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第九章 他国訪問〔グラシア王国〕
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[ガディル視点]
「エーレ?エレ、まだ怒ってる?怒ってるよね?」
夜会の翌日。自分だけが何も聞かされていなかったことを知ったエレは、見るからに不機嫌そのもので、レオは真っ青になって涙目で謝っていた。
「……怒ってない……」
レオと視線を合わさないまま、ずっとエレはそう答えているが、合わない視線にレオは怒っていると心配していた。
どちらかと言えば、あれは話してもらえなかった自分に腹を立ててるのだと思うのだがな……。
男である自分が、姉であるレオにばかり負担をかけているような気になっているのだと、以前に聞いたことがあったのだ。
腹芸に向かないのは、エレ本人も理解しているからなぁ……。
王妃と第三王女が王籍から抜かれることにより、『勇者』と『聖女』の誓言は無効になった。
夜会の後、別室にて俺達三人の立ち会いの元。国王と重鎮が集まり、王妃と第三王女に今後の処分が言い渡された。
「お、お待ちくださいませっ!御二方に最初に無礼を働いたのは、サラディナーサでございましょう?ならば「お母様っ!?」」
自分だけは助かろうとする王妃と、王妃だけ逃がすものかと食い下がる第三王女の醜い争いが繰り広げられ、全員がウンザリしていた頃だった。
「それで、グラシア王は第一王子はどうされるのですか?」
レオのこの発言に、一斉に場が静まり返った。
「……私…ですか?」
母と妹の醜い争いを無言で見ていただけの第一王子に、全員の視線が集まった。
「そ、そうですわ!次期国王の母が咎人では「王太子には第二王子を選んだと夜会の終わりに告げておる…」」
目を輝かせて発言する王妃の言葉は、グラシア王によって遮られた。
「……は?第二王子?何故でございます!たかが伯爵家の女の産んだ王子が、侯爵家の出のわたくしの産んだ王子よりも上に立つなど許されるわけがございません!」
『…………』
王妃の言葉に同意して頷いているのは、第三王女のみ。後の者達は第一王子も含めて信じられない顔で王妃を見ていた。
「心配せずともよい。側妃はそなたの実家の侯爵家の養女になることが決まっておる。そなたのいう侯爵家の出の女として、新たな王妃となるのでな……」
「な……。お、お父様やお兄様がそのようなこと…」
「これは侯爵からの提案である。これ以上、侯爵家のみならずグラシア王国の恥を晒させるわけにはいかぬとの言葉だ……」
「恥……。わたくしが侯爵家の…恥……」
騒ぎまくっていた王妃は、実家に見放されたことが信じられなかったのだろう。ブツブツと虚ろな目で呟き出した。
「…陛下。私も王族に相応しい者ではありません。どうか、臣下として降ることをお許しください……」
「お兄様っ!?」
「ナーサ。お前や母上を止められなかった私だ。王族としている限り、きっとお前達は私にすがろうとするだろう。そして、私は多分、叶えられる力を持っていれば叶えようとするだろう。ならば、最初から叶えられない立場にいることにするよ……」
「そんな……」
第一王子は自分の事をよく理解していたようだ。王が提案するより先に、自ら最善策を口にしたのだから。
「……そやつらの蟄居先になるカルヴィス辺境伯家には、年頃の令嬢がいる。話を通しておく故、そのつもりでいよ……」
「……承りました」
そして、王妃達三人がいなくなり、レンドル殿とレオの立てた作戦だったことをエレが知ったのだった。
「……エレ、ごめん!仲間外れにする気はなかったんだってば!!」
レオはそろそろ零れるんじゃないかというくらい目尻に涙を溜めている。
