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第九章 他国訪問〔グラシア王国〕
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[アルテ視点]
エレが視線で助けを呼んでいる。通常ならば助けに行くのだが、今回は相手が悪い……。
これもまあ、経験と思って頑張れよ………。
顔の前で手を合わせ、詫びを入れて見せると、エレの口の端がひくついていた。
そもそも貞操の危機でもない限り、手だし口出し出来るはずもなく。エレ自身に頑張ってもらうしかない。
「初めまして。アタクシ、グラシア王国第三王女サラディナーサと申しますわ♪」
黒髪に水色の瞳の姫君は、真っ赤な唇を目立たせて笑みを浮かべました。従姉妹だけあって、王妃様に似たお顔立ちですが、何と言うかこう…王妃様と比べると品がな…ゲフンゲフン。
「……これはわざわざありがとうございます。エレオノールと申します…」
スっと姫君が手をエレに差し出しましたが、エレは気付かないふりをしてます。
淑女の手を取り、甲に口付けをすることは、人族領では好意を持っているという証です。本来は男性側から求めて手を任せてもらえたら行う行為であって、女性側から求めるのはマナー違反です。
「「……………」」
姫君は無言で微笑んだまま、エレの胸の高さまで手を持ち上げてますが、同じく無言で微笑むエレは全く動く気配がありません。
さらに周りを囲んでいた皆様は、姫君のこの行いに顔を顰めてらっしゃる方々ばかり。
どーすんだよ、これ…………。
ハラハラしながら見守ることしか出来ません。
「エレーー♪これ、美味しいよ。食べてみ♪」
そんな状況を空気を気にせず打開してしまうのが、我らが『勇者』レオノーラです。
皿に乗せた料理を持って現れるなり、エレの口に料理を押し付けました。
「…んぐ…。レオ、いきなりは止めてよね…。あ、でも。これ美味しいね…」
「でしょー?作り方聞いたら、教えてもらえるかな?」
完っ全に姫君の存在無視です。
ですが、周囲の皆様は明るい雰囲気のレオに絆されたらしく、笑顔を浮かべて双子を見ています。
「~~~っ!!ちょっと、貴女!王女のアタクシを前に無礼でしてよ!」
持っていた扇をレオに突きつけ、姫君が怒鳴りだしました。
「無礼?一国の王女如きが国賓に対して 好意を強要するのは無礼ではないとでも?」
『っ!?』
レオの気配が『勇者』としてのモノに変わると、周囲の皆様の顔が青ざめていきました。
姫君もガタガタ震えだしています。
それもそうですよね。今のレオは討伐に向かう時のような殺気を周囲に漂わせています。慣れてる騎士や肝の据わった方々でない限り、かなり怖いと思われます。
「………」
いつもなら止めそうなエレも、レオの隣でどうしようかと悩んでいる模様です。気持ちは分かる!
「どうした、レオ?魔物でもいたか?」
そんなレオをポスンとご自身の腕の中に捕らえながら、ガディル殿下が声をかけました。
「ガディル……」
その瞬間、レオから殺気が消えてしまいました。
「……まぁ……。んまぁっ!貴方、どなたかしら?アタクシは第三王女の「黙れ」」
現れたガディル殿下の姿を認めるなり、声を弾ませて名乗ろうとする姫君は、名乗ることなく殿下に遮られました。
「…レオ。先程から食べてばかりではないか。久しぶりなのだから、オレと一曲くらいは踊ってもよくないか?」
「えー。んじゃ、このお皿食べ終わってからでもいーい?」
レオの髪を指に搦めて口付けながらダンスを要求する殿下に、自分の要求を押し通そうとするのは変わりません。
「…分かった。だが食べ終えたら絶対だぞ?」
黙々と食べ始めるレオを腕の中に収めたまま、殿下はレオの頭に顔を寄せて待っています。
「~~っ!アタクシに対して、無礼にも程がありましてよ!見目が良いからと特別に声をかけて上げたのに…」
目の前でいちゃついている二人に腹が立ったのか。存在を無視されて腹が立ったのか。恐らくどっちもなのでしょう。姫君は顔を真っ赤にして、体を怒りでブルブルと震わせています。
