126 / 154
第二章 アーディル十歳
今日からは…
しおりを挟む
[アーディル視点]
十歳になりました。
待ちに待ったこの日を迎えられたのです!
「フィル!!」
「アーディ様」
侯爵夫妻に連れて来られたフィルに駆け寄りたいのを我慢して声をかけます。
婚約してから四年経ちましたが、フィルは可愛さが増し、体つきも少し女性らしくなって来ていました。
あれ以来、手作りのお菓子を貰うことはなくなりましたけど、ちょくちょく会いに行けるようにはなったので、私の思いは伝わってると思います!
「アーディル殿下。お久しぶりでございます」
グランディバルカス侯爵が頭を下げて挨拶をする両側で、夫人とフィルが美しいカーテシーを披露しています。
真ん中の黒づくめの仮面姿で、台無しな気もしますけど、口にしませんよ。フィルの大事な父君ですからね。
「本日より、当家のフィルディアをお預け致します」
「はい!確かにお預かりいたします!」
勢いよく返事をした後でした。
「……私達を除け者にしないでくれるかな?」
後ろから父様が恨めしそうに言いました。
「アーディったら、私達を置き去りにして行くんですもの♪」
母様はクスクスと笑ってます。
「……うぅ……。申し訳ありません…」
だって一刻も早く、フィルに会いたかったのです。
恥ずかしながらもフィルをチラリと見れば、ふんわりと笑顔を見せてくれました。
今日からはずっと同じ宮で暮らせるのです!
「……ステリナ?ステリナがフィルに付いてくるのですか?」
ふとフィルの側にひっそりと控えていたメイドの名前を呼びました。
ステリナは二つ名持ちの『護衛メイド』の一人で、その実力は上位に入るのだそうです。
元大神官のエルフの父親と、『護衛メイド』の頂点と呼ばれる〈閃光〉のラフィンを母親に持つハーフエルフです。
「ステリナはフィルディア付きの『護衛メイド』として、仕えることとなっております」
ふわっと柔らかな笑みを浮かべながら、侯爵夫人がそう言いました。
「お嬢様付きの『護衛メイド』として参りました。今後もお見知り置き下さいませ…」
ステリナも見事なカーテシーを披露します。
「ええ。よろしくお願いしますね、ステリナ!」
ステリナは侯爵家に遊びに行くと、私によくフィルへの対応を教えてくれるのです。そのステリナがフィルに付いていてくれるのなら、何があっても大丈夫な気がします!
「荷物は既に部屋の方に運ばれている。ステリナ。侍女達も控えているから、フィルの過ごしやすいように整えてくれ」
「かしこまりました」
父様の言葉に、ステリナは侍女長に案内されて、フィルに用意された部屋へと向かいました。
「父様っ!フィルに宮の案内をしてもよいですかっ!?」
「……はぁ。止めても無駄そうだな。アイオンを連れていきなさい…。終わったら、応接間においで…」
父様の許可が出ました。私はフィルの手を握り、なるべく急がないようにフィルの速度に合わせて歩きだしました。
後ろからは、私付きの護衛騎士のアイオン・カルセリアが付いてきていました。
「アーディ様。どちらへ行くのですか?」
首を傾げながら訊ねてくるフィルの可愛らしさに、だけどまだ内緒だと伝えて、宮の裏側へ出ました。
「……これ……」
それを目にした途端、フィルは立ち止まって呟きました。
「フィルが好きだと言っていたので、リコリスの花畑を作ってもらいました♪」
赤、白、黄色、ピンクと色とりどりのリコリスが風に揺れています。
「フィルの部屋からも見下ろせるようになってるんですよ」
十歳になりました。
待ちに待ったこの日を迎えられたのです!
「フィル!!」
「アーディ様」
侯爵夫妻に連れて来られたフィルに駆け寄りたいのを我慢して声をかけます。
婚約してから四年経ちましたが、フィルは可愛さが増し、体つきも少し女性らしくなって来ていました。
あれ以来、手作りのお菓子を貰うことはなくなりましたけど、ちょくちょく会いに行けるようにはなったので、私の思いは伝わってると思います!
「アーディル殿下。お久しぶりでございます」
グランディバルカス侯爵が頭を下げて挨拶をする両側で、夫人とフィルが美しいカーテシーを披露しています。
真ん中の黒づくめの仮面姿で、台無しな気もしますけど、口にしませんよ。フィルの大事な父君ですからね。
「本日より、当家のフィルディアをお預け致します」
「はい!確かにお預かりいたします!」
勢いよく返事をした後でした。
「……私達を除け者にしないでくれるかな?」
後ろから父様が恨めしそうに言いました。
「アーディったら、私達を置き去りにして行くんですもの♪」
母様はクスクスと笑ってます。
「……うぅ……。申し訳ありません…」
だって一刻も早く、フィルに会いたかったのです。
恥ずかしながらもフィルをチラリと見れば、ふんわりと笑顔を見せてくれました。
今日からはずっと同じ宮で暮らせるのです!
「……ステリナ?ステリナがフィルに付いてくるのですか?」
ふとフィルの側にひっそりと控えていたメイドの名前を呼びました。
ステリナは二つ名持ちの『護衛メイド』の一人で、その実力は上位に入るのだそうです。
元大神官のエルフの父親と、『護衛メイド』の頂点と呼ばれる〈閃光〉のラフィンを母親に持つハーフエルフです。
「ステリナはフィルディア付きの『護衛メイド』として、仕えることとなっております」
ふわっと柔らかな笑みを浮かべながら、侯爵夫人がそう言いました。
「お嬢様付きの『護衛メイド』として参りました。今後もお見知り置き下さいませ…」
ステリナも見事なカーテシーを披露します。
「ええ。よろしくお願いしますね、ステリナ!」
ステリナは侯爵家に遊びに行くと、私によくフィルへの対応を教えてくれるのです。そのステリナがフィルに付いていてくれるのなら、何があっても大丈夫な気がします!
「荷物は既に部屋の方に運ばれている。ステリナ。侍女達も控えているから、フィルの過ごしやすいように整えてくれ」
「かしこまりました」
父様の言葉に、ステリナは侍女長に案内されて、フィルに用意された部屋へと向かいました。
「父様っ!フィルに宮の案内をしてもよいですかっ!?」
「……はぁ。止めても無駄そうだな。アイオンを連れていきなさい…。終わったら、応接間においで…」
父様の許可が出ました。私はフィルの手を握り、なるべく急がないようにフィルの速度に合わせて歩きだしました。
後ろからは、私付きの護衛騎士のアイオン・カルセリアが付いてきていました。
「アーディ様。どちらへ行くのですか?」
首を傾げながら訊ねてくるフィルの可愛らしさに、だけどまだ内緒だと伝えて、宮の裏側へ出ました。
「……これ……」
それを目にした途端、フィルは立ち止まって呟きました。
「フィルが好きだと言っていたので、リコリスの花畑を作ってもらいました♪」
赤、白、黄色、ピンクと色とりどりのリコリスが風に揺れています。
「フィルの部屋からも見下ろせるようになってるんですよ」
0
お気に入りに追加
128
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる