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第三章 困惑、混乱、初めての恋?
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[ガディル視点]
俺、魔族領第一王子ガディル・ヘリオ・ギルメットは、時期魔王として育てられた。
それこそが俺の誇りであった。
時期魔王として受けてきた教育。兵達と培ってきた戦闘能力。
それら全てが、あの日砕け散った。
『そちらも随分と頭の悪い『王子』様ですね。脳筋ですか?頭の悪さは『聖女』の癒しの力でも治りませんよ、お大事に♪』
貧弱そうな体をしていた『勇者』にそう言われ、王族に対する口の利き方を教えてやろうとしたら、スタンピードが起きた。
いかに最弱のゴブリンやオークと言えど、地煙を上げるほどの大軍だ。
全戦力で迎え撃とうと、指示を出そうとした俺の手を振り切り、『勇者』と『聖女』はあっという間にほとんど二人だけで鎮めてみせた。
《剣舞》の名の通り、見る者全てを魅了するかのように、軽やかに舞うかの如く剣を振るいながら、ゴブリンの群れを屠っていた。
スキルの同時発動と並行使用など、幾つも出来るものでは無い。
それを容易くやってのけた『勇者』。
そして、無詠唱で広範囲魔法や時空魔法を使って見せた『聖女』。
調べてみれば、歴代の『勇者』にも『聖女』にも、そんな真似の出来た者はいなかった。
誰に聞いても、そんな真似は難しいと口を揃えて言われた。
問い合わせた神殿からは、大神官直々に返事が返された。
『此度の二人は神に愛された存在である』
そう記されたその書状に、父である魔王は感心した。
「ガディルよ。これほどの人材であるなら、なおさら仲良くしておかねばならぬ。だと言うのに、そなた。どちらからも嫌われたそうではないか…」
どうやら父達は俺と『聖女』を見合いさせようとしていたらしい。
聞いてないんだから、そんな事を今更言われても遅いし、俺のせいだけじゃないはずだ!
そもそも仲良くしろと言うなら、俺としては『聖女』ではなく、『勇者』の方がいいのだ。
「……美しかったな……」
『勇者』が聖剣を振るう度、目が惹き付けられて離れなかった。
高い位置で一つに結ばれた黒髪が、揺れる姿に胸が高なった。
「………殿下。それは恋では?」
側近のラムダスが、俺の言葉にそう言うが。
「…『勇者』は男だぞ?」
誓って俺にそのケはない。
「これは憧れというヤツだ!幼い子供が『勇者』に抱くあれだ!!」
「年下の少年に憧れるって……」
ラムダスには呆れられたが、強い者に憧れるのは男なら当然のことのはずだ。
父に頼み、名誉挽回のため、『勇者』に関わりやすくするために、大使としての役目を臨時的だが手に入れた。
これで、しばらくは人族の国にいることができる。
俺は意気揚々と人族の国にある魔族領の大使館へと移動したのだーーーー。
※※※※※※※※
「先日は無礼な事を言ってしまい、申し訳ないっ!!」
レンドルに呼ばれて、謁見の間に向かった双子は、そこにいたガディルに頭を下げられた。
「「…………??」」
双子は首を傾げ、ガディルを見て、レンドルの方を向いた。
「…ガディル殿下、頭を上げられよ。その二人は何の事か分かっていないからな…」
クックッと笑いを堪えながら、かけられた声にガディルが顔を上げた。
「「…………」」
双子は不思議そうにガディルを見ている。
「…その軟弱だとか、貧相だとか…」
気まずそうに述べるガディルに、レオがポンと拳で手を軽く叩いた。
「あー。そう言えば言われたかも…」
「いつもの事だから、忘れてたねぇ…」
『………は?』
苦笑する二人に、魔族達は呆気に取られた。
「忘れるぐらい気にしてないのだ。詫びなど必要あるまいよ」
レンドルの言葉にガディルは首を振った。
「例えそちらが気にしていなくとも、俺が無礼な事を口にしたことは変わりません!それ故に謝罪を……」
