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第四章 思惑は絡み合って成立する
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今回、流血シーンありますので、ご注意願います。
**********
[レオノーラ視点]
エレと私の周りを囲んだ神官達は、手に手に武器を持っている。
最初からエレを捕まえる気だったという事だろうけど、私がそんな真似させるわけがない。
「ふむ。だが、【聖杖】はエレオノールを選んでいるが、その説明は?」
ニヤニヤしながらレン兄様が大神殿長に聞いています。
……これ、知ってましたね、前もって……。
大方、私達二人ならどうとでもすると思って放っておいたんだろうなぁ…。どうとでもなるけど。
「無論、説明致しましょう!咎人をこれに!」
「きゃっ!」
『っ!?』
大神殿長の言葉に、一人の神官に腕を掴んで連れてこられたのはフレイアでした。
「このトワレ男爵令嬢なる者が、偽の【聖杖】を作成させて、すり替えていたのです!!」
「「はあ?」」
自信満々に言ってるけど、どうせトワレ男爵家が魔導具の優先提供を断ったからの腹いせ兼ねての濡れ衣なのは分かっている。
フレイアからトワレ男爵領が魔導具の作成が盛んな地域であり、最近大神殿から無茶な要求がきて困ると話を聞いていたからだ。
「さあ!罪を認め、全ての真実を話すのだ!!」
「そのような事実はございません!当家が優先提供のお話をお断りしたからと、このような真似をなさるなど……」
「無礼者っ!」
「っ!!」
きっぱりと話したフレイアは、控えていた神官に殴り倒された。
「フレイア!」
『動くなっ!』
駆け寄ろうとしたエレは、剣を突きつけられた。
「……仮にエレが偽者だとして、エレをどうするつもりですか?双子の姉の私も『勇者』の偽者だと仰いますか?」
にっこり笑ってそう聞くと、大神殿長はニタリと笑った。
「とんでもない。『勇者』は間違いなく貴女であろう。しかし、『聖女』はこちらのオリエラに間違いないのですよ…」
「…へえ。じゃあ、《完全回復》も使えるよね?」
「は?」
言うなり近くの神官から取り上げた剣を手に、大神殿長の右手を切り落とした。
ゴトリと音を立てて転がる手首。そして、滴り落ちる赤い血。
「……ぎ、ぎゃゃゃゃあああっ!!手が…、ワシの手がぁぁっ!」
叫び回る大神殿長の切り落とした右手を拾い上げ、その体を青ざめている『聖女』とやらに突き飛ばす。
「ねえ。貴女は本物の『聖女』なんでしょ?だったら、エレが使える《完全回復》も使えるよね?だって、偽物が使えるんだから、出来るでしょ?はい、どうぞ♪」
「ひっ!」
『聖女』の手を取り、右手を置くと振り落とされた。
「何してんの?早くしないと、大神殿長の右手、付かなくなっちゃうよ?」
真っ青になってガタガタ震えてるけど、許してなんかあげないよ♪貴女は自分から『聖女』に志願したはずだからね。
だって見えてたよ。貴女が紹介された時に口元に浮かべた笑み。
エレや私に自分の欲を叶えるだけに近寄ってくる人達と同じもの。
『聖女』や『勇者』の背負う覚悟を軽く考えてるから、偽物騒動を起こせるんだよ。
だから、ちゃんと貴女とエレの違いを、周囲に証明させてあげるよ。
「オ、オリエラ!早く…、早く治せ!!」
大神殿長は口から唾を飛ばしながら、左手で掴みかかっている。
「で…、出来ません。私はこの間やっと《範囲回復》を覚えたばかりで…」
「エレのカトルディンが偽物なら、貴女は本物のカトルディン持ってるんでしょ?【聖杖】に認められた者が『聖女』になるんだもん。それ使えば?」
見掛け倒しの杖を指させば、恐る恐るそれを持ち上げた。
「……か、かの者に大いなる癒しの光と奇蹟を与えたまえ…。《完全回復》…」
詠唱をした所で、力のない杖と彼女がそれを発動出来るはずもない。
「……何も起こらないな?」
肩を竦めたレン兄様が、そう言って近寄ってくる。
「ふむ。これは不思議だな。偽物だと言われるエレが使える《完全回復》が使えないとは。これはどう説明するのかな、大神殿長?」
「そ、そんな事よりワシの治療を……」
