上 下
120 / 154
第一章 アーディル八歳

んん??

しおりを挟む
[アーディル視点]

今日は生まれて初めて、公務以外の外出です。それも、婚約者であるフィルディアのいるグランディバルカス侯爵家が行先です。
しかも、宿泊の許可まで出ています。

「……まあ、王宮うちより安全だしね…。中央侯の実情を知るにもいいだろう」

父様にそう言われましたが、どういう意味なのか分かりませんでした。

侯爵家ここに来るまではーーーー。

転移陣を使って、直接向かった侯爵家。
転移陣用の部屋を出ると、そこは芝生の広がった広い場所でした。

「………広い……」

目の前に広がる一面の芝生。王宮でもここまでの場所はありません。
 
「あー!にいしゃま。おかえんなしゃーい」
「「にいたま、おたえい」」

 「ただいま、シルヴィン。いい子にしてたか、シャル。フォル」

ガラガラと車輪の付いた箱を押しながら現れたアルと同じ色の少年と、その箱の中にいる黒髪とピンクがかった銀髪の少女にアルが声をかけた。

兄様と言うことは、この三人はアルの弟と妹達ですね。五人兄弟なのですね、一人っ子の私には羨ましいです……。
  
 ……なあんて、思ってたんですけどね……。

「……ねえ、フィル。君達の弟妹は全部で何人いるんだい?」

案内された部屋には、私を含めて十六人の子供がいます。
    
賑やかです。そして、落ち着きません…。
    
「私達の弟妹ですか?弟が一人と妹が六人ですわ。あとの六人は乳母の子供で、私達とは乳兄弟になりますね」

言われてよく見れば、長い耳の子供が数人います。

「…エルフ?」

「ハーフエルフですわ。乳母は人族ですが、ご主人がエルフなのです。当家で魔導具師として働いております」

なるほど。その人が転移陣の設定を変えてくれた人ですね、きっと。

「フィルねえちゃま!」

「どうしました、エル?」

フィルと同じ色合いの幼女が、とてとてとやって来ました。

「ちょれ。だえ?」

私を見上げ、コテンと首を傾げました。可愛いです。

「アーディル殿下ですよ。この国の王子様です」

フィルは妹の視線に合わせるように膝をついて、私を紹介します。

「はわっ。おうじたま!」

「初めまして。小さな姫君。私はアーディル・ラフター・フォンス・ル・グランディアと申します」
  
フィルの隣で膝をつき、にっこり笑って名乗りました。

「はわわっ」

真っ赤になってワタワタしている姿はとても愛らしいですね。フィルの幼い頃もこうだったのでしょうか?

「エル。ちゃんとご挨拶を」

スっと立ち上がったフィルが、妹の隣に守るように並びました。

 「あい!エリュディア・リャジュル・グリャンビャリュカチュでしゅ!しゃんしゃいでしゅ!」

「…………よろしく」

困りました。分かりません。小さな子というのは、このように話すのですね。

「ちゃんとご挨拶出来ましたね。偉かったですよ♪」

 フィルは優しく妹の頭を撫でながらそう言いました。
 
「あい!」

褒められて嬉しかったのでしょう。ニコニコ笑いながら、フィルを見上げて私を見ました。

「おうじたま、おうじたま!エリュがおよめたんにゃっちゃげましゅよ!!」

んん??

言われた言葉に理解が追いつきません。

私はフィルと婚約しているのですが?

どう断るのが正解なのか分かりません。だってフィルの妹です。泣かせるわけにはいけません!

「……まあ、困りましたわ。殿下のお嫁さんにエルがなるなら、ワタクシの王子様がいなくなってしまいます……」

片手を頬に添え、コテンと首を傾げたフィルがそう言うと、泣きそうな顔でフィルを見上げました。

「ねえちゃま……。おうじたまのおよめたん?」

「エルがなりたいのなら、ワタクシはあきらめますわ…」

「「えっ!?」」

思わず上げた声が重なりました。

「はわわっ!らめでしゅよ!ねえちゃまのおうじたまは、ねえちゃまのれしゅよ!!ねえちゃま、ごめんにゃしゃい。エリュ、おうじたま、いんないでしゅ!!  」

んん??もしかして、私は振られました?
まあ、フィルが婚約者のままなら構いませんが……。

何でしょうね。ものすごく、複雑な気分ですーーーー。



しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...