美少女ゲームの悪役令息に転生した俺、『本編先乗り』と【モンスター錬成】で原作を破壊する

ふつうのにーちゃん

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・まおー 誕生する

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 俺は樫の杖の底部を使って、真っ黒な床に双子の円を描いた。
 ヴァレリウスの持つ【モンスター錬成スキル】がそれを紋章に変え、それから俺はその外周に全てを包む大円を描いてゆく。

 左側の円には触媒とする物を。
 右側の円には強化するモンスター、あるいは誕生させるモンスターの核を置く。
 錬成の準備はこれで完了だった。

「生じよ、ヴァレリウス・ヴァィシュタインが眷属、最弱モンスター・ブルースライムよっっ!!」

 最後に杖を突いて術式を締めれば、10秒でモンスターの誕生だ。
 ここでも別に叫ぶ必要はどこにもない。叫びたいから叫んだ。

「ハハハハッ、来たっ! やっぱ材料からしてバグるよな、これっっ!!」

 通常なら属性に合わせたエフェクトがかかる。
 ブルースライムなら水系の綺麗なエフェクトだ。

 しかしそのエフェクトには今、黒いブロックノイズが無数に走り、16進法の文字列が浮かび、『ザザザザ……』と怪しいノイズが混じる。

 どれもバグった証拠だ。
 どれも俺の大好きなものだった。

「ワレを、よびさますのはー、だれだー!」

 まさか錬成事故か……!?
 術の完了の寸前に甲高い声が響き、俺は杖を身構えた。

「クッ……ヤバいやつかっ!?」

 モンスター錬成前はセーブがお約束だ。
 錬成事故が発生する可能性があり、かつ錬成事故後に戦闘に発展することがある。
 とてつもない強敵に全滅させられたこともこれまで5度ほどもあった。

「クッ、クッ、クッ、クッ……おろかなー、にんげんめー。このワレがなにものかー、しらずにー、つくりだしたなぁー……?」

 無数の水玉が爆散し、ついに恐るべきバグモンスターの正体があらわになった。
 あれはブルースライムではない!
 あんなやつはゲームデータ上には存在していない! あれは!

「黒のスケルトンカラーの、なんかバグった、やけに小さいスライム、か……?」

 それはデータ上にはないレアカラーのスライムだった。

「ワレのー、どこがスライムだとー、いうのだー!」

「え、全部……?」

「ぬぁーっ?! き、きさまっ、おもったより、でっかいなぁーっ!?」

「いやいや、お前が小さいんだって」

「お、おっきいっ!? こわいっ、ちかよるなぁーっ!!」

 変なスライムを片手で拾い上げた。
 しかしおかしいな。
 テイムに成功すると、モンスターとマスターがリンク関係になって、相互に能力を高め合うwinwinの仕様だったはずなんだが……。

「こらーっ、おろせーっ、バカヤロー! まおー、なめるなよー、このやろーっ!!」

 アイデンティファイを使い、お口が達者なレアスライムを鑑定してみた。

――――――――――――――――
【名称】まおー
【種族】スライム
【段階】ブルースライム
【能力】力2魔99耐99速8運1
【戦技1】灼熱の業炎
【戦技1効果】威力999・命中25%
【解説】ぼくはまおーだぞー。いじめないでよー、ぷるぷる。
――――――――――――――――

 やったぜ、よくわかんないけどしっかりバグってて、俺好みじゃないか。

「灼熱の業炎? お前のこの技、ヤバくない?」

 命中率もかなりヤバいっていうか、悲惨だけど、当たれば瞬殺はゲーマーのロマンだ。
 こういうのは外さなければどうということはない。

「ニヤリ……」

「ちょ、ちょっ、お前っ、まさか……っ」

 普通なら錬成した時点でテイムが成立する。
 しかし錬成事故は、バトルに発展することもある。

「ワレのぶれすで、おまえなぞー、けしずみにしてくれるわーー!!」

「うっ、うおおおおーーっっ?!!」

 Q.自分に炎を吐こうとするスライムを持っていたらどうするか?
 A.とりま投げる!!!

「ぴゃぁぁぁぁーーっっ?!!」

 バックスピンをかけて投げられたスライムは、灼熱の業炎をまき散らしながらも高速回転して消えた。
 灼熱の業炎というより、灼熱の業円だった。

「ヤベェ……あいつ、なんかノリ軽いけど、ヤベェ……ッッ!!」

 魔法使いなら誰でも使える基礎技術である、マジックバリアーを展開しなければ大火傷は確実だった。

「なんでーっ、なんでなげるんだよぉーっ!! ワレは、まおーだぞーっ、えらいんだぞーっ!!」

「ケンカ売ってきたのはそっちだろっ!? こうなったら、なんか可哀想だけどやるしかない!!」

 俺は樫の杖を片手に、保護色でよく見えない手のひらサイズのスライムを見つけると――

「もう……わざぽいんと、なくなっちゃった……。ぷるぷる……ひどいこと、しないで……?」

「ガス欠早っっ?!」

「しょーがないしー、ワレ、まおーだけどー、なかまになってあげるー」

 俺、ヴァレリウスの右腕と黒いスライムからそれぞれ、ケルト模様を連想させる光の帯が生まれた。
 帯と帯は自らの意思で繋がり合い、1つの線であり強固な接続リンクとなった。

 それこそがテイム関係成立の証。
 まおースライムの桁外れにタフで、魔力あふれるステータスの一部が、マスターである俺に流れてきた。

―――――――――――――――――――――
【通知】
 ヴァレリウスは【戦技:灼熱の業炎】を体得!!
 まおーは【魔法:マジックアロー】を体得!!
―――――――――――――――――――――

「やったっ、これで俺もお前のヤベェブレスを吐ける!!」

 さらに【モンスター錬成】スキル持ちの俺には、戦技や魔法の共有が発生する。
 データ上は武器防具を持っていないモンスターたちは、その分だけスキルがどれも強力になっている。

「マジックアロー? おまえー、ほんとうに、まどうしかー!? ざこすぎるぞー、おいーっ!」

「お前こそ力2運1ってなんなんだよ。被ダメージ常時クリティカルヒット体質かよ!」

 テイムによる能力のリンクは成立したが、だからといってすぐに友情や主従関係が芽生えるものではないらしい。

「でも魔99、耐99だよー! カッコイイだろーっ!」

「ああ、力がみなぎるようだよ! よっと……」

「わーーっ、なにするんだよーっ、ワレはまおーだぞーっっ?!」

 とにかくスライムの形をしたまおー様をローブのポケットに入れた。

「こんな場所だからな、迷子にでもなられたら困るんだよ。いったん外に出ようぜ」

「むぎゅぅぅ……っ?!」

 スライムがみっちりと詰まったポケットに手を入れた。
 こいつ、ひんやりして気持ちいい……。

「もーむーなーーっ、まおーだぞー、もーむーなーっ!!」

「お前のどこが魔王だよ。そういうのは角か棘か邪眼を生やしてから言え」

 当たれば一撃のナパーム弾みたいなスライムを揉みしだきしながら、俺は壁抜けを使って外に出た。
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