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#19 相手からの着信

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 棗竜司と縁司の父親の司は多趣味な男だった。
 それらは息子である2人にも強要をし仕込んだ。

 次男の縁司はスポーツ全般と簡単な格闘術を覚えた。
 そして、長男の竜司は縁司が生まれる前からの叩き込みであるために、華奢で物腰の柔らかい優男に見間違われがちだが。

「っだ! ギブっ、ギブだってぇー兄貴ぃいい!」

 縁司をねじ伏せる程に力も、関節技もキメられる訳で。
 貫禄もだが、20年以上の年季キャリアが違う。

「じゃあ。まずは長谷部君にごめんなさいだよねっ!?」

 畳の上にねじ伏せ縁司の腕をとり、関節を今にも外そうとする勢いの竜司。
 長谷部も目まぐるしい状況に、狼狽えるしかない。どうして縁司が、そんな格好になっているのかさえ見えなかったからだ。それほどまでに竜司の行動は素早かった。

「っごめんってぇー~~」

「僕に言うんじゃないの! 長谷部君にだよっ! ほら!」

「いやっ、あのっ! ぁ、あ、ぁあ~~」と戸惑いに声も震えてしまう長谷部を竜司と縁司が見据えた。縁司に至っては涙目だ。違う顔だとは思うのだが、顔が並べば似てるというのが分かる。
 だから、まるで竜司が泣いているようで胸も傷んでしまう。

「長谷部君~~ごめんねぇー~~許してくれるかなぁー」

「っゆ、許すよ!? うん! 怒ってなんかねぇしぃい!」
「本当かい? 長谷部君、なんなら縁司君の腕の一本でも外してもいいんだよ??」
「っだ、だめ! んなのしなくたっていいって!」
 空恐ろしい言葉を吐く竜司に長谷部も顔を左右に動かした。そんな長谷部に竜司も、ここでようやく縁司の腕を投げ捨てて立ち上がった。

「よかったね。縁司君、病院送りにされなくてっ」

「っは、…はひ…」と肩を抑える縁司が顔を俯かせたままだ。
 壮絶な兄弟喧嘩を見せつけられた長谷部も戸惑いしかないのだが。
 引きつった笑顔しか浮かばなかった。

「さぁてと。じゃあ、家まで送るよ長谷部君」

「っや、っだ、大丈夫だぜ! 歩いて帰るからっさぁ!」
「僕は海潮さんに送るって約束をしちゃったし。義務があるんだよ」
 にこやかに長谷部を見る竜司に、
「あ、…はい。ぉ、お願いしょうか、な…」
 ぎこちない動きで頷くことしか出来ない。
 縁司も横目で長谷部の様子を伺っていた。

(まじで、あンっっっっのクソ餓鬼ぃいい!)

 歯を噛み締めて、忌々しくも睨む。

 ◆

「あー~~つぅか。なんでオレがお留守番なんかしにゃあならんのよw」

 送りに行ってしまった竜司に愚痴る縁司。
 依然として竜司に掴まれた腕の肩の調子も悪く、堪らなく痛い。
 煙草を咥えて、灰色の煙を吹き。

 長谷部を思い出す。

「16っつぅと、…高校生の1年か2年ねぇ」

 強面で体格のいい長谷部。しかしながら、中身は子どもだ。
 なのに経験があるとしか思えない抵抗もなかった口づけ。
 舌もたどたどしくも絡ませてきたことも思い出す。

「…絶っっっっ対ってぇ、非処女に決まってんじゃんじゃねぇかよぉー~~ガバガバのヤリマンだっつぅの!」

 誰もいない家のリビングで、長谷部のことを決めつけて吠える。
 脚もジタバタと堀こたつの中で暴れさせる。
「よっっっっしっ! 決めたっ!」
 バン! とテーブルを両手で叩きほくそくんだ。

「今度会ったら、相手してもらおうじゃねぇのぉうw」

 そんなとき。
 携帯が鳴った。

「? 村正の奴かぁ?」

 着信の液晶画面を見れば――

「さぁてと、…困ったなぁーどうすっかなぁ? なぁ、兄貴ぃ?」

 相手は、今日のママ活の相手だった海潮である。
 それに縁司も出ることが出来なかった。

 もちろん、竜司が怖いからだ。
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