「衛兵っ!この無礼者共を牢に入れておしまいなさいっ!!」
エレが視線で助けを呼んでいる。通常ならば助けに行くのだが、今回は相手が悪い……。
これもまあ、経験と思って頑張れよ………。
顔の前で手を合わせ、詫びを入れて見せると、エレの口の端がひくついていた。
そもそも貞操の危機でもない限り、手だし口出し出来るはずもなく。エレ自身に頑張ってもらうしかない。
「初めまして。アタクシ、グラシア王国第三王女サラディナーサと申しますわ♪」
黒髪に水色の瞳の姫君は、真っ赤な唇を目立たせて笑みを浮かべました。従姉妹だけあって、王妃様に似たお顔立ちですが、何と言うかこう…王妃様と比べると品がな…ゲフンゲフン。
「……これはわざわざありがとうございます。エレオノールと申します…」
スっと姫君が手をエレに差し出しましたが、エレは気付かないふりをしてます。
淑女の手を取り、甲に口付けをすることは、人族領では好意を持っているという証です。本来は男性側から求めて手を任せてもらえたら行う行為であって、女性側から求めるのはマナー違反です。
「「……………」」
姫君は無言で微笑んだまま、エレの胸の高さまで手を持ち上げてますが、同じく無言で微笑むエレは全く動く気配がありません。
さらに周りを囲んでいた皆様は、姫君のこの行いに顔を顰めてらっしゃる方々ばかり。
どーすんだよ、これ…………。
ハラハラしながら見守ることしか出来ません。
「エレーー♪これ、美味しいよ。食べてみ♪」
そんな状況を空気を気にせず打開してしまうのが、我らが『勇者』レオノーラです。
皿に乗せた料理を持って現れるなり、エレの口に料理を押し付けました。
「…んぐ…。レオ、いきなりは止めてよね…。あ、でも。これ美味しいね…」
「でしょー?作り方聞いたら、教えてもらえるかな?」
完っ全に姫君の存在無視です。
ですが、周囲の皆様は明るい雰囲気のレオに絆されたらしく、笑顔を浮かべて双子を見ています。
「~~~っ!!ちょっと、貴女!王女のアタクシを前に無礼でしてよ!」
持っていた扇をレオに突きつけ、姫君が怒鳴りだしました。
「無礼?一国の王女如きが国賓に対して 好意を強要するのは無礼ではないとでも?」
『っ!?』
レオの気配が『勇者』としてのモノに変わると、周囲の皆様の顔が青ざめていきました。
姫君もガタガタ震えだしています。
それもそうですよね。今のレオは討伐に向かう時のような殺気を周囲に漂わせています。慣れてる騎士や肝の据わった方々でない限り、かなり怖いと思われます。
「………」
いつもなら止めそうなエレも、レオの隣でどうしようかと悩んでいる模様です。気持ちは分かる!
「どうした、レオ?魔物でもいたか?」
そんなレオをポスンとご自身の腕の中に捕らえながら、ガディル殿下が声をかけました。
「ガディル……」
その瞬間、レオから殺気が消えてしまいました。
「……まぁ……。んまぁっ!貴方、どなたかしら?アタクシは第三王女の「黙れ」」
現れたガディル殿下の姿を認めるなり、声を弾ませて名乗ろうとする姫君は、名乗ることなく殿下に遮られました。
「…レオ。先程から食べてばかりではないか。久しぶりなのだから、オレと一曲くらいは踊ってもよくないか?」
「えー。んじゃ、このお皿食べ終わってからでもいーい?」
レオの髪を指に搦めて口付けながらダンスを要求する殿下に、自分の要求を押し通そうとするのは変わりません。
「…分かった。だが食べ終えたら絶対だぞ?」
黙々と食べ始めるレオを腕の中に収めたまま、殿下はレオの頭に顔を寄せて待っています。
「~~っ!アタクシに対して、無礼にも程がありましてよ!見目が良いからと特別に声をかけて上げたのに…」
目の前でいちゃついている二人に腹が立ったのか。存在を無視されて腹が立ったのか。恐らくどっちもなのでしょう。姫君は顔を真っ赤にして、体を怒りでブルブルと震わせています。
「衛兵っ!この無礼者共を牢に入れておしまいなさいっ!!」
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