俺はレオの番ではあるが、レオにとっては現状、俺より半身であるエレの方が大事なのだ。実際問題。共にいられる時間も残り少ないのだから、尚更だろう。
俺的にはレオの許可も取らずに番にしてしまった手前、文句を言う訳にはいかん……。
なので、大人しく二人の成り行きを見ているのだ。
「……ああ、もうっ!怒ってないから、泣かないのっ!!」
結局、ポロポロと涙を溢れさせたレオに、エレが折れるように振り返り、その涙を指先で拭い取っていった。
「ほ、ほんとに?」
「レオには怒ってないよ…。自分に怒ってるだけ…」
「エレェ~~~ッ!!」
こうして無事に仲直りをした二人だったのだがーー。
グラシア王国からの依頼は、ゴブリンの作った町の殲滅だった。
集落ではなく、町。ゴブリンはもちろん、メイジにナイト。シャーマンや、ライダー、ジェネラル。極めつけにはキングまでいたので、町ではなく国と言ってもおかしくない規模の物だった。
「……《地震》!」
地下に巨大な都市を造っていた場所を、レオが【聖剣】を一振し、地割れを起こして埋没させた。
「それじゃあ、《大津波》!!」
追い討ちをかけるようにエレが大量の水を流し込んでいく。湖となったそこに、プカプカと浮かび上がるゴブリン達の死骸。
たまに運良く生き残っていた連中が岸に辿り着くが、それは待ち構えていた騎士や兵達に討伐されていく。
「……術二つで終わり…ですか…」
王太子となった第二王子は、呆気に取られてその光景を見ていた。
「討伐というより、ゴブリンの大量虐殺だな、これは……」
ゴブリン達を哀れに思っていると、ゴボゴボと湖の中央が泡立ち、ゴブリンキングが飛び出てきた。
『っ!!』
周囲が騒然となる中、
「《束縛》!」
「《風刃》!!」
エレが即座に動きを封じ、即座にレオが首をおとした。
『…………』
言葉をなくし、大口を開けたまま立ち尽くすグラシア王国の連中を見ながら、思い出した。
スタンピードの時。俺達もあんなんだったんだろうなぁ……。
こうして、呆気なく討伐依頼を終わらせて、グラシア王国の訪問を終えたのだったーーーー。
「エーレ?エレ、まだ怒ってる?怒ってるよね?」
夜会の翌日。自分だけが何も聞かされていなかったことを知ったエレは、見るからに不機嫌そのもので、レオは真っ青になって涙目で謝っていた。
「……怒ってない……」
レオと視線を合わさないまま、ずっとエレはそう答えているが、合わない視線にレオは怒っていると心配していた。
どちらかと言えば、あれは話してもらえなかった自分に腹を立ててるのだと思うのだがな……。
男である自分が、姉であるレオにばかり負担をかけているような気になっているのだと、以前に聞いたことがあったのだ。
腹芸に向かないのは、エレ本人も理解しているからなぁ……。
王妃と第三王女が王籍から抜かれることにより、『勇者』と『聖女』の誓言は無効になった。
夜会の後、別室にて俺達三人の立ち会いの元。国王と重鎮が集まり、王妃と第三王女に今後の処分が言い渡された。
「お、お待ちくださいませっ!御二方に最初に無礼を働いたのは、サラディナーサでございましょう?ならば「お母様っ!?」」
自分だけは助かろうとする王妃と、王妃だけ逃がすものかと食い下がる第三王女の醜い争いが繰り広げられ、全員がウンザリしていた頃だった。
「それで、グラシア王は第一王子はどうされるのですか?」
レオのこの発言に、一斉に場が静まり返った。
「……私…ですか?」
母と妹の醜い争いを無言で見ていただけの第一王子に、全員の視線が集まった。
「そ、そうですわ!次期国王の母が咎人では「王太子には第二王子を選んだと夜会の終わりに告げておる…」」
目を輝かせて発言する王妃の言葉は、グラシア王によって遮られた。
「……は?第二王子?何故でございます!たかが伯爵家の女の産んだ王子が、侯爵家の出のわたくしの産んだ王子よりも上に立つなど許されるわけがございません!」
『…………』
