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第二章 『勇者』は商売です!
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「「…………」」
レンドルに呼ばれていた双子は、戻ってきてからひたすら黙り込んでいる。
「……お二人共、どうかされましたか?」
フレイアはお茶とお菓子をセッティングしながら、二人に問いかけた。
「…あー…」
ソファに足を組んで凭れていたレオは、だらだらと体を起こした。
「三日後にね。魔族領との境目に向かっていくことになったんだよね…」
「魔族領……」
人族と魔族とは、仲が悪いわけでもなく。寧ろ、混血もいるくらい仲が良い。
なのに、何故二人が嫌そうにしているのかと、フレイアは首を傾げた。
「四年前だったかな?魔族領で変異体の魔物の討伐の手伝いで、レオと行ったんだけど…」
エレがチラリとレオを見た。
「レオがちょーっとはしゃぎすぎて、変なもん流行らせちゃったんだよねぇ…」
「…黒歴史……」
黒歴史?と、レオの呟きに首を傾げるフレイアに、エレはにっこりと笑った。
「フレイアは聞いたことがないかな?『商売繁盛~♪』ってヤツ」
「ああ。冒険者の間で流行ってる言葉ですか?確か酒場でよく聞くと聞いたことがあります」
パンと軽く両手を合わせて頷くフレイア。
「「商売繁盛~♪酒持ってこ~い♪」」
エレとフレイアの言葉が重なる。
「だーーーっ!!」
レオは唸ってソファに倒れ込んだ。
「レオ様!?」
「だぁって、『勇者』って、〖職業〗なんだよ?『商売人』と同じじゃん!しかも、目の前に二つも揃ってたら、口ずさんだって仕方ないじゃないっ!!」
クッションを抱きしめ、あーだこーだと騒ぎ出したレオを、フレイアは必死で宥めた。
そんな二人を見ながら、エレは当時を思い出していた。
※※※※※※※※
[エレオノール視点]
十三歳のある日。魔族領で暗黒熊の変異種が現れて、手こずっているため力を借りたいと、レオ兄様に書状が届いた。
「親子の変異種らしい。子連れな上に変異種だ。かなり被害も出ているそうだ。行ってくれるか?二人とも」
レン兄様からの頼みなので、勿論、二つ返事で引き受けた。
サバンサの密集した森の中。白色の多い変異種の暗黒熊の親子はそこにいた。
「なんだ、あの模様は…」
「見た事ないな。しかもサバンサを食っているぞ…」
一緒に来た騎士達の声を聞きながら、レオの目は変異種に釘付け。
「……パンダが笹食べてる…」
ボソッと呟いた言葉に、私の頭にレオの言うパンダが笹を食べる姿が現れた。
うん。パンダだね。でも、こっちにはいないからね。
笹もこっちでは、〖サバンサ〗と呼ばれる植物の事だった。
ちなみにこっちの世界では『ササ』は別の物のことだ。
隠れて様子を見ていた私達の反対側で、冒険者達が動き始めた。
「先に親を潰せ!」
リーダーらしき男の声に、変異種の親の方に魔法や物理攻撃が集中した。
「…………」
攻撃は吸収され、変異種達は気にせずサバンサを食べ続けている。
「攻撃が効かないだと……!?」
いや、驚いてるけど、説明されたよね?聞いてなかったのかな?
レオはオリクスとグランに頼んで、サバンサを一つ切り倒して、枝を落として槍のようにしていってた。
「エレ。ちょっと槍、強化してくれる?」
先を斜めに切って、槍状にしたサバンサを強化すると、レオはそれを投げようと構えた。
「商売繁盛…」
その言葉に、私の脳裏には異世界のある場面が浮かび上がった。
「ちょ、レオ。それは何か違うでしょ!!」
私の言葉と、レオが掛け声に合わせて、槍を投げるのは同時だった。
「ササ、持ってこ~い!!」
ブンと音を立てたサバンナの槍は、変異種の親の真正面を捉えていた。
「っ!」
変異種は飛んできたサバンサを前脚で受け止めようとしたが、威力が強すぎて前脚で挟んだまま額を貫いた。
「……」
口からゴフッと血を溢れさせ、ブルブル震えながら変異種の親は息絶えて倒れた。
『……う、うおおおおぉーーっ!!』
周りからの歓声も気にせず、レオは二本目も強化して変異種の子供に投げつけた。
哀れ変異種の子供は、親にすがりついてる所で、脳天を貫かれて息絶えた。
「……終わっちゃった……」
肩をグルグル回しながら、ポツリと言うレオ。
いやいや。終わっちゃったじゃないでしょ!
