こんなことで死ぬわけがない!
 俺は倒れると見せかけて力強く大地を踏み締め、右の拳を硬く握り締めてバネのように跳ねた。

「ネルヴァッッ!!」

 ネルヴァの右頬を殴り飛ばすために!
 全身全霊の右ストレートをネルヴァは弟にぶち込まれ、きり揉み回転で吹っ飛んだ!

「だったら、これで俺の勝ちじゃねーか!」

 最後まで立っていたのは俺、ヴァレリウスだ。ネルヴァではない。

「いっ、ててて……うおっ、血が出てるじゃねーかよ……っ」

「ぅっっ、ぅ……ぉ……ぉぉぉぉ…………。バ……バカ……な…………」

 言葉を残し、ネルヴァは白目を剥いた。
 息はある。死んではいないようだった。

 辺りを見回せばあの結界が消えている。
 ミシェーラ皇女とメメさんが外側から解除してくれていた。

 ラジオみたいな名前の魔法兵は、片方がブレスによる炎上、もう片方がアイスボルトに関節という関節を貫かれて機能停止していた。

「軍用兵器に勝っちまうとはな……。やるじゃん、キューちゃん、まおー様……」

「おまえもなー。おまえー、だいじょうぶかー……?」

「キュゥゥ……」

「おう、こんなものメメさんたちに治してもらえば――あたたた……っ」

 緊張が解けると胸にまた劇痛が走った。
 仰向けに横たわると少し楽だった。
 メメさんとミシェーラ皇女が傍らにやって来て、貫かれかけた胸に回復魔法使ってくれた。

「患部が見えないでしゅね……。姫様、ひっぺ返すのであちらへどうぞでごじゃります」

「わかった、ローブを脱がせばいいのね!」

「ちょ、止めっ、ダメッ、止めて……っ!?」

「ごめんなさい、ヴァー様、他に傷があったら大変ですから! あら……っ?」

 左胸の患部まで、ローブを下からまくられた。
 そこにはローブの下にパンツ1枚だけで暮らす貧乏人の姿があった。

「キャッ、キャァァァッッ?!!」

「やっぱりパンイチだったでしゅ……」

「わかってんなら止めろよ……っ」

 学生服はクリーニング代がかかるので、あまり着たくない。

「姫様にもそろそろこちらの教育が必要でごじゃります。姫様、たんと御観察下さい、これが醜い男の身体でごじゃります」

「ま、まぁ……っ、こ、これが噂に聞く、あの……」

「醜いゆーな……」

 メメさんの手から黄緑色の治癒の光が消えた。
 俺は立ち上がり、ローブの中身の貧相な中身を隠した。

「さて、どうすっか、コイツ……」

「はい、突き出しましょう!」

「突き出すって言ってもな、ここの統治者はうちの親父だしなぁ……」

「どんどんバカになるわけでしゅね」

「ま、それは残りの昼飯食ってから考えるか」

「大さんせーでしゅっ! こんなやつのために予定を変えるなんて、メメはお断りでしゅ!」

 そんなわけで俺たちはネルヴァを木に縛り付け、楽しいピクニックを再開した。
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