上 下
101 / 110
第十章 他国訪問〔ユーディアナ〕

しおりを挟む
[エレオノーラ視点]

    怒らせたなぁ…とは思っていたのだ。思ってはいたものの、原因が自分達ではなかったために、対応しなかったと言われれば、そうだとしか答えられない。

「ちょ、レオーッ!!」

「待て。マジにこれ、無理だからーっ!」

    前回の討伐において、レオのやり方に不満を漏らした騎士達が、現在、元気に絶叫中です。

「えー?燃やしたら勿体ないって言ったじゃーん。ちゃあんと、みんなの好みの相手にしてあげたんだから、頑張ってー」

    めちゃくちゃ感情も抑揚もない言葉を言いながら、レオは呑気にお茶を飲んでいる。

「いや、マジ。助けて、エレーーッ!!」

    叫ばれても、こちらもどうしようもありません。

「自業自得とは言え、大丈夫なのか、あれは?」

    義兄上が心配そうに見ている先には、レオによって《障壁バリア》で隔離された一部の騎士達の姿があった。
    ちなみに前回の不満のせいで、彼ら好みの上半身をしている女郎蜘蛛アラクネが、もれなく一体一緒に閉じ込められている。
    本来、二人から三人が連携して倒す魔物を、一人で相手にしろと互いに逃げれないようにしているのである。

    どんだけ怒らせたのか、それでも分かってないんだから……。

    助け舟を出そうにも、こちらが一緒に沈みそうなのだ。静観するしかないに決まっている。

「あいつら、落ち着いて考えたら、自分達の身体に傷がないのに気づけんだろうに…」

    そうなのだ。閉じ込めてはいるものの、ちゃっかり怪我をしたら自動で回復するようにしてあるので、余計に止められないのだ。
    ちなみに女郎蜘蛛アラクネを倒さない限り、《障壁バリア》は解除されないようになっていた。

    レオの本気の怒り具合に、免れた騎士達は微かに震えている。

    昼過ぎに始まった討伐は、夕暮れ時には終了した。

「「「……………」」」

    死屍累々となった騎士達をよそに、通常討伐をしていた騎士達は、手早く野営の用意をしていく。

「…たっぷり堪能した?明日もちゃあんと、好みの子と一緒にしてあげるね♪」

 『~~~~っ!!』

    レオの無慈悲な言葉に、なれど疲れきって声も出せない彼らは反論も出来ず、翌日も閉じ込められた。

「こ、こんちくしょう……」

「し、死ぬ……。明日もやらされたら、オレは死ぬ…」

    昨日よりはほんの少しだけ早く終わらせたせいか、今日はまだ文句を言う気力が残っていたらしい。

「………一人で出来るじゃん…。じゃあ、明日は二体『レオノーラ様、お許しくださいっ!!』」

    レオが言い切るより先に、みんなが食い気味に叫びながら土下座した。

「……許すって何のこと?ねえ、何のことを許せばいーの?ねー、ねー?」

    無表情でそう聞かれた騎士達は、ひたすら土下座したままで、さすがにしばらく経っても終わらなかったので、義兄上と共にレオを宥め、アルテの取り無しでそれ以降は普通の討伐に戻った。

    しかし、彼らは学習していなかったのだ。

「あんないい女の上半身を、家に飾ってたら最高じゃね?」

    そう言った騎士に同意した者達がいた。

「レオもあれくらい色気がありゃあなぁ~」

「………」

    彼らはレオに聞こえていないと思っていたようだが、丸聞こえである。
    スンと表情を無くしたレオに、義兄上もアルテも止めようがないとすぐに諦めた。もちろん、私もである。

「……これ。《空間収納インベントリ》で持って帰ってあげたから、ちゃあんと宿舎・・に飾ってね♪」

    後日。彼ら好みの上半身をした女郎蜘蛛アラクネから、しっかりと上半身だけを切り離していたレオは、《空間収納インベントリ》でヒューゲル王国へ持ち帰り、部屋に戻って寛ごうとしていた彼らの目の前で、それを取り出し押し付けたのだったーーーー。



しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...