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第三章 アーディル十六歳

所詮は他人事

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[アルヴィン視点]

「私のフィルが可愛くて困ります…」

   執務机に両肘をつき、組んだ両手に顔を置いて、突然そう言った殿下の発言に、気にせず作業を続けます。

「………聞いてますか、アル?」

    反応がないことが気に入らなかったのか、じろりとこちらを見られました。

「ええ。聞いています。いつものやつだなぁと聞いてましたよ……」

    溜息をつきながら、確認の必要な書類を手に立ち上がります。

「一日に何回も同じことを言われてたら、そろそろ聞き飽きてきましたよ…」

「……失礼ではないですか?」

    失礼も何も、毎日朝昼晩の三回は必ず聞かされるのです。そして、その後に必ず同じ言葉が続くのです。

「フィルほどの完璧な令嬢はどこにもいないのですよ?」

    完璧な令嬢は、【岩石クッキー】や【何かが刺繍されたハンカチ】を製造したりしません、絶対に……。

「孤児院では女神のように敬われ、王都の外に出れば、民達から歓迎の品をたくさんもらって…。皆から愛されているではないですか!」

「………ソウデスネ」

    殿下はフィルが好きすぎて、フィルに関することだけはポンコツになります。
    正しくは、孤児院ではフィルの説教を聞きたくなくて、聞き分けが良いのであって、敬われている訳ではありません。
    王都の外から貰う品は、フィルが気に入れば、マリアお祖母様がエイデル商会で取り扱うようになる可能性が高いから、売り込みに来ているのです。下心満載の贈り物です。
    まあ確かに全部が全部そうではないでしょうが、大半がそんなとこです。

「それに最近は……」

    真っ赤になった殿下は、顔を両手で覆って、何かに耐えてます。
    ちらりとドアの側に立つアイオンを見ると、困り顔で首を横に振りました。

    共寝してかなり経つのに、まだ手を出してないんですかっ!

「いや、もう。陛下の許可出てますから、さっさと手を出せばいいじゃないですか。子作りさえしなきゃ、問題ないです。ええ、問題ない!」

    エイデル商会から、色んな品をフィルが取り寄せてるのも知ってるので、フィルが拒むことはないと言いきれますが、それをわざわざ殿下に伝えれば、確実にこちらが締められます。

「んなっ!そんな真似をして、婚約を破棄されたらどうしてくれるんですかっ!!」

「どうせ後一年もしない内にヤるんだから、今ヤッたって変わらないじゃないですか……」

「~~~~~っ!!」

    殿下は真っ赤になって、口をハクハクとさせてます。

「毎晩くっついて寝てるのでしょう?嫌ならくっついて寝ませんよ、フィルは……」

    殿下の前に手にしたままだった書類を置き、再び席に戻って仕事を続けます。

「……嫌われてないとは思います……。でも…」

    渡した書類を確認しながら、ボソボソと話す殿下に視線を向けます。

「…でも、何ですか?」

「……初めてなので、ちゃんと出来なかったら嫌われませんか?」

「…陛下に相談して、閨の指導者を頼めるように手配しますか?」

「は?いりませんよ!フィル以外なんか、触る気もありませんからね!」

    殿下はこちらの提案に憤慨されて、そう叫ばれました。

    知りませんよっ!だったら、本でも読んどけっ!!

    所詮は他人事です。エイデル商会に連絡して、特急で閨事の教本になりそうな物を取り寄せて、殿下に押し付けてやりました。

    いくら側近でも、そこまで面倒見てられるかっ!!




   



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