双子の姉は『勇者』ですが、弟の僕は『聖女』です。

ミアキス

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第七章 神獣様と一緒!

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[アストル視点]

「そんな重いもの運んでたら、危ないクパ。運んであげるから、案内するクパ」

    パカッと空いた口に、大量の洗い終わった洗濯物が吸い込まれていき、数人のランドリーメイドの喜ぶ声を聞きながら、その後をついて行くのは、神獣きんちゃん様。
    先日、魔族領での討伐から戻ったレオ姉様達が連れて来られた神獣様は、王宮のあちこちで見かけます。

    確か昨日は、王宮の菜園にいらっしゃいました……。

    作物に付いた害虫を取っていた者達が、有難がって野菜を貢いでましたね。

「ずっとしゃがんでいたら、腰を痛めるクパ。男の腰は大事クパ!」

    そう言った神獣様は、なんと害虫だけ・・・・を吸い込まれたそうです。
    そのすぐ後に会ったレオ姉様に伝えると、

「驚きの吸引力かっ!」

   などと叫ばれました。訳が分かりません。
    そんな訳で、妹のエマと一緒にいない時は、王宮のあちこちを覗いていらっしゃるようで、最初は恐れ多いと避けられていたようですが、今ではすっかり皆と顔なじみです。

「こんにちはクパ♪アル殿下はお出かけクパ?」

「はい。これから、王都の様子を見に行きます」

    今日は月に数回の『お忍び』授業。身分を隠して、民の様子を見る授業なのです。

「………楽しそうクパ…」

   じーっと見つめられているのですが、これは同行したいということでしょうか?

「えっと…」

    どうすればいいのか、振り返って護衛を見れば、皆が皆、左右に首を振りました。

    ですよね。神獣様と歩けば、間違いなく『お忍び』になりません。

「あれ?どうしたの、アル?」

    ちょうどエレ兄様が通りがかったので、話してみると、

「ああ。じゃあ、馬車の中から見る程度なら、私が神殿に行くから出来ると思うよ」

   そう仰ってくださったので、神獣様はエレ兄様に同行されることになりました。

    その数日後。再び『お忍び』授業の日。私はとある噂を耳にしました。

「小神殿での説法はもう聞いたかい?」

    屋台のご婦人が、買ったばかりの肉串を渡しながらそう聞いてきました。

「…説法…ですか?いえ、まだ聞いてないです…」

「そうなのかい?大神殿に『聖女』様がいらっしゃる日だけなんだけどね。ミカナ・ゲオナ様の小神殿で、女神様付きの神獣様が、ありがたーい説法を聞かせてくれんだよ。今度、時間が合えば聞いてごらん!」

「…そうなんですね。ありがとうございます…」

    神獣様の説法って、どんなことを話してるのでしょうか?

「え?きんちゃんの説法?きんちゃん、そんなことやってんの?」

    戻った先で出会ったレオ姉様に尋ねると、レオ姉様も知らなかったらしく、次の機会に同行することになりました。

「夫が赤ん坊より自分を優先しろと言うのです…」

「子供は国の宝クパ。一家の大黒柱の夫は確かに偉いかもしれないクパ。それでも、幼子に一番必要なのは母親クパ。子供を優先されたくないなら、子作りするなクパ!」

「「…………」」

    私とレオ姉様が物陰から見ていた光景は、説法とは違う気がします。

「【きんちゃんの人生相談室】できてんじゃん…」

    レオ姉様がボソリとそう仰いました。

    なるほど、人生相談。確かにそんな感じです。
    この人生相談室は、王宮内でも至る所で目につくようになりました。

「……テント張って、防音結界張ればいいんだよ…」

    私の宮とエマの宮の間に、レオ姉様がテントを張りました。
    テントの入口には騎士が一人立っています。騎士の立っている時は、神獣様への人生相談ができるのだそうです。

「…【神獣人生相談出張所】…。これ、レオ姉様の字だよね?」

    テントの前に置かれた看板には、レオ姉様の字でそう書かれていました。

「「あ………」」

    中から出てきた人物と視線が合いました。

「……父様。何を相談されてるんですか……」

    出てきたのは我が国の国王たる私の父でした。

「……うむ。少し個人的な相談をだな…」

   そのうち、私は利用させてもらおうと思いましたーーーー。


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