深々と頭を下げるガディルに、双子は笑って謝罪を受け入れたのであったーーーー。
俺、魔族領第一王子ガディル・ヘリオ・ギルメットは、時期魔王として育てられた。
それこそが俺の誇りであった。
時期魔王として受けてきた教育。兵達と培ってきた戦闘能力。
それら全てが、あの日砕け散った。
『そちらも随分と頭の悪い『王子』様ですね。脳筋ですか?頭の悪さは『聖女』の癒しの力でも治りませんよ、お大事に♪』
貧弱そうな体をしていた『勇者』にそう言われ、王族に対する口の利き方を教えてやろうとしたら、スタンピードが起きた。
いかに最弱のゴブリンやオークと言えど、地煙を上げるほどの大軍だ。
全戦力で迎え撃とうと、指示を出そうとした俺の手を振り切り、『勇者』と『聖女』はあっという間にほとんど二人だけで鎮めてみせた。
《剣舞》の名の通り、見る者全てを魅了するかのように、軽やかに舞うかの如く剣を振るいながら、ゴブリンの群れを屠っていた。
スキルの同時発動と並行使用など、幾つも出来るものでは無い。
それを容易くやってのけた『勇者』。
そして、無詠唱で広範囲魔法や時空魔法を使って見せた『聖女』。
調べてみれば、歴代の『勇者』にも『聖女』にも、そんな真似の出来た者はいなかった。
誰に聞いても、そんな真似は難しいと口を揃えて言われた。
問い合わせた神殿からは、大神官直々に返事が返された。
『此度の二人は神に愛された存在である』
そう記されたその書状に、父である魔王は感心した。
「ガディルよ。これほどの人材であるなら、なおさら仲良くしておかねばならぬ。だと言うのに、そなた。どちらからも嫌われたそうではないか…」
どうやら父達は俺と『聖女』を見合いさせようとしていたらしい。
聞いてないんだから、そんな事を今更言われても遅いし、俺のせいだけじゃないはずだ!
そもそも仲良くしろと言うなら、俺としては『聖女』ではなく、『勇者』の方がいいのだ。
「……美しかったな……」
『勇者』が聖剣を振るう度、目が惹き付けられて離れなかった。
高い位置で一つに結ばれた黒髪が、揺れる姿に胸が高なった。
「………殿下。それは恋では?」
側近のラムダスが、俺の言葉にそう言うが。
「…『勇者』は男だぞ?」
誓って俺にそのケはない。
「これは憧れというヤツだ!幼い子供が『勇者』に抱くあれだ!!」
「年下の少年に憧れるって……」
ラムダスには呆れられたが、強い者に憧れるのは男なら当然のことのはずだ。
父に頼み、名誉挽回のため、『勇者』に関わりやすくするために、大使としての役目を臨時的だが手に入れた。
これで、しばらくは人族の国にいることができる。
俺は意気揚々と人族の国にある魔族領の大使館へと移動したのだーーーー。
※※※※※※※※
「先日は無礼な事を言ってしまい、申し訳ないっ!!」
レンドルに呼ばれて、謁見の間に向かった双子は、そこにいたガディルに頭を下げられた。
「「…………??」」
双子は首を傾げ、ガディルを見て、レンドルの方を向いた。
「…ガディル殿下、頭を上げられよ。その二人は何の事か分かっていないからな…」
クックッと笑いを堪えながら、かけられた声にガディルが顔を上げた。
「「…………」」
双子は不思議そうにガディルを見ている。
「…その軟弱だとか、貧相だとか…」
気まずそうに述べるガディルに、レオがポンと拳で手を軽く叩いた。
「あー。そう言えば言われたかも…」
「いつもの事だから、忘れてたねぇ…」
『………は?』
苦笑する二人に、魔族達は呆気に取られた。
「忘れるぐらい気にしてないのだ。詫びなど必要あるまいよ」
レンドルの言葉にガディルは首を振った。
「例えそちらが気にしていなくとも、俺が無礼な事を口にしたことは変わりません!それ故に謝罪を……」
深々と頭を下げるガディルに、双子は笑って謝罪を受け入れたのであったーーーー。
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