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第四章 思惑は絡み合って成立する
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王太子のお披露目を済ませ、ファーストダンスを王族が踊る中、半ば強制的に共に踊らされている一組のカップルが、『勇者』レオと、『聖女』エレである。
黒い騎士服のレオと、白い修道服のエレが踊る姿に、周囲はホウッと感嘆の溜息を漏らしている。
普段は絶対に踊ることの無い二人の姿に、次のダンスは自分が!と、意気込む集団も見られた。
「すんごい見られてるんだけど……」
「獲物見つけた魔物の視線より怖いよね…」
既に次のダンスの相手は決まっているのだが、気分が滅入るほどの念の籠った視線の多さに、二人はげんなりとしていた。
ダンスが終わると、身構える姿が目に入る。
ーーそれも何処まで持つかなぁ……。
そう思いながら、二人は国王夫妻の側に立つ。
「本日は王太子の紹介とは別に、ここで皆に改めて紹介しておきたいことがある!!」
レンドルがチラリと双子を見る。その口元にはニヤリとした笑みが浮かんでいる。
ーーホント、人を驚かすの好きだよねぇ、レン兄様は……。
呆れながらも二人は、姿変えの魔導具を外す用意をした。
指輪タイプのそれは、一回きりの使い捨てと言われたため、外すタイミングも本番一回きりで、失敗するわけにはいかない。
「『勇者』と『聖女』はこれからも我らと共にいてくれると、王太子にも約束してくれた!さあ、改めて彼らを紹介しよう!」
レンドルの体が二人へと向けられた。
「『勇者』レオノーラ!!『聖女』エレオノール!!」
※※※※※※※※
[アストル視点]
父上の呼ぶ声に、レオ姉様とエレ兄様は、指輪を同時に外しました。
『ーーっ!!』
その途端に本来の姿で着飾ったお二人の姿が現れると、会場の貴族達や招待されていた他国の皆様も声を失いました。
長い黒髪を複雑に結い上げ、銀に黒曜石を嵌め込まれた蝶の髪飾りと、揃いの耳飾りと首飾りを身に付けたレオ姉様は、そのスラリとした体にまとわりつく様な群青色のマーメイドラインのドレス姿。
その袖や襟、裾周りには金糸銀糸の美しい刺繍が、レオ姉様の美しさを引き立てていました。
そして、レオ姉様をエスコートするエレ兄様は、白いタキシード姿です。金色の髪を首の後ろで薄水色のリボンで一つに纏め、衣装のあちこちにさりげなく白銀色の刺繍が施され、所々に小粒のアクマアリンが光っています。
そして、父上から渡されたという剣が、左腰に下げられていました。
カッコイイです!とても『聖女』には見えません!!
父上の前に歩み出ると、お二人は騎士の礼と淑女の礼をとりました。
「「我らの力は民のため。我らの心は王家と共に…」」
「……その言葉。ヒューゲル王家は確かに受け取った!」
お二人の言葉に父上が頷いた時でした。
「そこの『聖女』を騙る不届き者を捕らえよ!!」
招待客であった『ディマ教』の大神殿長が声を上げました。
彼の周囲にいた神官達が突然、武器を構えてエレ兄様に向かっていったのです!
「は?」
「えっと……」
お二人はぽかんとしている間に、周りを囲まれてしまいました。
「……大神殿長。これはどういうことか?」
父上の声に、大神殿長は一人の女性を伴って近寄ってきます。
「どういうこととは?陛下、『聖女』でございますよ?『聖女』が男などと、そのような事があるはずございません。つまりそこの者は、男の身でありながら、『聖女』を騙る不届き者でございます。その証拠に、本物の聖女はこちらに…」
大神殿長の言葉に、隣りの女性がしずしずと跪きました。
「こちらは『聖女』オリエラ。紛れもなく正しき『聖女』にございます…」
周囲は何とも言えない顔で、事態を見守っています。
確かに男の身で『聖女』などと、信じられないことでしょう。ですが、エレ兄様は確かに『聖女』であることは何度も確認され、何より【聖杖】カトルディンはエレ兄様を選んでいるのです。
「ふむ。だが、【聖杖】はエレオノールを選んでいるが、その説明は?」
父上がニヤニヤ笑いながら尋ねています。
あ、これは最初からこの事態を知ってましたね?どうせ、お二人なら何とでもするだろうと、放置しましたね?
思わず半目で父上を見ていると、僕の左袖が引かれました。
「………」
婚約者として発表されたばかりの侯爵令嬢アローリアが、不安気にお二人を見ています。
アローリアは一昨年に家族で領地に戻る途中、魔物の群れに襲われているところをお二人に助けられたのです。
「…アロア、大丈夫ですよ」
僕がポンポンとアローリアの手を叩くと、ゆっくりと息を吐き出し、笑顔でこちらを見ました。
「はい、アル様。お二人が偽物であるなど有り得ませんものね♪」
アローリアの言う通り、有り得ないことです。
大神殿長は、何を考えているのでしょうか?
