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第一章 『勇者』と『聖女』?

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    さっきまで防波堤から海を眺めてたのに、気がつけば何処かの事務所みたいなとこに立っていた。

「……うん、夢だ。夢オチに違いない!寝よう!」

    近くのソファに座り、パタンと寝転んだ時だった。

「えぇっ!!夢じゃないよっ!夢じゃないから起きて、僕の話を聞いてくださーいっ!!」

    さっきの変な外人さんが、ソファの背もたれを掴んで、ガタゴト揺すってきた。

「……」

    気持ち悪くなるし、揺れた時に頭ぶつけて痛かったので、どうやら本当に夢じゃないらしい。

「………何?」

    ちゃんと座って相手を睨むと、ホッとした顔で向かい側に座った。

「改めて初めまして。楠木陽向さん。先程も名乗ったけど、僕は創造神のディアル・マディルです」

「……楠木陽向です……」

    自分で神様とか言う、痛い系の人らしい。

「痛い系の人……。残念神よりはマシ?マシかな……」

    ショックを受けた顔をして、ブツブツ言ってるけど、声に出した記憶ないよね。

「あ。僕、さっきも話したけど、神様だからね。君の心の声も聞けちゃうよ?」

ーーふむ。つまり変態……。

「ちょ、何で変態……」

    外見だけならかなりイケメンなのに、口開いたら情けないし、目ぇウルウルさせてるしで、残念系の人なのは間違いないみたいだ。

「…残念系……。どうあっても僕ってこっちの人間達には残念系なんだ…」

    ズウンと背後に文字が浮かびそうなくらい、ソファの上に座って膝を抱えてる。

「…いや。落ち込んでないで説明して欲しいんですけど…」

    そもそも何で私はここに連れてこられたのか。
    仮に目の前の残念な人が本当に神様だとして、わざわざ私を選んだのは何故なのかが気になる。

「うぅ…。何で似たような人ばっか引くんだろ、僕……。もしかして、ガイア・ナテラの陰謀??」

    未だにブツブツ言ってて、いい加減うざくなってくる。

「……あの…。そろそろ本気で怒ってもいいかな?」

「すみません!直ちに説明します!」

    イラッとしながら呟くと、ソファの上で飛び上がって正座した。

    なかなか器用だなあ…と、ボーッ見てた。

「えー、コホン。実は僕の担当である世界の一つに、貴女を『聖女』としてお迎えしようと思いまして…」

「はあ?意味分かんない…」

    唐突すぎて理解不能。
    何、今流行ってるからって、神様側で転生物こういうのに乗っかっちゃってんの?

「あ、流行ってるからじゃないんですよ?抵抗なく受け入れてもらうために、流行らせたんです!」

「………んん?」

    ディアルなんちゃらとか言う神様曰く、私らの世界の神様が、担当の別の世界を見てる間に、私のいた世界が人類によってバランスを崩し出したらしい。
    流行病や自然災害はその影響とかで、とにかく増えすぎた人類を何とかしようと悩んでいたところ、神様会議とやらで相談。
    その結果、他の神様達が必要な人材をそれぞれの世界に移動させることが決まったらしい。

    しかし、いきなりそんな事を説明されても、受け入れられない可能性があるため、私らの世界の神様がある事を始めた。
    それが最近流行りの『異世界転移』や『異世界転生』などの話を感受性の強い人達へ想像させるという事だったらしい。

「しかもガイアが言うには、君達日本人が最も強く受信しちゃったらしくてね。おかげで、大半の該当者は日本人が多いんだよねぇ…。アニメとか漫画だっけ?ほんと、すごいよねぇ……」

    理由はまあなんとなく把握したものの、それでも自分が選ばれたのは理解不能。

「んーとね。僕、こっちに連れてくる時、時間が無いって言ったでしょ?あれね、君が自殺しちゃうからだったんだ」

「………はあ。確かに9割ぐらいそのつもりで、あそこにいたのは確かだけど……」

    家では兄や妹から『いい子ちゃん』と嫌味を言われた。
    学校では『真面目』とか『お堅い』とか、色々陰口叩かれてたのも知ってる。
    別に意識してやってた訳でなく、普通にしてただけなのに、その『普通』が気に入らないと言われても、どうしたらいいのか分からず、結局そのまま変われなかった。

ーー自分なんていても、いなくても変わらないんじゃないかな?

    ふと、そう思ってしまうと、何もかもが面倒くさくなってしまった。
    ぼんやりと防波堤から海を見て、このまま下に落ちたら楽になるかなぁ…なんて、ボーッと考えてたのだ。

「……うん。貴女はずーっと『普通』でいたよね。だけどさ、死んじゃうくらいなら、僕の創った世界で、言葉通り生まれ変わって、新しい人生を存分に楽しんでみたくないかな?」

    神様はにっこり笑って手を差し伸べた。

「楠木陽向さん。貴女の望むままの新しい人生を、自分で決めて見ませんか?」

「…新しい人生を自分で決める?」

「と言っても、今残ってるのは『聖女』と『勇者』と…」

    パッと空中から何故かノートパソコンみたいなのが出てきた。
    ディスプレイを見ながら、色々言ってくるのを聞いてたけど、確実に一つだけ気に入らなかった。

「『聖女』はヤだ!どうせなら、『勇者』の方がいい!!」

「『勇者』がいいの?でも、性別はそのままだよ?」

「でも、『勇者』は男じゃなくてもいいんでしょ?ダメなの?」

    だって『聖女』は今まで以上に面倒くさく思えるんだもん。
    今までと違う自分になるなら、運命を切り開く力がありそうな『勇者』の方が断然いいに決まってる。

「うーん。ま、いっか。じゃあ、今から説明するね」

    そこから、神様はこれから私の転生する世界のことを教えてくれた。
    剣と魔法のある世界。
    生まれつき職業は決まってるらしい。但し、『勇者』、『聖女』、『大賢者』などの特定の職以外なら転職も可能。

    転生特典とかで、スキルやレベルが上がりやすくなってるらしい。

「今から行く世界に私と同じ人はいますか?」

「ううん、貴女が初めてだよ。んと…、そうだ!貴女は双子の姉弟として産まれるようになるから、弟の方に君の前世の記憶を共有出来るようにでもしとくよ」

「共有?」

「んー。なんて言うか…こう…。陽向さんがいた世界の話をしたら、理解してもらえるというか…」

「あ。なんとなく分かったから大丈夫」

「ホント?じゃあ、この条件で転生させるよ。新しい人生をいっぱい楽しんでね♪」


    私はそう言って、笑顔の神様に見送られて新しい人生へと向かったのだーーーー。




※※※※※※※※

「ふぅ…。無事に転生できたみた…い……」

    僕は陽向さんを見送り、転生したのを確認してから覗いた画面に血の気が引いた。

「あちゃあ…。そうだった。本当は『聖女』になってもらうつもりだったから、性別変更しただけで、こっち直してなかったや……。うわぁ……。生まれちゃってからは、変更できないようにしたんだっけ…。これ、バレたらまた叱られちゃう……」

    残念系創造神ディアル・マディルは、画面から視線を外し、現実逃避を始めたのであったーーーー。

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