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#31 海潮にご挨拶を
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一瞬のありふれた普通の会釈と、自然なことで竜司は見落としたものの、調理場に戻った瞬間。竜司は持っていた皿を勢いよく床に落っことし割ってしまう。
それほどまでに激しい動揺に襲われてしまうのは仕方がない。
まさかの三柴海潮の来店なのだから。
「っは?! っはぁー~~!?」
意味が分からずにしゃがみ込んだ竜司は頭を抱えて上擦った声を漏らした。
「っな、ななななっっっっ‼」
声にもならない動揺である。
「長谷部の奴を送って来たみたいだよw 竜司さんw」
しゃがみ込む竜司の前に恵がにこやかにしゃがみ、彼に状況を説明をした。
それに竜司は涙目で恵を見据える。
「言っとくけど。あの人は《縁司さん》とママ活したんだよ、店長じゃないんだよw」
ズキ! と恵の言葉に竜司の胸も痛んだ。
「っそ、それは、……そうだね」
「店長、お宅の名前は?」
「え?」
「お宅の名前は?」
「っぼ、……僕は。僕は――棗竜司だよ」
真っ直ぐに竜司は恵に言い返した。それには恵も笑う。
「ああ。そうだよw お宅は棗竜司だ」
ゆっくりと恵は立ち上がった。
その仕草を竜司も目で追いかける。
「始まってなんかいないんだ。どっしりと構えて相手やりゃあいいんだよw」
「……確かにね」と竜司も立ち上がった。恵が言うように、竜司では会ってなんかいない。顔は同じだから相手はもちろんのこと戸惑うのは当然だ。どっしりと構えて、海潮なんか知りませんとしらばっくれればいいだけの話しだ。ただ、それが出来ればだが。
しかし、結局のところはしなければならない訳で。
ヤルしかない。
「僕じゃなくて」
誰も傷つかない方法はこれしかない。
「こういうのは縁司君の方が上手なんだよなぁ」
ただ、傷つくとするなら、他ならない竜司だけの話しだ。
そして、それでお終いになるだけの話しだ。関わることもなくなる訳だ。
ほんの少しだけ――心も寂しいのだが。
「僕はヤラなきゃなんないんだよね」
ヤルしかない。
◆
「父さん。寝なくても大丈夫なのかよ、今日だって店開けんじゃねぇのかよ」
「ああ、そうだな。少し眠いな、やっぱり♡」
「……なんだって。んな頑固になってんだか」
海潮の注文したケーキとコーヒーを席まで運びに来た長谷部がため息を吐いた。どうして、父親である海潮が、ここまで客でしかない扇の為に働くのかが理解出来ない。
「少し、話し出来ないか? 長谷部ちゃん」
海潮は前の席を指差した。それには長谷部も眉間にしわを寄せた。
「…勤務中なんだけど、俺」
「休憩は?」
「時間が短いかんな、ンなもんかねぇって」
素っ気なく言い捨て、テーブルの上にトレイを置いた。
「とっとと食って帰ってくれよなぁ」
「嫌な言い方をするところ、段々、…母さんにそっくりになっていきますねぇ」
唇を突き出して、嫌味を垂らして長谷部を見た。
「そりゃあ。母さんと一緒に暮らしてるかんな」
「可愛げがないところも似なくたっていいんですよっ!?」
海潮がコーヒーに口をつけたとき。
「長谷部君の、…親御さんですね? 初めまして、僕はこの【極道】の店主をしています棗竜司です」
意を決した竜司が、にこやかに海潮に自己紹介をした。
「!?」
縁司と瓜二つの竜司に、海潮の目が丸くなってしまう。
しかし、その知る縁司自体が竜司本人だとは、流石の海潮は気づかないのだった。
それほどまでに激しい動揺に襲われてしまうのは仕方がない。
まさかの三柴海潮の来店なのだから。
「っは?! っはぁー~~!?」
意味が分からずにしゃがみ込んだ竜司は頭を抱えて上擦った声を漏らした。
「っな、ななななっっっっ‼」
声にもならない動揺である。
「長谷部の奴を送って来たみたいだよw 竜司さんw」
しゃがみ込む竜司の前に恵がにこやかにしゃがみ、彼に状況を説明をした。
それに竜司は涙目で恵を見据える。
「言っとくけど。あの人は《縁司さん》とママ活したんだよ、店長じゃないんだよw」
ズキ! と恵の言葉に竜司の胸も痛んだ。
「っそ、それは、……そうだね」
「店長、お宅の名前は?」
「え?」
「お宅の名前は?」
「っぼ、……僕は。僕は――棗竜司だよ」
真っ直ぐに竜司は恵に言い返した。それには恵も笑う。
「ああ。そうだよw お宅は棗竜司だ」
ゆっくりと恵は立ち上がった。
その仕草を竜司も目で追いかける。
「始まってなんかいないんだ。どっしりと構えて相手やりゃあいいんだよw」
「……確かにね」と竜司も立ち上がった。恵が言うように、竜司では会ってなんかいない。顔は同じだから相手はもちろんのこと戸惑うのは当然だ。どっしりと構えて、海潮なんか知りませんとしらばっくれればいいだけの話しだ。ただ、それが出来ればだが。
しかし、結局のところはしなければならない訳で。
ヤルしかない。
「僕じゃなくて」
誰も傷つかない方法はこれしかない。
「こういうのは縁司君の方が上手なんだよなぁ」
ただ、傷つくとするなら、他ならない竜司だけの話しだ。
そして、それでお終いになるだけの話しだ。関わることもなくなる訳だ。
ほんの少しだけ――心も寂しいのだが。
「僕はヤラなきゃなんないんだよね」
ヤルしかない。
◆
「父さん。寝なくても大丈夫なのかよ、今日だって店開けんじゃねぇのかよ」
「ああ、そうだな。少し眠いな、やっぱり♡」
「……なんだって。んな頑固になってんだか」
海潮の注文したケーキとコーヒーを席まで運びに来た長谷部がため息を吐いた。どうして、父親である海潮が、ここまで客でしかない扇の為に働くのかが理解出来ない。
「少し、話し出来ないか? 長谷部ちゃん」
海潮は前の席を指差した。それには長谷部も眉間にしわを寄せた。
「…勤務中なんだけど、俺」
「休憩は?」
「時間が短いかんな、ンなもんかねぇって」
素っ気なく言い捨て、テーブルの上にトレイを置いた。
「とっとと食って帰ってくれよなぁ」
「嫌な言い方をするところ、段々、…母さんにそっくりになっていきますねぇ」
唇を突き出して、嫌味を垂らして長谷部を見た。
「そりゃあ。母さんと一緒に暮らしてるかんな」
「可愛げがないところも似なくたっていいんですよっ!?」
海潮がコーヒーに口をつけたとき。
「長谷部君の、…親御さんですね? 初めまして、僕はこの【極道】の店主をしています棗竜司です」
意を決した竜司が、にこやかに海潮に自己紹介をした。
「!?」
縁司と瓜二つの竜司に、海潮の目が丸くなってしまう。
しかし、その知る縁司自体が竜司本人だとは、流石の海潮は気づかないのだった。
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