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第五章 誘拐からの救出監禁

王太子は頭を抱える

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「アリスティリアが拐われた……」

オーディルの執務室は、オーディルに告げられたその言葉にシンと静寂が訪れた。

「拐われたと思われる場所には、男爵家から行儀見習いで来ていた令嬢が魔導具付きで倒れていた。幸いこちらにはエヴァンとカフィル殿がいたお陰で、無事だった訳だが…」

執務机に両肘をつき、組んだ指に額を当て、オーディルは言葉に詰まる。

「…ネイゼル殿が令嬢をたぶらかせていたことが判明した。現場からは中規模転移陣の展開された痕跡もある。どうやら【封印布】を使って、アリスを拐ったようだね…」

「…既にエスタルディアには宰相殿に陛下から、国許にはレティーシア様が連絡済みです。ついでに母がエイデル商会全店舗に向けて、エスタルディアとの取引を一斉停止、並びに一切の取引を認めないと、各国に宣言させました…」

「マリアステラ殿…、仕事早すぎだろ……」

静かに怒りを蓄積しているカインベルの報告に、オーディルは泣きたくなった。
この騒ぎを一体誰が責任取って収めることになるのかと、考えただけで頭が痛い。

「…殿下、失礼します!」

ドアを軽くノックし、返事も待たずにエヴァンが入室した。

「ラスからの報告です。拐われる直前に、どうやらアリスはエイデル商会の追跡香を使用していたらしく、探索魔導具の使用許可をお願いしたいとのことです」

「さすがに慣れちゃったね、アリス……。さて、何処と何処に出すといいかな、カイン?」

「そうですね。うちとエスタルディアには向かってないでしょうから、エランディア、ブランディアと言った所でしょうか…。ディクルディアなら、アリスが入国すると同時に、バスティン様が保護しますから……」

「…他の三国は?」

「その三国はエイデルを怒らせたらどうなるかよーく、知ってますからね。ほっておいても捜してくれるでしょうし、何よりアリスが自力で駆け込みます…」

「なるほど。では急ぎ用意しよう!エヴァンはどう動く?」

「先程カフィル殿がこちらに到着しましたので、転移陣の行先を調べてもらってます。特定次第、後を追います!」

「分かった。連絡はカルステッドにこまめにさせるように!」

「はっ!」

一礼してマントを翻しながら、あっという間に扉の向こうに姿を消す。

「ああ、もう…ほんとに面倒なことをしてくれたもんだよ…」

アグローシア全土を巻き込むことになった誘拐劇に、オーディルは頭を抱える。

エベリウムの二人に、〖火の大精霊〗の血が流れていないことは、レティーシアから話が出る前から調べて分かっていたのだ。
社交界にラスティンが現れてから、異父妹であるアリスティリアも同じ髪色だという噂を聞いたエスタルディア王家から、何度もアリスティリアの身柄を渡すように求められたからだ。

グランラディア側からは、何度も応じられないと返答をしていたのだが、精霊至上主義派の一部の過激派がアリスティリアを拐ったのだ。

その際に隠れていたのは魔王国ディクルディアだった。
運の良い事に、アリスティリアは魔王バスティン・カウス・ディーグルのお気に入りであった。
エイベル商会の取引にたまに連れてこられると、必ずバスティンが現れて城に連れていくくらい気に入っていた。
後から聞かされた話だが、魔王国にアリスティリアが入国すると、必ず居場所が分かるようにしてあるらしい。
何それ、怖くないか?と思ったことは内緒である。

《守護》スキルに関係なく、アリスティリアは身分の高い者に好かれる傾向があった。
だからこそ、アリスティリアに流れる血の確認は行われたのだ。

ーーラスにもカインにも伝えてないんだけど、そろそろ公にしなきゃならない頃合かな?エヴァンがはっきりさせてくれたらいいんだけど…。

オーディルは、今回の誘拐騒動これが収まった後のことにも頭を抱え込むのであったーーーー。



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