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#12 耳たぶとピアス

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 ブローチのピンの先端で竜司の耳たぶには小さな穴が左右に開けられた。その行為に、当の竜司に許可もなく、ただ単に開けたかったから扇は開けた訳だ。
 そして、その耳たぶに突き返されてしまった【玉髄ピンクカルセドニー】のピアスをあてがい嵌めた。その様子を長谷部も見守るしかない。

「ほら。こんなに可愛いでしょう」

 ピアスのことなのか、それとも竜司のことなのか。
 長谷部には分からずに、聞き返すことも出来なかった。
「ああ。ピアスも、彼もだよ。長谷部君」
「…はぁ」と気の抜けた返事をする。
「何? ひょっとして、君がピアスを開けたかったりするのかな?」
 そら恐ろしいことを長谷部に聞く扇に、高速で左右に顔を振ってしまう。
「今の高校生なら、ピアスくらい普通なんじゃないの? ま、いいけどねぇw」
 残念と眉をしかめ、竜司の耳たぶとピアスを摘まんだ。

 カカカ――……

「ははは! そんなに逃げなくたっていんじゃないの? おじさん、傷ついちゃうんだけど?」

 目を覚ますなり竜司は長谷部の背後に隠れた。
 彼が二周り下だという自覚はあるのだが、咄嗟にしてしまった。
「っす、すいません」
 思わず謝罪の言葉も口に出てしまうのは癖でもある。
 しかし、今回は謝罪をされることがあっても竜司がしなくてもいい案件だ。
「縁司さん。こんな変態に謝ることなんかねぇって。むしろ訴えたっていいぐらいだって、俺にだって分かるくらいだぜ?」
 背中に隠れる竜司に長谷部も声をかけた。
「あんな行為やら、耳たぶのそんな行為やらなんか。傷害罪っての? なんらかの刑罰なんかに触れてんだろうし」
「ぁあぁあ。っだ、だろうねぇ」
 上擦った口調で返事をするが、全く力もなく語尾すら掠れている。
(ぼ、僕はなんて真似をぉう~~ 縁司君の代わりだっていうのにぃいっ!)
 あまりの恥ずかしさと、気まずさの比はどちらも変わりなく、どうしていいのか、なんて弟に言えばいいのかが脳内ぐちゃぐちゃだった。
 
 言い訳を探していた。

(強引に? いや強引なんだけど…引くに引けなくて? まぁ、それもあるよねぇ)

 縁司に引き継がなければならない、共有しなければならないことだからだ。
 弟を巻き込むことは必須の、事件である。しかし、単独事故でもある気もした。
 海潮と別れていれば、手伝うなんて安請け合いをしなければである。
 こんな目には合わなかった訳だ。
 迂闊に泥沼に嵌ってしまったのは自身の自己責任でしかない。
「うんうん。本当に威嚇されちゃってて、おじさんってば泣きそうなんだけど?」
 眼鏡の上から手で覆う様子に、
「っご、ごめんよ? もとはと言えば、僕も悪いんだよ。知らないで店に手伝いに来ちゃったんだし」
 長谷部の背中から飛び出て扇の横に腰を据え、扇の太ももに両手を置いた。
「如月さんも、こういう店だって知ってて来たんだもんねっ」
 申し訳ないといった表情を扇に向けた。
「もう会うこともないとは思うけど、…こんな高いピアスを、僕なんかにくれちゃっていいのかい?」
 耳たぶの痛みと重みに。改めて扇に確認をした。
「え? もう、会わないって…ぅん? ぇえっと、縁司君ってば従業員スタッフさんなんじゃないの? え?」
 竜司の思いもしない言葉に、扇も驚きの表情を浮かべてしまう。
「っきょ、今日だけの、…臨時の助っ人ですから…もう、来ることもないとは、思います」
「ええー今日だけなのぉう? おじさん、その話し聞いたかなぁ?」
 腕を組み顔を上に、下へと動かした。
「言ってねぇと思うけど。俺も父さんの手伝いなんだけどなっ」
「ああ。じゃあ、君はこれからも店に来るんだねw」
「二度と来るかってんだよ!」
「いやいや。来るでしょ、君はw」
 宣言をするも扇に全面的に否定をされてしまう。
 そんな話しをしている2人に、
(そっかぁ、関係ないのって僕だけなんだなぁ)
 ほんの少しだけ竜司も寂しいと感じるのだが。
 もう縁司と偽って来ることもないし。竜司と本名で来ることもない。

「ピアス、…返しましょうか?」

「いいよいいよ。男が一回渡した贈り物を返して貰うなんか勘弁してよ。惨めにさせないでくれるかな? 同じ男なら分かるでしょ? それに、元々それもつき返されちゃったヤツだって言わなかったっけw?」

 確かに聞いたし。可哀想だなとも思った。
 しかし、だからといって男の自身に許可もなく勝手に嵌める暴挙にはあり得ないと引いたのだが、扇に嫌味も、業とでも悪ふざけをした訳でもない。ただ、どうしてしたのか、されたのかを聞いてはいない。聞いたところでどうしょうも出来ないからだ。強く責め立てるようなことなんかも竜司も出来ない。
「じゃあ、…はい。貰います」
「受け取って貰えて嬉れしいなぁ~~」

「は、はは…はぁ…」
(縁司君もピアスしてるし。渡さないとなぁ)
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