美少女ゲームの悪役令息に転生した俺、『本編先乗り』と【モンスター錬成】で原作を破壊する

ふつうのにーちゃん

文字の大きさ
上 下
16 / 57

・モブキャラとヒロイン ピクニックに行く

しおりを挟む
「おはようでごじゃります、ヴァレリー」

「うおっっ?!」

 朝、目を覚ますとおでこを赤くしたメメさんがマウントポジションを取っていた。
 そう、マウントポジションだ。目覚めるなり俺は生殺与奪権を奪われていた。



「メメは今少し、イライラしておりましゅ。なして、ここに来るために、頭ボコボコにしないといけないでしゅか……?」

「壁抜け、自分で試したのか」

「ここに来るために30分もかかったでしゅよっ! なんて迷惑なところに住んでいるのでしゅかっ!」

「うっ、げふっっ、や、止めろっ?!」

 メメさんは親戚のお兄さんで遊ぶ幼女のように、人の腹の上で暴れ回った。
 メメさんの肌はきめ細かくすべやかだ。
 腹に伸し掛かる重さよりも、変な笑みを漏らしそうな自分と戦った。

「頭痛いでしゅっ!」

「それは今だけだ。慣れればスッと入れるようになる」

「こんな芸当が出来るのはヴァレリーだけにごじゃりますよ!」

 辺り判定バグのある壁に、決まった角度でぶつかるだけのことを大げさな。

「……で、ここに来た用件は?」

「11時の鐘が鳴ったら姫様の部屋に来るでしゅ!」

 たったそれだけを伝えるために、30分も壁に体当たりを続けたのか。
 まあそれは、キレるかもわからないな。

「わかった」

「姫様はヴァレリーなんかのために、お昼ご飯を作ってやってるでごじゃる」

「えっ!?」

「せいぜい楽しみにしているでごじゃるよ! この幸せもんがっ!」

「マ、マジ……か……?」

 ゲーム世界のヒロインが、主人公以外にそういうことして、良いのか……?
 俺のシナリオ破壊計画はすこぶる順調か……?

「何ボーッとしとるんでしゅかっ! 話は終わったんだからメメを元の場所に戻すでしゅっ! もう頭痛いのは嫌でしゅ!」

「それ、マウントポジション解いてから言ってくれねぇ?」

「むふふっ、メメがその気になればヴァレリーなんて3分で挽き肉でしゅ」

「勘弁してくれ、メメさん……」

 メメさんを特別ランクの学生寮の前に連れて行き、ちゃっかりと肩を抱くように壁へと押し込んで元の寮室に帰した。

 今日はミシェーラ皇女とメメさんとピクニックだ。
 スポットは故郷、タミルの町の丘。
 あそこなら人気もなく、風光明媚でもあるので皇女様とのピクニックにも最適だった。


