17 / 82
【番外編】侯爵令嬢は今日もにこやかに拒絶する
5.
しおりを挟む
「……踊れたじゃないか…」
踊り終わって、王妃達の元に向かいながら、つまらなそうにカイエンが呟く。
「…私、得意ではないと申しましたけど、苦手とは申してませんわよ?」
「確かに…」
何となく悔しくなったカイエンである。
「アディッ!カイエン様っ!二人とも素晴らしかった!!」
興奮している三妃は、少し地が出かけていたし、二妃に至っては喜びのあまりか涙目になり、ハンカチを握りしめて震えていた。
「…アディエル嬢。カイエンと私達の我儘に付き合ってくれてありがとう…」
穏やかに微笑む王妃に、アディエルは困りつつも笑みを返して頭を下げた。
「……カイエン様、話が違いませんか?」
さらに二年後の十歳の誕生パーティーでも、アディエルはカイエンと踊らされていた。
その頃には二人とも互いに名前で呼ぶようになっていたし、大半は二人が婚約するのは決定だと信じていた。
「アディ。文句は母上達に頼む…」
「…くぅ…」
アディエルから言えるはずもなく、カイエンが言うはずもない。
そんな訳で都度都度、ファーストダンスの相手は必ず互いのままになるのだ。
「周りからも私の婚約者はアディで決定だと思われてるのに、どうして断るのかなぁ…」
踊りながらのため、どちらも笑みを浮かべたままの会話である。
「王家に嫁ぐのはお断りします!」
にこやかに、いつも通りにきっぱりと断る。
「ふむ…」
踊り終えて挨拶もし、カイエンはそのまま庭園へとアディエルを連れて移動していく。
四阿に着くと、隣合って腰を下ろし、カイエンは人払いをした。
声の聞こえない距離まで、使用人も護衛も離れていく。
「ねえ、アディ。私は今まで君に婚約して欲しいと言い続けてきたよね?」
「そうですわね」
「いつも断られてるけど…」
「そうですわね」
「…エイデンにね。『何で断られてるの?』って言われて、アディから理由を聞いてないことに気づいたんだ…」
ハアと溜息をつきながらそう言ったカイエンに、アディは不思議そうな顔を向けた。
「ねえ、アディ。私の婚約者になるのは、どうして嫌なの?」
「……私は、両親に憧れてますので…」
「侯爵?ああ、夫人と仲がよろしいね。理想の夫婦と言われてると聞いてるよ?」
「…二妃様と三妃様のお話も聞いています…」
「……なるほど…」
アディエルの言葉に、カイエンは理解してしまった。
王家に嫁ぐと、必ずと言っていいほど、『位持ちの側妃』という存在が発生する。
しかもこの国では、『位持ちの側妃』は『王妃』を支える存在でなければならない。
故に、王妃が側妃を選ばなければならないのだ。
過去には王妃を支えるために、愛する者と別れた側妃もいたという。
自身が信じている者といえど、自分の夫に嫁がせなければならないのだ。
自分から飛び込んで行った、二妃と三妃のような例など滅多にない。実際、初めての事案だったほどである。
そして、ノクタール侯爵夫妻は政略結婚なれど、周囲が羨むほどの仲睦まじさである。
つまり、アディエルは、『一夫多妻制はお断りします』と言うことなのだ。
しかし、カイエンはもうアディエルしか選ぶつもりはなかった。
「うん。じゃあ、私はアディエルしか妻にしないと誓おう!」
「……は?」
突然、アディエルの両手を握りしめ、にっこり笑ってそう告げたカイエンに、アディエルはポカンとなってしまった。
「ははっ♪アディのそんな顔、初めて見たよ」
「っ!?」
嬉しそうに笑ったカイエンに、アディエルは自分の顔が赤くなったのが分かって動揺する。
「よし、決めたっ!正式に婚約を申し込むことができる十二歳になるまでに、王妃一人でも認めさせれるような法を考える!そしたら、婚約を受け入れて、一緒に手伝ってくれるかい?」
「……一緒に…ですの?」
「うん!一緒に、だ!!」
「……し、仕方ありません。カイエン様がそこまで仰るなら…。ですが私に認められなければ、お受けしませんからねっ!!」
悔しそうに真っ赤な顔で答えたアディエルに、カイエンは絶対に認めさせると、その日から合間合間に法律関係の事を調べ始めた。
これに協力したのは、当然、二妃エリアナである。
三妃は残念ながら、そちら方面には弱かったので、根回しに関することは引き受けていた。
当然である。
この二人。どうしても、どーーーーしても、アディエルとカイエンが一緒になるのを見たかったのだから。