だいぶ血を流したからか、顔は青ざめていっているし、死への恐怖からか汗もかなりかいている。
「だからそちらの『聖女』様に治してもらえばいいでしょ?エレは偽物だそうだから♪」
にっこり笑う私を悔しそうに睨みながら、それでも自分の命は大事だったらしい。
「エレオノール殿っ!ワシの治療「お断りです!」」
エレに向かって先のない右腕を伸ばしたけど、食い気味で拒まれた。
「……どけ……」
腰に帯びていた剣を引き抜き、囲んでいた神官達を叩き伏せると、倒れたままのフレイアの側に行く。
「《回復》…」
フレイアの殴られて腫れていた顔が元に戻る。
「な…」
周りの倒されていた神官達は、茫然としてエレを見ていた。
「なあに、エレが剣を使えないとでも思ってた?エレも私も剣も魔法も使えるよ?ただお互いの『職業』のせいで、威力に差はあるけどね、こんな風にさ…」
大神殿長の前に立ち、私は左手を突き出した。
「…《完全回復》」
落ちていた右手と傷口が光り始めると、引き寄せられるように右手が浮かんでくっついていき、赤く走っていた切り跡が、うっすらと消えていき、光が収まる頃には元に戻っていた。
「…馬鹿な…。何故、『勇者』がこれほどの回復魔法を使える……」
大神殿長は信じられないと首を振っている。
「だから言ってるでしょ?わたしもエレも大抵のスキルは二人とも使える。威力に差があるだけ。手首を繋げるくらいなら、私でもできる。でも、胴体が離れたら私では治せない。エレは治せるけどね……。試してみる?」
にっこり笑って剣を振り上げる。
「き、貴様らは神に仇なす者達だな!だから、この様な真似ができるのだ!!」
「……意外と往生際が悪いな…」
レン兄様の呟きが聞こえた。
「…レン兄様。大神殿長、要らなくない?」
剣を振り上げたまま聞くと、うーんと悩む顔をする。
「私的には必要ないけど、レオにそんなの切らせたくはないしなぁ…」
兄様、本音出てますよ……。
呆れながらも剣を下ろすと、大神殿長はすごい顔でこっちを睨んでいた。
さあて、どうしてくれようか、このジジイ……。
そう思っている時だった。
「この場は預からせていただきましょう……」
頭上から女の人の声が聞こえてきたのだーーーー。
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[レオノーラ視点]
エレと私の周りを囲んだ神官達は、手に手に武器を持っている。
最初からエレを捕まえる気だったという事だろうけど、私がそんな真似させるわけがない。
「ふむ。だが、【聖杖】はエレオノールを選んでいるが、その説明は?」
ニヤニヤしながらレン兄様が大神殿長に聞いています。
……これ、知ってましたね、前もって……。
大方、私達二人ならどうとでもすると思って放っておいたんだろうなぁ…。どうとでもなるけど。
「無論、説明致しましょう!咎人をこれに!」
「きゃっ!」
『っ!?』
大神殿長の言葉に、一人の神官に腕を掴んで連れてこられたのはフレイアでした。
「このトワレ男爵令嬢なる者が、偽の【聖杖】を作成させて、すり替えていたのです!!」
「「はあ?」」
自信満々に言ってるけど、どうせトワレ男爵家が魔導具の優先提供を断ったからの腹いせ兼ねての濡れ衣なのは分かっている。
フレイアからトワレ男爵領が魔導具の作成が盛んな地域であり、最近大神殿から無茶な要求がきて困ると話を聞いていたからだ。
「さあ!罪を認め、全ての真実を話すのだ!!」
「そのような事実はございません!当家が優先提供のお話をお断りしたからと、このような真似をなさるなど……」
「無礼者っ!」
「っ!!」
きっぱりと話したフレイアは、控えていた神官に殴り倒された。
「フレイア!」
『動くなっ!』
駆け寄ろうとしたエレは、剣を突きつけられた。
「……仮にエレが偽者だとして、エレをどうするつもりですか?双子の姉の私も『勇者』の偽者だと仰いますか?」
にっこり笑ってそう聞くと、大神殿長はニタリと笑った。
「とんでもない。『勇者』は間違いなく貴女であろう。しかし、『聖女』はこちらのオリエラに間違いないのですよ…」
「…へえ。じゃあ、《完全回復》も使えるよね?」
「は?」
言うなり近くの神官から取り上げた剣を手に、大神殿長の右手を切り落とした。