年寄りの考えは僕には理解不能ですーーーー。
**********
すみません。
ドタバタしてて、更新遅れました。
今日は日付変わる前にも一話更新予定です。
黒い騎士服のレオと、白い修道服のエレが踊る姿に、周囲はホウッと感嘆の溜息を漏らしている。
普段は絶対に踊ることの無い二人の姿に、次のダンスは自分が!と、意気込む集団も見られた。
「すんごい見られてるんだけど……」
「獲物見つけた魔物の視線より怖いよね…」
既に次のダンスの相手は決まっているのだが、気分が滅入るほどの念の籠った視線の多さに、二人はげんなりとしていた。
ダンスが終わると、身構える姿が目に入る。
ーーそれも何処まで持つかなぁ……。
そう思いながら、二人は国王夫妻の側に立つ。
「本日は王太子の紹介とは別に、ここで皆に改めて紹介しておきたいことがある!!」
レンドルがチラリと双子を見る。その口元にはニヤリとした笑みが浮かんでいる。
ーーホント、人を驚かすの好きだよねぇ、レン兄様は……。
呆れながらも二人は、姿変えの魔導具を外す用意をした。
指輪タイプのそれは、一回きりの使い捨てと言われたため、外すタイミングも本番一回きりで、失敗するわけにはいかない。
「『勇者』と『聖女』はこれからも我らと共にいてくれると、王太子にも約束してくれた!さあ、改めて彼らを紹介しよう!」
レンドルの体が二人へと向けられた。
「『勇者』レオノーラ!!『聖女』エレオノール!!」
※※※※※※※※
[アストル視点]
父上の呼ぶ声に、レオ姉様とエレ兄様は、指輪を同時に外しました。
『ーーっ!!』
その途端に本来の姿で着飾ったお二人の姿が現れると、会場の貴族達や招待されていた他国の皆様も声を失いました。
長い黒髪を複雑に結い上げ、銀に黒曜石を嵌め込まれた蝶の髪飾りと、揃いの耳飾りと首飾りを身に付けたレオ姉様は、そのスラリとした体にまとわりつく様な群青色のマーメイドラインのドレス姿。
その袖や襟、裾周りには金糸銀糸の美しい刺繍が、レオ姉様の美しさを引き立てていました。
そして、レオ姉様をエスコートするエレ兄様は、白いタキシード姿です。金色の髪を首の後ろで薄水色のリボンで一つに纏め、衣装のあちこちにさりげなく白銀色の刺繍が施され、所々に小粒のアクマアリンが光っています。
そして、父上から渡されたという剣が、左腰に下げられていました。
カッコイイです!とても『聖女』には見えません!!
父上の前に歩み出ると、お二人は騎士の礼と淑女の礼をとりました。
「「我らの力は民のため。我らの心は王家と共に…」」
「……その言葉。ヒューゲル王家は確かに受け取った!」
お二人の言葉に父上が頷いた時でした。
「そこの『聖女』を騙る不届き者を捕らえよ!!」
招待客であった『ディマ教』の大神殿長が声を上げました。
彼の周囲にいた神官達が突然、武器を構えてエレ兄様に向かっていったのです!
「は?」
「えっと……」
お二人はぽかんとしている間に、周りを囲まれてしまいました。
「……大神殿長。これはどういうことか?」
父上の声に、大神殿長は一人の女性を伴って近寄ってきます。
「どういうこととは?陛下、『聖女』でございますよ?『聖女』が男などと、そのような事があるはずございません。つまりそこの者は、男の身でありながら、『聖女』を騙る不届き者でございます。その証拠に、本物の聖女はこちらに…」
大神殿長の言葉に、隣りの女性がしずしずと跪きました。
「こちらは『聖女』オリエラ。紛れもなく正しき『聖女』にございます…」
周囲は何とも言えない顔で、事態を見守っています。
確かに男の身で『聖女』などと、信じられないことでしょう。ですが、エレ兄様は確かに『聖女』であることは何度も確認され、何より【聖杖】カトルディンはエレ兄様を選んでいるのです。
「ふむ。だが、【聖杖】はエレオノールを選んでいるが、その説明は?」
父上がニヤニヤ笑いながら尋ねています。
あ、これは最初からこの事態を知ってましたね?どうせ、お二人なら何とでもするだろうと、放置しましたね?
思わず半目で父上を見ていると、僕の左袖が引かれました。
「………」
婚約者として発表されたばかりの侯爵令嬢アローリアが、不安気にお二人を見ています。
アローリアは一昨年に家族で領地に戻る途中、魔物の群れに襲われているところをお二人に助けられたのです。
「…アロア、大丈夫ですよ」
僕がポンポンとアローリアの手を叩くと、ゆっくりと息を吐き出し、笑顔でこちらを見ました。
「はい、アル様。お二人が偽物であるなど有り得ませんものね♪」
アローリアの言う通り、有り得ないことです。
大神殿長は、何を考えているのでしょうか?
年寄りの考えは僕には理解不能ですーーーー。
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すみません。
ドタバタしてて、更新遅れました。
今日は日付変わる前にも一話更新予定です。
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