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第八章 波乱ばかりの婚姻式

消えた花嫁衣裳

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婚姻式より三日前に神聖国ブランディアへ行くことになっていたエベリウム伯爵家とグランディバルカス侯爵家の一行が、揃って出発しようとしていた時にその報せは届いた。

「……は?アリスの花嫁衣裳が消えた?」

 報せを聞くなり、エマリーはショックのあまり倒れた。

「「奥様っ!」」

ラフィンとフェリテは、エマリーの対応に追われ、侯爵は茫然となっている。
マリアステラは手にしていた扇を、ひっそりと握りしめつつ、静かに怒っていた。

「どういうことですっ!そちらがちゃんと管理すると言われるから、先に運んでいたんですよっ!!」

ラスティンとカインベルは、可愛い妹の晴れの日の衣装の紛失に、知らせてきた使者に食ってかかる勢いで説明を求めた。

「……婚礼衣装……。一番値の張る婚礼衣装が、行方不明……」

アリスティリアは、目の前が真っ暗になった気がして足元をふらつかせたが、しっかりと肩を抱いて支えられた。

「…エヴァン様…」

「大丈夫ですか、リア?」

「はい…。でも、婚礼衣装が…」

支えてくれたのはエヴァンであり、アリスティリアはその胸元に顔を埋めて、泣くのを堪えた。

「とにかく、ここで騒いでも状況は分かりません。まずはあちらに行きましょう!」

エヴァンの言葉で、一行は急いでブランディアへと移動するのであったーーーー。



※※※※※※※※

神聖国ブランディアは、神獣達が集う国である。
そして、様々な宗派が存在しているアグローシアの中で、統一教会と呼ばれている建物がある。そこは、全ての宗派からの儀式を行うことの出来る場所である。
同時に【鑑定の儀】を行うのも統一教会の役目である。
統一教会の神官達に必要なことは《鑑定》のスキルを使えること。そして、各宗派に合わせた儀式を行えることであった。
ブランディアは統一教会の総本山のある国であった。

「申し訳ないっ!現在、国を上げて捜索しておる!必ず見つけてみせるからっ!!」

ブランディアに着くなり、聖王が頭を下げてきた。

「聖王様っ!ダメです、頭を下げないでくださいっ!!」

慌てるアリスティリアの言葉に、聖王は困り顔で頭を上げた。

「しかしな、アリスティリア。我から引き受けたというのに、この有様…。他の国の者にも顔向けできん……」

聖王の言葉に、誰も口を挟めない。

「とにかく、保管されていた場所に案内しよう……」

そうして、聖王と共に一行は衣装の置かれていた部屋へと向かったのだが…

「…ありますね、ドレス……」
「あるな、アリスの花嫁衣裳…」
「幻じゃないならあるね、アリスのドレス…」

盗まれていたはずのドレスが、そこにきちんと飾られていたのだ。

「……これ。前のドレスと違う……」

皆が呆気にとられるなか、エヴァンだけはそれを手にするなり、違いを口にした。

「違う?」

首を傾げるアリスティリアを手招く。

「触って、リア。手触りが変わってる…。あと、光沢が増してるんだ…」

言われるままにドレスに触れると、スベスベしていた触感は、少しざらついた物に変わっていた。

「あ、ザラってします。前はスベスベしてたのに…」

アリスティリアの言葉に、カフィル、ラフィン、聖王がドレスに近寄った。

「うわぁ…」
「ひっ!」
「は?」

三人は《鑑定》するなり、そんな声を上げた。

「?」

その様子に自らも《鑑定》を使ったアリスティリアも、その結果に固まった。

「……『【アラクネの織物】のドレス』が、『【アラクネの織物】を【白龍の鱗】で加工されたドレス』に変わってる…」

『はあっ!!??』

白龍は神獣の中でも高位の神獣であり、滅多に姿を見せないことで有名だった。
その鱗が、戻ってきたドレスに追加されていたのだ。

「【白龍の鱗】って、1枚だけでも国家予算数年分とかいう代物じゃ…」

カインベルが呟きながら、ゴクリと唾を飲んだ。

「国家予算の上乗せドレス……」

ラスティンの言葉に、アリスティリアは気を失いたくなっていたーーーー。





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