「レオ!何であんな事叫んだの!?」
「……いや、ついつい言いたくなっちゃって…。どうせ『勇者』も〖職業〗なんだから、〖商売〗みたいなもんじゃない?」
「だからって…」
二人でコソコソ話してると、冒険者達の方が賑やかになっている。
「…お二人共。とりあえず討伐終了です。魔族領の方に報告に参りましょう…」
グランに促され、討伐終了の報告をすると街をあげてのお祝いパーティとなった。
堅苦しいことから抜け出し、四人で街を散策していた時だった。
『商売繁盛~♪ササ、持ってこ~い♪』
そんな言葉があちこちから聞こえてくる。
「………はい?」
レオの口元がヒクヒクと引き攣っている。
「こっちの世界では、ササはあれだからね…」
レオの耳にだけ聞こえるように囁き、酒場を指さす。
『商売繁盛~♪酒、持ってこ~い♪』
言葉に合わせて、酒杯を持ち上げてく冒険者達。
「……マジか…」
この一件で、この言葉は各地の冒険者達が酒場で『勇者』にあやかろうと叫び出し、あっという間に広まっていったーーーー。
※※※※※※※※
異世界の商売の神様関係だなんて、誰にも言えないよね。
今度行くのは、その言葉の始まりの地だ。
絶対、騒ぎになるよね………。
今から憂鬱ですーーーー。
レンドルに呼ばれていた双子は、戻ってきてからひたすら黙り込んでいる。
「……お二人共、どうかされましたか?」
フレイアはお茶とお菓子をセッティングしながら、二人に問いかけた。
「…あー…」
ソファに足を組んで凭れていたレオは、だらだらと体を起こした。
「三日後にね。魔族領との境目に向かっていくことになったんだよね…」
「魔族領……」
人族と魔族とは、仲が悪いわけでもなく。寧ろ、混血もいるくらい仲が良い。
なのに、何故二人が嫌そうにしているのかと、フレイアは首を傾げた。
「四年前だったかな?魔族領で変異体の魔物の討伐の手伝いで、レオと行ったんだけど…」
エレがチラリとレオを見た。
「レオがちょーっとはしゃぎすぎて、変なもん流行らせちゃったんだよねぇ…」
「…黒歴史……」
黒歴史?と、レオの呟きに首を傾げるフレイアに、エレはにっこりと笑った。
「フレイアは聞いたことがないかな?『商売繁盛~♪』ってヤツ」
「ああ。冒険者の間で流行ってる言葉ですか?確か酒場でよく聞くと聞いたことがあります」
パンと軽く両手を合わせて頷くフレイア。
「「商売繁盛~♪酒持ってこ~い♪」」
エレとフレイアの言葉が重なる。
「だーーーっ!!」
レオは唸ってソファに倒れ込んだ。
「レオ様!?」
「だぁって、『勇者』って、〖職業〗なんだよ?『商売人』と同じじゃん!しかも、目の前に二つも揃ってたら、口ずさんだって仕方ないじゃないっ!!」
クッションを抱きしめ、あーだこーだと騒ぎ出したレオを、フレイアは必死で宥めた。
そんな二人を見ながら、エレは当時を思い出していた。
※※※※※※※※
[エレオノール視点]
十三歳のある日。魔族領で暗黒熊の変異種が現れて、手こずっているため力を借りたいと、レオ兄様に書状が届いた。
「親子の変異種らしい。子連れな上に変異種だ。かなり被害も出ているそうだ。行ってくれるか?二人とも」
レン兄様からの頼みなので、勿論、二つ返事で引き受けた。
サバンサの密集した森の中。白色の多い変異種の暗黒熊の親子はそこにいた。
「なんだ、あの模様は…」
