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第十章 他国訪問〔ユーディアナ〕

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[アルテ視点]

    オレの名前はアルテ・クスカ。
    ヒューゲル王国の護衛騎士団の団長の息子で、『勇者』レオノール付きの護衛騎士の一人でもあり、冒険者パーティ〖レンドルの花冠〗のメンバーの一人でもある。
    手っ取り早く簡単に言えば、レオのお目付け。見張り。そして、(主にレオの)暴走に巻き込まれる被害者代表でもあると思う。

    そんなオレが『勇者』と『聖女』の他国訪問に父親共々、同行するのは当然で、次で二国目ともなるのだが、それに伴い実家の母に強制帰還を命じられて、現在我が家にいるのだが……。

「ユーディアナに行く際には、必ずこちらを起動させた状態で常に持ち歩くようになさい…」

    神妙な顔で母親から渡されたのは、〘安心くん〙と呼ばれる毒物や薬物に反応する魔導具。

「…何故これを?」

    渡された魔導具を手にし、首を傾げるオレに、母親は見たこともないくらい眉を顰めていた。

「…ユーディアナは私の生まれた国です…」

「はあ、存じてますが…」

「…あの国は色恋沙汰に関しては、有り得ないくらい寛容すぎるのです…」

「はあ。それと魔導具これに何の関係が?」

    そう言えば、母親の生国としか聞いたこと無かったなあ…などと、呑気に思って入れたのもそこまででした。

「…かの国は婚姻していようがいまいが、両者の合意があれば良いという決まりがあるのです…」

    え?意味分からん……。

「妻子持ちの夫が、夫も子もある夫人と関係を持っても、同意であれば許され、不貞ともされません。万が一、子が出来たとしても、どちらの家で育てようとかまいません。まあ、不都合だからと放置などしたことが分かれば、罪人扱いとなり、即座に捕まります……」

   理解できない話が進んでいきました。

「ちなみにこの合意とは、媚薬などを使用して得られたものでも合意とされるのです……」

「は?いや、それは普通に犯罪では?」

「…ですから、有り得ないと申しています…」

「……それで、この魔導具ですか……」

    手渡された魔導具をしげしげと見てしまいます。

「それもありますが…。アルテ。貴方はお父様と私が何故一緒になったかを存じていませんよね?」

「そう言えば聞いたことはないですね…」

「…私。物心ついた頃には、ユーディアナという国を嫌ってましたの。育ててくれた父とは血が繋がっておらず、可愛がってくれる叔父が、実の父だと聞かされた時の衝撃と言ったらありませんでしたからね…」

    ここから、母のややこしい家族関係の話が始まりました。

    まず、母の生母とその夫。ですが、父と呼んでいたその人は、血縁的には伯父になるそうです。
    つまり、叔父となる人物が、本当の父親で…。
    しかも母の兄となる人は、実は腹違いの兄であって、弟は間違いなく二人の子。さらに妹は、母の父とは違う男性との子だとかで……。
    年頃になった頃、実の父がその妹を嫁にすると聞かされ、さらには育ての父である伯父に関係を迫られ、

「やってられませんわっ!」

    と、 国外逃亡を画策。
    折りよく(?)訪れていたヒューゲル王国の訪問団の中に、たまたま理想のタイプである親父をみつけ、夜這いに向かったらしいが、そもそも一介の騎士達が、個室に泊まっているはずもなく、たまたま部屋に一人でいた親父が、慌てて外に連れ出したのだとか。

「私は好いた方と一対で暮らしたいのですわっ!ですが、この国ではそれも叶いません!!だって、媚薬で意志を奪われても、同意とされるんですものっ!!」

    しかも母が親父のところに行ったその日。媚薬を盛られそうになって、急がねば我が身が危険だと着の身着のままで、駆け込んだらしい。

    いや。それ、親父達泊まってたの王宮じゃねえの?そんな簡単に入れるもんなの?

    という疑問は、お国柄、他国の方との一夜の逢瀬を楽しむのもよくある話だとかで、武器を持ってないと通れるんだとか説明され、ドン引いた。

    とにかく必死な母の訴えに、憐れに思ったものの、どうしたものかと頭を悩ませ、当時の主だった国王陛下に相談したんだとか……。

「ふむ。お前が娶ってやればよい。そのご令嬢もお前ならばと来たのだろう?どうせ、相手が見つからぬと言っていたのだ。ちょうどよいではないか♪」

    そして、国王陛下により、運命の恋人だなんだと話を盛られまくり、母は無事にヒューゲル王国に来て、親父の妻となったらしい。

    え?オレ、愛のない夫婦から生まれた?

    そんな考えも、すぐに頭から消えました。

    我が家。オレの下に二人の弟と、妹が一人います。しかもそんなに年も離れてない。
    二人揃うと、鬱陶しいくらいにひっついて離れない両親に、ないわぁ…と。

    とにかく、あちらの国に婿入りさせられるような危険は回避するようにと、めちゃくちゃ念押しされましたーー。

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