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【二部】侯爵令嬢は今日もあざやかに断罪する
27.
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セルドリア皇国には現在五人の皇族がいる。
皇帝クリシューアを頂点に、皇妃メルディーネ、皇太子クリューセル、皇女エルゼーネ、皇弟ヒルシェールである。
皇族は白に近い銀の髪と紅い瞳を持っており、民もまた薄い色合いの髪色と瞳を持っていた。
『賢帝』と呼ばれるクリシューアの治世の元、比較的に大きな問題もなく穏やかな日々が流れていたが、ある日。問題が起こった。
逞しい体躯を持つ皇族の男達の中、何故かヒルシェールだけが、ブクブクと太った身体だった。
彼は陰で『肉饅頭』や、『白いヒキガエル』などと喩えられるように、一人だけ醜い姿だったので、よほどのことがない限り、自分の屋敷に引きこもっていた。
ある日、リーゼンブルク王国からの使者を招いたパーティーに参加することになった彼は、挨拶を済ませた後、息を潜めて隠れるように隅の方に立っていた。
女性が声をかけることも無く、自分から声をかけることもない、いつもの彼の定位置だ。
だが、その日は違ったのだ。
使者として来ていた者達の中に、一人の愛らしい少女がいた。
流れるような黒髪に、鮮やかな緑色の瞳を持った彼女ーーノクタール侯爵家の令嬢アディエル・ノクタール。
この大陸では珍しい黒髪の生まれる侯爵家の令嬢は、その姿も楚々としていて目を惹かれた。
「お初にお目にかかります、ヒルシェール皇弟殿下。ノクタール侯爵家のアディエル・ノクタールと申します」
慎ましく微笑んで挨拶をしてきた彼女は、自分に聞きたいことがあると尋ねてきた。
ヒルシェールは、帝国内の植物に詳しかったのだ。
自分の容姿に関係なく、自分の知識を認めて話しかけてきたアディエルに、ヒルシェールは二十も歳の離れたアディエルに焦がれた。
兄である皇帝にアディエルとの婚約を打診して欲しいと申し出れば、即座に断られた。
アディエルは公表されていないが、第二王子であるカイエンの婚約者ーー次期王太子妃として決まっているのだと聞かされた。
それでもヒルシェールは諦めきれず、珍しい植物を見つけては手紙で報せ、美しい花を咲かせるように交配研究に励むなりして、アディエルに好意を示した。
これに驚いたのはノクタール侯爵家である。
相手が皇弟であるため、無下にも出来ずにいたのだが、次第にアディエルを求めるような内容の手紙や贈物まで届き始めたのだ。
マクスウェルからも、クリシューアへと、ヒルシェールに控えるように伝えて欲しいと書状が送られ、やり取りを控えるようにと命じられた。
ヒルシェールはその事に憤慨した。
アディエルは、自分を頼っているのだ!何故、それを邪魔するのか?
そうして、彼は一方的な結論を出した。
アディエルは、自分を望んでいるのに、王族が逃すまいと捕えているのだ!とーーーー。
皇帝クリシューアを頂点に、皇妃メルディーネ、皇太子クリューセル、皇女エルゼーネ、皇弟ヒルシェールである。
皇族は白に近い銀の髪と紅い瞳を持っており、民もまた薄い色合いの髪色と瞳を持っていた。
『賢帝』と呼ばれるクリシューアの治世の元、比較的に大きな問題もなく穏やかな日々が流れていたが、ある日。問題が起こった。
逞しい体躯を持つ皇族の男達の中、何故かヒルシェールだけが、ブクブクと太った身体だった。
彼は陰で『肉饅頭』や、『白いヒキガエル』などと喩えられるように、一人だけ醜い姿だったので、よほどのことがない限り、自分の屋敷に引きこもっていた。
ある日、リーゼンブルク王国からの使者を招いたパーティーに参加することになった彼は、挨拶を済ませた後、息を潜めて隠れるように隅の方に立っていた。
女性が声をかけることも無く、自分から声をかけることもない、いつもの彼の定位置だ。
だが、その日は違ったのだ。
使者として来ていた者達の中に、一人の愛らしい少女がいた。
流れるような黒髪に、鮮やかな緑色の瞳を持った彼女ーーノクタール侯爵家の令嬢アディエル・ノクタール。
この大陸では珍しい黒髪の生まれる侯爵家の令嬢は、その姿も楚々としていて目を惹かれた。
「お初にお目にかかります、ヒルシェール皇弟殿下。ノクタール侯爵家のアディエル・ノクタールと申します」
慎ましく微笑んで挨拶をしてきた彼女は、自分に聞きたいことがあると尋ねてきた。
ヒルシェールは、帝国内の植物に詳しかったのだ。
自分の容姿に関係なく、自分の知識を認めて話しかけてきたアディエルに、ヒルシェールは二十も歳の離れたアディエルに焦がれた。
兄である皇帝にアディエルとの婚約を打診して欲しいと申し出れば、即座に断られた。
アディエルは公表されていないが、第二王子であるカイエンの婚約者ーー次期王太子妃として決まっているのだと聞かされた。
それでもヒルシェールは諦めきれず、珍しい植物を見つけては手紙で報せ、美しい花を咲かせるように交配研究に励むなりして、アディエルに好意を示した。
これに驚いたのはノクタール侯爵家である。
相手が皇弟であるため、無下にも出来ずにいたのだが、次第にアディエルを求めるような内容の手紙や贈物まで届き始めたのだ。
マクスウェルからも、クリシューアへと、ヒルシェールに控えるように伝えて欲しいと書状が送られ、やり取りを控えるようにと命じられた。
ヒルシェールはその事に憤慨した。
アディエルは、自分を頼っているのだ!何故、それを邪魔するのか?
そうして、彼は一方的な結論を出した。
アディエルは、自分を望んでいるのに、王族が逃すまいと捕えているのだ!とーーーー。
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