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第二章 伯爵家は幸運を引き寄せる

伯爵夫人は涙する

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「……この子が……、この子がそうなのね?」

マリアステラは実家に保護されていた子供に会うなり、涙を溢れさせた。
目の前にいたのはピンクがかった銀髪を持ち、エベリウム伯爵家直系の証である紅眼ルビー・アイを持った少年であった。

ーー男の子ーっ!!これで、誰にも文句言われなーい!!!

マリアステラは嬉しさのあまり泣いていたのだ。

「……」

そんなマリアステラの背後には、彼女の考えていることが丸分かりで、遠い目をしたクロードが立っていた。

「貴方のお名前は?」

「…ボクはラスティ・フィムです。あの…ボク、やとってもらえないですか?母さんのクスリもだけど、ティリアのパンもかうおかねをかせぎたいんです…」

不安気にマリアステラを見上げる少年に、彼女は膝をついて目線を合わせた。

「ティリアって、貴方の家族?」

「ティリアはボクのイモウトです。まだ二つだから母さんといます…。たまにジルじいさんがみにきてくれるけど…」

「っ!!」

ーー息子どころか、娘もいたーーー!!!

夫と血が繋がってなくても、愛らしい少年の妹ならば可愛いはずと、マリアステラは心のなかで絶叫していた。

産みたくないけど、着飾って楽しめる可愛い娘も欲しかったのである。

「ねぇ、ラスティ。貴方のお母さんにとても大事なお話があるの。会わせてもらえるかしら?」

こほんと咳をして、気持ちを切り替えると、マリアステラはラスティの両手を優しく握ってそう尋ねていた。

※※※※※※※※

[クロード視点]


「初めまして。わたくしはマリアステラ・エベリウム。貴女はマディアで間違いなくて?」

「っ!!エベリウム……。エベリウム伯爵家の奥様……」

訪れた粗末な小屋の奥にある寝室で、帰ってきた息子に安堵した母親は、息子の後ろにいたお嬢に首を傾げていた。
聞いていた通りのピンクがかった銀髪は病気のせいか艶がなかったが、その瞳は間違いなくお嬢と同じ色。
お嬢はにっこりと微笑んで名乗り、彼女に近づくと彼女は気の毒なくらいに真っ青になっていた。

ーー病気の人間相手に大丈夫か、お嬢……。

お嬢の頭の中は、この家族丸ごと連れ帰るための算段が多方向から浮かんでいるだろう。

「……奥様、申し訳ございません!申し訳ございませんでした!!」

病気で細った体で、ベッドから下りて土下座をしようとしているのを、お嬢が慌てて抱きとめた。

「あぁ…。謝らないでちょうだい!謝るべきはこちらの方なのだから…」

「ですが…」

「クロード」

お嬢がちらりと子供を見る。

どっかに連れてけですね。分かります…。

しかし、オレが動かずとも妹を見ていた老人が、隣の自宅で預かると二人を連れてってくれたため、オレは部屋の片隅で、成り行きを見守るーもとい、お嬢の暴走を食い止めるーことにした。

「貴女が夫を誘惑したのではないことはちゃんと分かっているの。夫はどこぞのバカな女に媚薬をもられてしまっていたらしくて、貴女には本当に申し訳ないことだったわ…」

お嬢は手を貸して立ち上がらせ、再びベッドへと戻らせた。手近にあった椅子を引き寄せ、「失礼するわね」と腰を下ろす。

「奥様……」

「これは提案というか、お願いなのだけど、良ければ家族でうちに来てもらえないかしら?ラスティは見る人が見れば、エベリウムうちの子だと分かってしまうわ。伯爵家の者として教育を受けさせたいの」

「それはワタシがお断りできることではありません。あの子は…、ラスティの半分は確かに伯爵家の物なのですから、ワタシに権限など…」

布団を握りしめている手は微かに震えている。
それはそうだ。ラスティは間違いなくエベリウム伯爵家の直系。平民の彼女では、子供が利用されても助ける術もないのだから。

「あら、貴女にはあの子の母親という大事な権限があってよ。わたくし、貴女にはとーっても、とーーーーっても感謝しているの!そして、貴女をものすご~く尊敬しているのよ!!」

震える彼女の手を握りしめ、お嬢は真顔でのたまった。

「だって、あの人の息子を産んでくれただけじゃなく、あんなに可愛い女の子も産んでるんだもの!!」

「………え?」

マディアさんが首を傾げるのは当然だったーー。








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