 ・


 11時の鐘に合わせてミシェーラ皇女の寮室の壁をすり抜けた。
 するとすぐ目の前に、大きなバスケットを抱えたミシェーラ皇女とメメさんの姿があった。

「ふふっ、本日は私のわがままにお付き合い下さりありがとうございます」
「あ、ああ……。ところで、その頭……」

 ミシェーラ皇女のおでこが赤く腫れていた。

「はい、ダメでした。難しいですね……一度も成功しませんでした……」

「姫様はご自分ですり抜けてみせて、ヴァレリーを脅かすつもりだったでごじゃります」

「はい、そうなのです! コツ、教えて下さります……?」

「いいぜ」

「ひゃっ?! だ、大胆ですね、貴方……」

 ミシェーラ皇女の背中に腕を回して壁の前に連れて行った。

「姫様に変な気を起こしたら八つ裂きでしゅよ?」

「わかってるって。ここの壁抜けポイントは、ここだ。この壁に、この角度で、こうだっ!」

 バスケットごとミシェーラ皇女を裏世界に送った。

「次、お前の番な」

「待つでしゅ。そこの壁に印付けとくでしゅ」

「お、いいかもな、それ」

 ミシェーラ皇女のインクペンを借りて、壁に十字を刻んでから俺たちはピクニックに出かけた。


 ・


 タミルの町の路地裏から表に出て、丘に続く未舗装の道を上がり、息を切らすことなく大股でどんどん上がってゆけば、そこがヴァレリウスの思い出の地だった。

 幼いヴァレリウスはここで、死んだ母親とよく過ごしていたようだ。
 人格の交代で記憶があいまいだが、いざここにやって来ると、わけもなく胸が締め付けられた。

「ワレらー、あそんでくるねーっ!」
「キュッ、キュルルッ、キュルゥゥーッッ♪」

 まおー様とキューちゃんは再召喚を使ってここに呼んだ。
 何せこいつら、やかましい上に目立つからな……。

 なだらかな丘の平らなところに、赤い厚布のレジャーシートを敷いて、そこにバスケットを並べた。
 片方にはミッチリと、耳のないサンドイッチが詰まっていた。

 もう片方は肉だ。そう肉だ。
 手作りのローストビーフを中心に、その周囲にハムがミッチリ詰まっている。
 天国のような光景だった……。

「す、すげ……さすが皇帝家……。てかこれ、お姫様が食う昼食じゃねーだろ……」

「姫様は血滴るレア肉がお好きごじゃります」

「さあ、どうぞ、ヴァー様」

「おおっ、肉だ、肉っ! じゃ遠慮なく、いただきます!」

 俺は銀のフォークに刺さったローストビーフをいただき、そのご馳走を口の中で噛みしめた。

 美味過ぎる……。
 つい先日までFランクの不味い飯ばかり食べていた俺には、あまりの美味しさによだれが止まらなくなるほどの味わいだった。

「ど、どうされたのですか……っ!?」

「肉食べて泣く人初めて見たでしゅ……」

「あの親に待遇Fランクに落とされて、仕送りもない酷い生活してたんだ。美味過ぎて、感動した……」

「ふふふっ、料理人冥利に尽きます。他でもないヴァー様に喜んでいただきたくて作った物ですし……。ふふ、うふふふ……」

 皇女様はえらく機嫌が良い。

「Fランクの学食って、どれくらい酷いんでしゅか……?」

 Fランクの食事について説明しながら、ハムチーズサンドを受け取ってガツガツと腹に収めた。

「あの学園、やり過ぎでしゅ……」

「パンって、硬くて石が入ってる物もあるんですか!? 知りませんでした……」

 ミシェーラ皇女とメメさんがますます輝いて見えるようになった。
 そこいらの犬猫よりも餌付けに弱い俺を、二人は楽しそうに見守ってくれた。

 俺、決めた……。
 主人公にはこの二人を渡さない。
 俺はミシェーラ皇女を見つめ、そう胸に決めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました!

高見南純平
ファンタジー
最弱ヒーラーのララクは、ついに冒険者パーティーを100回も追放されてしまう。しかし、そこで条件を満たしたことによって新スキルが覚醒!そのスキル内容は【今まで追放してきた冒険者のスキルを使えるようになる】というとんでもスキルだった! ララクは、他人のスキルを組み合わせて超万能最強冒険者へと成り上がっていく!

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

ゲーム中盤で死ぬ悪役貴族に転生したので、外れスキル【テイム】を駆使して最強を目指してみた

八又ナガト
ファンタジー
名作恋愛アクションRPG『剣と魔法のシンフォニア』 俺はある日突然、ゲームに登場する悪役貴族、レスト・アルビオンとして転生してしまう。 レストはゲーム中盤で主人公たちに倒され、最期は哀れな死に様を遂げることが決まっている悪役だった。 「まさかよりにもよって、死亡フラグしかない悪役キャラに転生するとは……だが、このまま何もできず殺されるのは御免だ!」 レストの持つスキル【テイム】に特別な力が秘められていることを知っていた俺は、その力を使えば死亡フラグを退けられるのではないかと考えた。 それから俺は前世の知識を総動員し、独自の鍛錬法で【テイム】の力を引き出していく。 「こうして着実に力をつけていけば、ゲームで決められた最期は迎えずに済むはず……いや、もしかしたら最強の座だって狙えるんじゃないか?」 狙いは成功し、俺は驚くべき程の速度で力を身に着けていく。 その結果、やがて俺はラスボスをも超える世界最強の力を獲得し、周囲にはなぜかゲームのメインヒロイン達まで集まってきてしまうのだった―― 別サイトでも投稿しております。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...