「見た事ないな。しかもサバンサを食っているぞ…」
一緒に来た騎士達の声を聞きながら、レオの目は変異種に釘付け。
「……パンダが笹食べてる…」
ボソッと呟いた言葉に、私の頭にレオの言うパンダが笹を食べる姿が現れた。
うん。パンダだね。でも、こっちにはいないからね。
笹もこっちでは、〖サバンサ〗と呼ばれる植物の事だった。
ちなみにこっちの世界では『ササ』は別の物のことだ。
隠れて様子を見ていた私達の反対側で、冒険者達が動き始めた。
「先に親を潰せ!」
リーダーらしき男の声に、変異種の親の方に魔法や物理攻撃が集中した。
「…………」
攻撃は吸収され、変異種達は気にせずサバンサを食べ続けている。
「攻撃が効かないだと……!?」
いや、驚いてるけど、説明されたよね?聞いてなかったのかな?
レオはオリクスとグランに頼んで、サバンサを一つ切り倒して、枝を落として槍のようにしていってた。
「エレ。ちょっと槍、強化してくれる?」
先を斜めに切って、槍状にしたサバンサを強化すると、レオはそれを投げようと構えた。
「商売繁盛…」
その言葉に、私の脳裏には異世界のある場面が浮かび上がった。
「ちょ、レオ。それは何か違うでしょ!!」
私の言葉と、レオが掛け声に合わせて、槍を投げるのは同時だった。
「ササ、持ってこ~い!!」
ブンと音を立てたサバンナの槍は、変異種の親の真正面を捉えていた。
「っ!」
変異種は飛んできたサバンサを前脚で受け止めようとしたが、威力が強すぎて前脚で挟んだまま額を貫いた。
「……」
口からゴフッと血を溢れさせ、ブルブル震えながら変異種の親は息絶えて倒れた。
『……う、うおおおおぉーーっ!!』
周りからの歓声も気にせず、レオは二本目も強化して変異種の子供に投げつけた。
哀れ変異種の子供は、親にすがりついてる所で、脳天を貫かれて息絶えた。
「……終わっちゃった……」
肩をグルグル回しながら、ポツリと言うレオ。
いやいや。終わっちゃったじゃないでしょ!
「レオ!何であんな事叫んだの!?」
「……いや、ついつい言いたくなっちゃって…。どうせ『勇者』も〖職業〗なんだから、〖商売〗みたいなもんじゃない?」
「だからって…」
二人でコソコソ話してると、冒険者達の方が賑やかになっている。
「…お二人共。とりあえず討伐終了です。魔族領の方に報告に参りましょう…」
グランに促され、討伐終了の報告をすると街をあげてのお祝いパーティとなった。
堅苦しいことから抜け出し、四人で街を散策していた時だった。
『商売繁盛~♪ササ、持ってこ~い♪』
そんな言葉があちこちから聞こえてくる。
「………はい?」
レオの口元がヒクヒクと引き攣っている。
「こっちの世界では、ササはあれだからね…」
レオの耳にだけ聞こえるように囁き、酒場を指さす。
『商売繁盛~♪酒、持ってこ~い♪』
言葉に合わせて、酒杯を持ち上げてく冒険者達。
「……マジか…」
この一件で、この言葉は各地の冒険者達が酒場で『勇者』にあやかろうと叫び出し、あっという間に広まっていったーーーー。
※※※※※※※※
異世界の商売の神様関係だなんて、誰にも言えないよね。
今度行くのは、その言葉の始まりの地だ。
絶対、騒ぎになるよね………。
今から憂鬱ですーーーー。
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