王妃の言葉に同意して頷いているのは、第三王女のみ。後の者達は第一王子も含めて信じられない顔で王妃を見ていた。
「心配せずともよい。側妃はそなたの実家の侯爵家の養女になることが決まっておる。そなたのいう侯爵家の出の女として、新たな王妃となるのでな……」
「な……。お、お父様やお兄様がそのようなこと…」
「これは侯爵からの提案である。これ以上、侯爵家のみならずグラシア王国の恥を晒させるわけにはいかぬとの言葉だ……」
「恥……。わたくしが侯爵家の…恥……」
騒ぎまくっていた王妃は、実家に見放されたことが信じられなかったのだろう。ブツブツと虚ろな目で呟き出した。
「…陛下。私も王族に相応しい者ではありません。どうか、臣下として降ることをお許しください……」
「お兄様っ!?」
「ナーサ。お前や母上を止められなかった私だ。王族としている限り、きっとお前達は私にすがろうとするだろう。そして、私は多分、叶えられる力を持っていれば叶えようとするだろう。ならば、最初から叶えられない立場にいることにするよ……」
「そんな……」
第一王子は自分の事をよく理解していたようだ。王が提案するより先に、自ら最善策を口にしたのだから。
「……そやつらの蟄居先になるカルヴィス辺境伯家には、年頃の令嬢がいる。話を通しておく故、そのつもりでいよ……」
「……承りました」
そして、王妃達三人がいなくなり、レンドル殿とレオの立てた作戦だったことをエレが知ったのだった。
「……エレ、ごめん!仲間外れにする気はなかったんだってば!!」
レオはそろそろ零れるんじゃないかというくらい目尻に涙を溜めている。
俺はレオの番ではあるが、レオにとっては現状、俺より半身であるエレの方が大事なのだ。実際問題。共にいられる時間も残り少ないのだから、尚更だろう。
俺的にはレオの許可も取らずに番にしてしまった手前、文句を言う訳にはいかん……。
なので、大人しく二人の成り行きを見ているのだ。
「……ああ、もうっ!怒ってないから、泣かないのっ!!」
結局、ポロポロと涙を溢れさせたレオに、エレが折れるように振り返り、その涙を指先で拭い取っていった。
「ほ、ほんとに?」
「レオには怒ってないよ…。自分に怒ってるだけ…」
「エレェ~~~ッ!!」
こうして無事に仲直りをした二人だったのだがーー。
グラシア王国からの依頼は、ゴブリンの作った町の殲滅だった。
集落ではなく、町。ゴブリンはもちろん、メイジにナイト。シャーマンや、ライダー、ジェネラル。極めつけにはキングまでいたので、町ではなく国と言ってもおかしくない規模の物だった。
「……《地震》!」
地下に巨大な都市を造っていた場所を、レオが【聖剣】を一振し、地割れを起こして埋没させた。
「それじゃあ、《大津波》!!」
追い討ちをかけるようにエレが大量の水を流し込んでいく。湖となったそこに、プカプカと浮かび上がるゴブリン達の死骸。
たまに運良く生き残っていた連中が岸に辿り着くが、それは待ち構えていた騎士や兵達に討伐されていく。
「……術二つで終わり…ですか…」
王太子となった第二王子は、呆気に取られてその光景を見ていた。
「討伐というより、ゴブリンの大量虐殺だな、これは……」
ゴブリン達を哀れに思っていると、ゴボゴボと湖の中央が泡立ち、ゴブリンキングが飛び出てきた。
『っ!!』
周囲が騒然となる中、
「《束縛》!」
「《風刃》!!」
エレが即座に動きを封じ、即座にレオが首をおとした。
『…………』
言葉をなくし、大口を開けたまま立ち尽くすグラシア王国の連中を見ながら、思い出した。
スタンピードの時。俺達もあんなんだったんだろうなぁ……。
こうして、呆気なく討伐依頼を終わらせて、グラシア王国の訪問を終えたのだったーーーー。
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