上 下
45 / 82
【二部】侯爵令嬢は今日もあざやかに断罪する

6.

しおりを挟む
「これ、何か触るとザラッとしてる?」

ユエインは指先で何度も封蝋を撫でながらそう言った。

「ザラッとしてる?」

シルフィアが指を伸ばし、彼女も封蝋を撫でた。

「…ホントですわ…」

ポカンとして撫で続ける二人に、リネットが苦笑する。

「正解です、御二方。そちらは執事長が使っている物で、果物の種子が潰された物が蝋に混ぜられてるそうですよ」

へー。と感心しながら、姉弟は仲良く撫でている。

「つまり、シルに届いていた手紙に使われていた封蝋は、伯爵家の誰かが使って出したってことかな?」

カイエンの言葉に、ピタリと指の動きが止まる。

「…ロゼッタは体調を崩して、代筆を頼んでも、必ず代筆した者の名を記してましたわ。そして、自分の署名をして、封をした物が届いてました。彼女の封蝋でないなど有り得ません!」

「…つまり、それが答えなんだろうね…」

「え?」

エイデンが肩を竦めてそう言うと、シルフィアは首を傾げた。

「誰かが勝手にロゼッタ嬢のフリをして手紙を書いたか…」

人差し指を立て、エイデンは視線をアディエルに向けながら言う。

「都合の良いように書き換えた物を送ってきたのかですわね♪」

扇で口元を隠したまま、アディエルがそう答える。

「…どういう事ですの?」

シルフィアは混乱してきた頭に手をやりながら、アディエルを見つめた。

「ふふ。実はシルフィア様に届いたこの手紙。書いたのが誰かは既に調べておりますわ。今は少ぉしばかり、追加で調査をさせております。それまでに他の事も調べたいので、御二方共、御協力下さいませね」

「「…………」」

姉弟は頭がついて来なくなり、ただ言葉を失うだけだったが、こくりと頷いた。

「…やれやれ。私のアディはしばらくシル達に付きっきりのようだ……」

これ見よがしに溜息をつきながら、カイエンはちらりと姉弟を見た。

「…ごめんなさい、お兄様…」

俯くシルフィアの頭に手を伸ばし、グシャグシャと撫で回す。

「お、お兄様っ!?」

乱れた頭に手をやり、シルフィアは涙目でカイエンを見上げる。

「…シルの大事な親友を助けたいのだろ?好きにすればいい。但し、私のアディに我儘放題は許さないよ?」

にっこりと笑いながらも、しっかりと釘を刺す兄に、シルフィアはコクコクと頷くしか無かった。

「では、アディエル様。予定通りになさいますか?」

リネットはアディエルの側に移動し、目を輝かせながら話していた。

「……エイデン兄上。宜しいのですか、あれ?」

チラリとユエインが視線を向けた先では、エイデンはテーブルに肘をつき、組んだ両手の上に額を当てていた。

「……ああ。リネットは、アディエル様のために僕の婚約者になるって言ってきたくらい、彼女を崇拝してるからね。下手に口を挟んだら、婚約破棄されるかも……」

「……さすがにそれはないのでは?」

「いーや。リネットは僕が邪魔になれば、さっさと婚約破棄して、まだ相手が決まってないダニエルに打診するだろうね。アディエル様大好き同盟なんだから…」

顔を上げずにそう答えてくるエイデンに、ユエインはかなり同情するのであったーーーー。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

真実の愛に婚約破棄を叫ぶ王太子より更に凄い事を言い出した真実の愛の相手

ラララキヲ
ファンタジー
 卒業式が終わると突然王太子が婚約破棄を叫んだ。  反論する婚約者の侯爵令嬢。  そんな侯爵令嬢から王太子を守ろうと、自分が悪いと言い出す王太子の真実の愛のお相手の男爵令嬢は、さらにとんでもない事を口にする。 そこへ……… ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。 ◇なろうにも上げてます。

【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇

藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。 トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。 会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

連帯責任って知ってる?

よもぎ
ファンタジー
第一王子は本来の婚約者とは別の令嬢を愛し、彼女と結ばれんとしてとある夜会で婚約破棄を宣言した。その宣言は大騒動となり、王子は王子宮へ謹慎の身となる。そんな彼に同じ乳母に育てられた、乳母の本来の娘が訪ねてきて――

えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?

真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

処理中です...