原因である王妃は不思議そうにしていたが、国王マクスウェルは知っている。
何気なく王妃が何気なく漏らした一言が原因だったのだと。
『まあ。アディエル嬢は聡明なばかりかとても愛らしいですわね。あのような子がカイエンに嫁いでくれればよいのですが…』
エリアナの所に来ていたアディエル。たまたま通りかかった王妃エリザベスが、その様子を見て、隣にいた三妃イザベラに話しかけていたのだ。
当然、その場にエリアナがいなくともイザベラから伝わった。
カイエンとの初対面になるはずだったあの日。
エリアナはカイエン好みのドレスを、わざわざ作らせてアディエルへと送っていたのだ。
結果としては、着ることなくカイエンの興味を引いた訳なのだが…。
二人が王妃の為にとしている事を咎めでもしたら、自分の身が危うい。
命、大事。ホント、大事っ!
長年の付き合いで骨身に染みていた国王マクスウェルは、カイエンが無事に婚約出来ることをただ祈るのみであった。
国王、無力ーーーー。
踊り終わって、王妃達の元に向かいながら、つまらなそうにカイエンが呟く。
「…私、得意ではないと申しましたけど、苦手とは申してませんわよ?」
「確かに…」
何となく悔しくなったカイエンである。
「アディッ!カイエン様っ!二人とも素晴らしかった!!」
興奮している三妃は、少し地が出かけていたし、二妃に至っては喜びのあまりか涙目になり、ハンカチを握りしめて震えていた。
「…アディエル嬢。カイエンと私達の我儘に付き合ってくれてありがとう…」
穏やかに微笑む王妃に、アディエルは困りつつも笑みを返して頭を下げた。
「……カイエン様、話が違いませんか?」
さらに二年後の十歳の誕生パーティーでも、アディエルはカイエンと踊らされていた。
その頃には二人とも互いに名前で呼ぶようになっていたし、大半は二人が婚約するのは決定だと信じていた。
「アディ。文句は母上達に頼む…」
「…くぅ…」
アディエルから言えるはずもなく、カイエンが言うはずもない。
そんな訳で都度都度、ファーストダンスの相手は必ず互いのままになるのだ。
「周りからも私の婚約者はアディで決定だと思われてるのに、どうして断るのかなぁ…」
踊りながらのため、どちらも笑みを浮かべたままの会話である。
「王家に嫁ぐのはお断りします!」
にこやかに、いつも通りにきっぱりと断る。
「ふむ…」
踊り終えて挨拶もし、カイエンはそのまま庭園へとアディエルを連れて移動していく。
四阿に着くと、隣合って腰を下ろし、カイエンは人払いをした。
声の聞こえない距離まで、使用人も護衛も離れていく。
「ねえ、アディ。私は今まで君に婚約して欲しいと言い続けてきたよね?」
「そうですわね」
「いつも断られてるけど…」
「そうですわね」
「…エイデンにね。『何で断られてるの?』って言われて、アディから理由を聞いてないことに気づいたんだ…」
ハアと溜息をつきながらそう言ったカイエンに、アディは不思議そうな顔を向けた。
「ねえ、アディ。私の婚約者になるのは、どうして嫌なの?」
「……私は、両親に憧れてますので…」
「侯爵?ああ、夫人と仲がよろしいね。理想の夫婦と言われてると聞いてるよ?」
「…二妃様と三妃様のお話も聞いています…」
「……なるほど…」
アディエルの言葉に、カイエンは理解してしまった。
王家に嫁ぐと、必ずと言っていいほど、『位持ちの側妃』という存在が発生する。
しかもこの国では、『位持ちの側妃』は『王妃』を支える存在でなければならない。
故に、王妃が側妃を選ばなければならないのだ。
過去には王妃を支えるために、愛する者と別れた側妃もいたという。
自身が信じている者といえど、自分の夫に嫁がせなければならないのだ。
自分から飛び込んで行った、二妃と三妃のような例など滅多にない。実際、初めての事案だったほどである。
そして、ノクタール侯爵夫妻は政略結婚なれど、周囲が羨むほどの仲睦まじさである。
つまり、アディエルは、『一夫多妻制はお断りします』と言うことなのだ。
しかし、カイエンはもうアディエルしか選ぶつもりはなかった。
「うん。じゃあ、私はアディエルしか妻にしないと誓おう!」
「……は?」
突然、アディエルの両手を握りしめ、にっこり笑ってそう告げたカイエンに、アディエルはポカンとなってしまった。
「ははっ♪アディのそんな顔、初めて見たよ」
「っ!?」
嬉しそうに笑ったカイエンに、アディエルは自分の顔が赤くなったのが分かって動揺する。
