上 下
70 / 110
第七章 神獣様と一緒!

しおりを挟む
[レオノーラ視点]

「まさか、本当につがいを見つけられたとは。しかもそれが『勇者』とは!殿下も運がよろしいことで、うらやましいですな!!」

    ガディルのつがいと認められるなり、あちこちから途切れることなく話しかけてくる。

    いや。そもそもつがいって何?

「『勇者』殿も、かようにお美しい方だったとは。我が魔族領は幸せですな~」

    何、それ。訳が分かんないよ。『勇者』の私に関係なくない?

    ひっきりなしに話しかけられても、隣のガディルはご機嫌で対応してるけど、こっちはさっぱり会話の内容が理解できない。隣りで首を傾げながら、「はあ…」とか「どうも…」としか答えようもない。

『クパッ!』

「へ?」

   突然、右肩の側からきんちゃんの声がした。

「っ!?」

   そちらを見れば、宙に浮いた赤ワインらしき液体がシュルシュルと右肩に流れてきていて、見るとノーマルサイズになったきんちゃんの口に 吸い込まれていった。

    いや、いつからそこにいたの?

『……………』

   突然の出来事に、周りは唖然茫然状態だ。そんな中、ものすごーく派手な格好のご令嬢が、空になったワイングラスをこちらに向けて立っていた。

「な、な、な、何なんですのっ!?何で、肩にワインが消えていきましたの!?顔を狙ったはずですのに…」

    ああ。嫌がらせだったのか。

    納得していると、グイッとガディルに腰を引かれ、顔を胸に押し付けられた。

「…お前。クシュリム家のアラベルだな…。我がつがいに何の真似だ……」

    初めて会った時のような傲慢な口調に、そう言えばこんな感じでしゃべってたなあ…なんて、呑気に思ってた。

「…だって…。だって、その女が悪いのですわっ!本当ならば、アタクシが殿下の妃になるはずでしたのに…。なのにつがいだなんて……。側妃にすらなれないなんて……」

    アラベルさんが泣きながら話してる。なるほど、私が成り代わったのか。と、納得しつつ、やはりつがいって何なんだ?という疑問が残る。

「…ねぇ。ねえってば!」

    しっかりと押さえ込んで離してくれないガディルの背中を叩き、意識をこちらに向けさせた。

「…どうした?」

   緩んだ腕から抜け出し、一歩分だけ離れた。

「ずーっと気になってたんだけど、つがいって何のこと?」

    私の言葉に、周りは「何言ってんだ、こいつ?」みたいな顔になっている。解せぬ……。

「……言ってなかったか?」

「聞いてない。なーんも聞いてない!」

    腰に手をやり、仁王立ちになると、背後からアルテの声がした。

「ドレス姿でやるんじゃないっ!」

   無視してようかと思ったけど、帰国してダリヤ達にチクられても困るので、腕組みに変えながらも、ガディルを見上げた。

「ご説明いたします…」

   呆れ顔で現れたラムダスさんによると、私の知らない間につがい契約をされていたらしい。

「本来ならば人族のレオ様は寿命が我らより短いですが、殿下のつがいとなられましたことで、殿下と同じ寿命となりました。子供もお二人が求めない限り作ることは出来ません…。今回開かれました【婚約者選別パーティー】とは、人族として寿命の尽きたレオ様の後に、殿下の正妃となる側妃を選ぶためのものでした。ですが、つがいならば、その寿命は殿下と等しいものとなります。故に側妃を選ぶ必要性もないのです……」

    ブチッ。と何かが切れた音がしてから、まともに覚えてない。


※※※※※※※※※※
[アルテ視点]

「………はああぁっ??」

    バチバチバチッ!

    ラムダス殿の説明が終わるなり、レオの体の周囲に雷が発生した。

「……親父。あれって……」

「ああ。本ギレしたな……。エレもいないのに、どうしたものか……」

    王都に来てしばらくの頃、レオは二度ばかし本気でキレてしまった事がある。
    一度目は村に残っていた両親を捕え、自分達の言いなりにしようとした貴族連中に。
    二度目はレオ達に無理やり会おうとしていた貴族を遮っていたダリヤが突き飛ばされて怪我をした時に。

    どちらの時も身体中に雷をまとい、周辺の建物が焼け焦げたり、吹き飛んだりしたが、側にいたエレによって人的被害は出なかった。

    そして、三度目となるだろう今回。エレは不在である。

「……レ、レオ?お前に内緒で勝手に契約したことは謝る……」

「謝るぅ?人の寿命に関わること、勝手にやらかしといて、ふざけんじゃないわよっ!」

『っ!』

    バリバリバリ…

    おびただしい数の雷撃が発生した瞬間、オレも親父も終わりを悟った。
  
    魔王城。崩れませんように…。

    そう祈った瞬間、奇跡が起きたのだ。

「クーパーァァァ、クパアッ!!」

   レオの肩から飛び出したきんちゃんが元のサイズに戻るなり、カパッと口を開けて、全ての雷撃を飲み込んだのだ。

「……クパフ……」

    ゲップらしき音をさせ、きんちゃんは一つ頷いた。

    周囲は雷撃から身を守ろうとして、しゃがみこんでる方々ばかりで、ハアハアと肩で息をしているレオの前にポテポテと近寄ると、尻尾を支えに体を持ち上げた。

「危ないのはダメクパ!反省するクパッ!!」

 「っ!!」

   ブンと音を立てて、きんちゃんの頭突きがレオの頭に落ちていたーーーー。




     






しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...