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第一章 侯爵家は混乱する

大神官は混乱する

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    エヴァンが加護スキルを持っており、さらにレベルがMAX状態であると、ユフィンから聞かされたグランディバルカス侯爵スヴェンは、神殿から封印布ふういんふを急ぎ取り寄せた。
    封印布は【スキル封じ】の力を持っているのだが、それ自体が希少な為、スキルを暴走させた者への対応品として神殿で管理されているのだ。

    もうすぐ夜になろうという時刻ではあったが、急いで対応策を練らねばならない状況に、スヴェン達は頭を悩ませていた。
    侯爵夫人エマリーと、スヴェン以外の者がエヴァンに触れると皆、正気を失ってしまうのだからしかたがない。
    いつまでも封印布をエヴァンに巻き付けておくわけにもいかないのだから。


「お待たせしました、旦那様!昼過ぎに大神官様がお戻りになっていたそうで、急ぎ【鑑定の儀】をおこなっていただけるようにと、王家からも神殿へ連絡が伝わりました。護衛は私とフェリテでよろしいでしょうか?」

    神殿への状況説明に残っていたラフィンが、戻ってくるなりそう報告する。
    スヴェンはエマリーと彼女に抱かれて眠る我が子に眼を向けた。

「エマリー……」

「わたくしなら大丈夫ですわ、アナタ。今はわたくしよりも、どうかエヴァンのことをお考え下さいませ」

    産後すぐのこの事態。寝込んでいる場合では無いと、エマリーは気丈にも母としての態度を見せた。

「……分かった。だが、無理はしないようにな…」

    そうして、侯爵一家は護衛メイド二人を伴に、馬車に乗って神殿の裏門へと向かった。
    目立たぬように裏門から入り、裏口から神殿に入るとすぐに案内役の神官が待っていた。

「お待ちしておりました、中央侯様。大神官様は【鑑定の間】にてお待ちでございます」

「うむ。いきなりで申し訳ないが案内を頼む!」

    神官、フェリテ、侯爵、エヴァンを抱いた侯爵夫人、ラフィンの順に歩き出す。

    【鑑定の間】は、個人の持つスキルを確認できる場所であり、その確認は行う神官の能力により、解析度が異なっていた。
    現状では、神聖国ブランディアのトップである聖王の解析度が最も高く、次いで大神官、神官長、神殿長、神官達と続いていた。
    ちなみに、ラフィンの【鑑定】スキルは神殿長とほぼ同じレベルである。
    護衛メイド達にはこのスキルを所持している者が多い。
    主となる者の身を守るために、必須のスキルとされるからである。そのため、最低でも神官達と同じレベルなのだ。

    【鑑定の間】では、既に大神官が準備を終えて、侯爵達の到着を待っていた。
    緑の髪に金目の若者に見えるが、エルフであるため侯爵より遥かに年上である大神官は、侯爵一行の到着に顔を上げてそちらを向いた。

「大神官殿!この度は急な要請にお応えいただき、誠に感謝する!!」

    侯爵夫妻が頭を下げると、大神官は口許に笑みを浮かべて首を振った。

「何を申されるか、中央侯。産まれたばかりのご子息の一大事。わたくしめがここに戻ったのは、神の采配でございましょう。さあ、ご子息の手をこちらへ…」

    【鑑定の間】の中央にある石版の前に立ち、エヴァンの手をそこへ置くように促す。
    【鑑定石】と呼ばれるそれは、本来子供が五歳になると行われる『祝福の日』にスキル鑑定を行うために使われるのだが、それを起動できるのは【鑑定の間】の中のみという仕組みで、作ったのが誰かも分からないという不思議な魔導具の一つであった。

    エマリーが封印布に包まれたエヴァンの手を取り出し、【鑑定石】に触れさせた。

「…それでは、ご子息のスキルの確認を……って、はあああっ!?」

    大神官は表示されていく情報を確認しようとして、動揺のあまり叫んでいた。

「は?加護スキルのレベルは聞いていたけど、ちょ、これ……。いやいや、これはねぇだろ…。え?これ、ありか?ありなのかよ、おい…」

    動揺のあまり、素が出ているのにも気づいていない混乱状態の大神官。
    そして、大神官の様子に周りはぽかんと呆気に取られていた。

ーー大神官様、本性漏れてますって……。

    たまたま本性を知るラフィンは、苦笑しながらその姿を見守っていたーー。


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