上 下
43 / 51

#43 ノリに乗って流されてドン引き

しおりを挟む
「ははは。おじさんってば幸せー」

 にこやかに扇がお酒を煽り飲んだ。
『縁司君も行かないかい? 一緒にさ?』と縁司を誘った扇に、まさかのまさかと。
 
「そいつぁーよかったーw」

「…はァ」

 縁司が承諾をしたのだ。
 勿論のこと、このことを厨房に戻ってしまった竜司が知ることもない。
 ホイホイとついて行こうとした彼に、長谷部も一緒に来てしまったのだ。
 その選択肢に、長谷部自身は早まったと後悔をしているのだ。
(ドウシテコウナッタ…)
 しかもである。

 あの晩と同じく黄色のワンピース姿に着替えさせられた。
 体のいい《従業員要員アルバイト》とさせられている始末である。
 文句を言う前に、海潮のテキパキとした行動になされるがままで――気がつけばの格好。
 席も、あの晩と同じで、扇を挟み込んで座っている。

 ◆◇

 長谷部君:竜司さんっ。あの馬鹿野郎と父さんの店に行くことになっちまったっ! また、報告すっから‼

 ◇◆

 当時の店内の込み具合で声を掛けられる様子もなく。
 扇について行く縁司の後ろを長谷部も追いかけてしまった。
「バイトしてくれてアタシも嬉しいです。長谷部君」
「父さんの手際の良さに、俺もびっくりしたよ!」
「ふふふ♡」と横に腰かける海潮が笑う。
 しかも、ワンピース姿なのは縁司もだ。
 海潮の巧みな話術によって着替えさせられたからである。
「やっぱり。あの日着ていたようなワンピース姿が似合うねぇー縁司君ー~~」
 嬉しさに酒も進み、呂律も回らなくなっていく扇を、縁司も冷ややかな目で見つめて笑っている。さながらと、海潮のような氷の微笑である。
「そうかよw」
 そして、縁司も酒を飲んで行く。
 金のない学生にとっての無料タダの酒は感無量。
 扇に続くように飲み干していく訳だ。
 明らかに出来上がっていく2人の男に、ついて来てしまったことを長谷部も本当に後悔をするしかない。

(ドウシテコウナッタ!?)

 しかし、と。
 縁司を見捨てて帰ろうという気はない長谷部も苦労性を垣間見せる性格だ。

「あれれー~~? どぉーしたのかなぁー~~? 長谷部君はっせっべっくぅうんんン??」

「ぅえ!? っな、何がだよっ!」
 突然とへべれけ具合もいい扇に声を掛けられてしまい、長谷部が勢いよく顔を向けた瞬間。
 顎に手が置かれ固定されると、
「へ?」
 扇の顔が迫って来たと思えば視界が暗くなった。
 唇に慣れたものが触れるのが分かる。
 しかし、すぐに抵抗も出来なかった。
 
 それは思いもしない光景に縁司も硬直してしまった。

「ぁア゛?」

 長谷部の方に向いている扇が、何をしているのかが縁司からは見えなかった。
 だが、すぐに分かった。

「っちょ、ぅん…ぁ、ア゛…っつ」

「ぉ、おいぃ!」
 縁司が立ち上がり扇の肩を爪を立てて掴んだ。
 遠慮なくスーツに力任せにだ。
「痛いw 痛い痛いってー縁司君えんっじっくぅうんンんw」
 にこやかに扇も唇を舌なめずりして縁司を見上げた。
 だが、縁司が見る先は息も絶え絶えな長谷部の様子だ。

「その馬鹿にするくれぇならオレとキスをしろ!」

「縁司、さん?」
 唇を拭う長谷部の目には扇に押し倒される縁司の姿が映し出された。
 そんな様子を唖然と見る長谷部と縁司の視界がかち合うと、

 ちょいちょい。

 指先で扉を差した。
 つまりは帰れとの合図を指している。
 だが、長谷部は顔を横に振るしかない。
 置いてなんか行けないからだ。自身の身代わりをする彼を。

(マジで馬鹿なのかよっ!)

 聞き分けのない長谷部に中指を立てて怒りを見せた。

「ねぇ? 少しはおじさんに集中しようよー縁司君w」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

助けの来ない状況で少年は壊れるまで嬲られる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

処理中です...