ママ活しておこずかいを稼ごうとした弟の身代わりが、40歳過ぎた冴えない僕でもいいですか?

ちさここはる

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#21 長い一日の終わりに

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「あ」

 携帯を持っていた長谷部の口から小さな声が漏れた。
 そんな彼に竜司も、
「どうかしたのかい?」
 誰からなのかと、若干の嫌な予感で聞いた。
 それが自身を他所に顔に出てしまっていたのか、長谷部もバツの悪そうな表情を竜司に向けていた。その顔色だけで、竜司も察したのはいうまでもない。

 相手は父親である――海潮に違いないと。

「出てもいいよ? 長谷部君」

 にこやかに、心を抑えながら竜司は大人の余裕を見せた。
 しかし、内心は心臓は高鳴っている。
 こんな感情は言葉にしたらいいのか、今の竜司に答えは出ない。
「あー~~…はい」
 長谷部も渋々と液晶を押した。

「もしもし? 父さん、どうかしたのかよ」

 やはり、相手は海潮だった。
 
『ねぇ、長谷部は今も縁司さんと一緒にいる?』

 海潮の声は携帯から響き漏れた。
 どうしてだが竜司の名前を呼ぶ海潮に、竜司も思わず身体を硬直させてしまう。運転中なのだが、耳も集中も会話の方に向けられしまうのは、仕方がないのかもしれない。
「あー~~…んにゃ。もう分かれたよ」
 ぶっきらぼうに長谷部は海潮に嘘を吐いた。
「コンビニで降ろしてもらって、歩いて帰るところだぜ。それが?」
 海潮に長谷部も、何があったのかと聞き返す。

『王子様がね、縁司さんとお話ししたいってごねているのよ』

『っご、ごねてなんかいないからねぇw ママぁー~~勘弁してくれよぉう』

 海潮の言葉に、横にいるらしい扇の声も携帯越しに聞こえた。

(あ。如月さんの声だ)

 それに竜司も心を弾ませてしまう。
 顔の表情も明るくなる竜司に、長谷部も口をへの字にさせた。

「そうなんだ。ちょっと、遅かったな」

『そうみたいねぇ。ですって、王子様』と海潮は扇に伝えた。
 するとだ。

『じゃあさぁ。彼の家とか教えてくれないかな、おじさん知りたいんだよw』

 海潮ではなく扇と相手が変わった。

「いやいや。教えないぞ」

 長谷部は携帯を指差し、
(どうする)
 と竜司に聞くのだが、もちろん。

(ダメっっっっ!)

 竜司も全力で手を左右に振った。
 長谷部も顔を縦に振り、親指を立てる。

「聞いてどうすんだよ。あンた」

『聞いて? そりゃあ~~会いに行くさ』

「え。何、怖いんだけど」
『怖いかなぁ? たださ、おじさんは縁司君にもう一度、話したいだけなんだけどなぁw』

 携帯の向こうから竜司と話したいと笑う扇の声に、竜司も嬉しくなるのだが。彼にされたことを思い出すと、嬉しいことばかりではない。店のオプションだとはいえ、初見の自身の胸の突起を躊躇なく舐め誉め、しまいにはペニスを咥えて精液ザーメンを飲み干した彼だ。

(誰とでも、…いいんだろうなぁ)

 自身ではなく24歳の弟の縁司を相手にしたことになっている訳で。まさか42歳の、扇よりも年上だとも思いもしていない。彼は竜司の事情を全く知らない。
 知らない彼と竜司も会うことも、話すことも出来ないし。
 縁司にも会わせたくもない。

(僕なんかじゃないんだもんな、…相手は、本当なら縁司君だったんだもんね)

 沸き上がる胸の中の感情に、竜司も胸やけを起こしてしまい腹痛にも襲われてしまう。腹を撫ぜて、深く息を何度となく吐いた。

(僕なんかじゃ、…ないんだよっ)

 なんともいえない苛立ちに、竜司の運転も荒くなってしまった。それには長谷部も「ぅ、っわ! どうかしたのかよ!」思わず携帯を持ったままで竜司に声をかけてしまった。

『? 長谷部君、誰と一緒なのかなw』

 弾む扇の声に長谷部も、
「あンたにゃあ関係ねぇヤツだよっ!」
 そのまま切り、電源も落とした。
 肩で息を吐く長谷部に竜司も、なんとも声をかけ辛かった。

「竜司さんも、気をつけるんだぜ!?」

「ぇ、あ? ぇえっと????」
絶対っぜってぇ、ああいう野郎は、諦めねぇかんなっ!」
「ぁ、うん…縁司君にも言っておくよ」
 そうこうしている間に、長谷部の住むマンションに着いた。

「あんがとな、竜司さん。それでさぁー俺ぁ、いつからバイトに行きゃあいい?」

 降りる際に長谷部が竜司に確認をした。
 そんな長谷部に竜司も、
「明日の、学校終わったら出られるかな? 来てくれるとおじさん、助かるんだけど」
 手を合わせてお願いをしたのだった。
 竜司の行為に長谷部も親指を立てて、車から降りた。
 手を振り中へと入る長谷部を見送り、竜司も来た路へと引き返した。

「あー~~疲れたぁ」
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