ゴトリと音を立てて転がる手首。そして、滴り落ちる赤い血。
「……ぎ、ぎゃゃゃゃあああっ!!手が…、ワシの手がぁぁっ!」
叫び回る大神殿長の切り落とした右手を拾い上げ、その体を青ざめている『聖女』とやらに突き飛ばす。
「ねえ。貴女は本物の『聖女』なんでしょ?だったら、エレが使える《完全回復》も使えるよね?だって、偽物が使えるんだから、出来るでしょ?はい、どうぞ♪」
「ひっ!」
『聖女』の手を取り、右手を置くと振り落とされた。
「何してんの?早くしないと、大神殿長の右手、付かなくなっちゃうよ?」
真っ青になってガタガタ震えてるけど、許してなんかあげないよ♪貴女は自分から『聖女』に志願したはずだからね。
だって見えてたよ。貴女が紹介された時に口元に浮かべた笑み。
エレや私に自分の欲を叶えるだけに近寄ってくる人達と同じもの。
『聖女』や『勇者』の背負う覚悟を軽く考えてるから、偽物騒動を起こせるんだよ。
だから、ちゃんと貴女とエレの違いを、周囲に証明させてあげるよ。
「オ、オリエラ!早く…、早く治せ!!」
大神殿長は口から唾を飛ばしながら、左手で掴みかかっている。
「で…、出来ません。私はこの間やっと《範囲回復》を覚えたばかりで…」
「エレのカトルディンが偽物なら、貴女は本物のカトルディン持ってるんでしょ?【聖杖】に認められた者が『聖女』になるんだもん。それ使えば?」
見掛け倒しの杖を指させば、恐る恐るそれを持ち上げた。
「……か、かの者に大いなる癒しの光と奇蹟を与えたまえ…。《完全回復》…」
詠唱をした所で、力のない杖と彼女がそれを発動出来るはずもない。
「……何も起こらないな?」
肩を竦めたレン兄様が、そう言って近寄ってくる。
「ふむ。これは不思議だな。偽物だと言われるエレが使える《完全回復》が使えないとは。これはどう説明するのかな、大神殿長?」
「そ、そんな事よりワシの治療を……」
だいぶ血を流したからか、顔は青ざめていっているし、死への恐怖からか汗もかなりかいている。
「だからそちらの『聖女』様に治してもらえばいいでしょ?エレは偽物だそうだから♪」
にっこり笑う私を悔しそうに睨みながら、それでも自分の命は大事だったらしい。
「エレオノール殿っ!ワシの治療「お断りです!」」
エレに向かって先のない右腕を伸ばしたけど、食い気味で拒まれた。
「……どけ……」
腰に帯びていた剣を引き抜き、囲んでいた神官達を叩き伏せると、倒れたままのフレイアの側に行く。
「《回復》…」
フレイアの殴られて腫れていた顔が元に戻る。
「な…」
周りの倒されていた神官達は、茫然としてエレを見ていた。
「なあに、エレが剣を使えないとでも思ってた?エレも私も剣も魔法も使えるよ?ただお互いの『職業』のせいで、威力に差はあるけどね、こんな風にさ…」
大神殿長の前に立ち、私は左手を突き出した。
「…《完全回復》」
落ちていた右手と傷口が光り始めると、引き寄せられるように右手が浮かんでくっついていき、赤く走っていた切り跡が、うっすらと消えていき、光が収まる頃には元に戻っていた。
「…馬鹿な…。何故、『勇者』がこれほどの回復魔法を使える……」
大神殿長は信じられないと首を振っている。
「だから言ってるでしょ?わたしもエレも大抵のスキルは二人とも使える。威力に差があるだけ。手首を繋げるくらいなら、私でもできる。でも、胴体が離れたら私では治せない。エレは治せるけどね……。試してみる?」
にっこり笑って剣を振り上げる。
「き、貴様らは神に仇なす者達だな!だから、この様な真似ができるのだ!!」
「……意外と往生際が悪いな…」
レン兄様の呟きが聞こえた。
「…レン兄様。大神殿長、要らなくない?」
剣を振り上げたまま聞くと、うーんと悩む顔をする。
「私的には必要ないけど、レオにそんなの切らせたくはないしなぁ…」
兄様、本音出てますよ……。
呆れながらも剣を下ろすと、大神殿長はすごい顔でこっちを睨んでいた。
さあて、どうしてくれようか、このジジイ……。
そう思っている時だった。
「この場は預からせていただきましょう……」
頭上から女の人の声が聞こえてきたのだーーーー。
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