「よし、決めたっ!正式に婚約を申し込むことができる十二歳になるまでに、王妃一人でも認めさせれるような法を考える!そしたら、婚約を受け入れて、一緒に手伝ってくれるかい?」
「……一緒に…ですの?」
「うん!一緒に、だ!!」
「……し、仕方ありません。カイエン様がそこまで仰るなら…。ですが私に認められなければ、お受けしませんからねっ!!」
悔しそうに真っ赤な顔で答えたアディエルに、カイエンは絶対に認めさせると、その日から合間合間に法律関係の事を調べ始めた。
これに協力したのは、当然、二妃エリアナである。
三妃は残念ながら、そちら方面には弱かったので、根回しに関することは引き受けていた。
当然である。
この二人。どうしても、どーーーーしても、アディエルとカイエンが一緒になるのを見たかったのだから。
原因である王妃は不思議そうにしていたが、国王マクスウェルは知っている。
何気なく王妃が何気なく漏らした一言が原因だったのだと。
『まあ。アディエル嬢は聡明なばかりかとても愛らしいですわね。あのような子がカイエンに嫁いでくれればよいのですが…』
エリアナの所に来ていたアディエル。たまたま通りかかった王妃エリザベスが、その様子を見て、隣にいた三妃イザベラに話しかけていたのだ。
当然、その場にエリアナがいなくともイザベラから伝わった。
カイエンとの初対面になるはずだったあの日。
エリアナはカイエン好みのドレスを、わざわざ作らせてアディエルへと送っていたのだ。
結果としては、着ることなくカイエンの興味を引いた訳なのだが…。
二人が王妃の為にとしている事を咎めでもしたら、自分の身が危うい。
命、大事。ホント、大事っ!
長年の付き合いで骨身に染みていた国王マクスウェルは、カイエンが無事に婚約出来ることをただ祈るのみであった。
国王、無力ーーーー。
5
お気に入りに追加
520
あなたにおすすめの小説
真実の愛に婚約破棄を叫ぶ王太子より更に凄い事を言い出した真実の愛の相手
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式が終わると突然王太子が婚約破棄を叫んだ。
反論する婚約者の侯爵令嬢。
そんな侯爵令嬢から王太子を守ろうと、自分が悪いと言い出す王太子の真実の愛のお相手の男爵令嬢は、さらにとんでもない事を口にする。
そこへ………
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。
◇なろうにも上げてます。
【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇
藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。
トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。
会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……
もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
連帯責任って知ってる?
よもぎ
ファンタジー
第一王子は本来の婚約者とは別の令嬢を愛し、彼女と結ばれんとしてとある夜会で婚約破棄を宣言した。その宣言は大騒動となり、王子は王子宮へ謹慎の身となる。そんな彼に同じ乳母に育てられた、乳母の本来の娘が訪ねてきて――
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?
真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。
【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです
との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。
白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・
沈黙を続けていたルカが、
「新しく商会を作って、その先は?」
ーーーーーー
題名 少し改変しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる