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#4 魔境に迷い込んだ子羊
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「…………」
◇
かかってきた電話に困惑の声を上げた海潮に、勿論のことで竜司も事情を聞いた。
『お恥ずかしいお話しなのですが。私、お店の経営をしていまして、…それで、もう開店をするのですが。従業員の2名が欠勤となってしまいまして』
海潮がお店を経営をしていると話で、もう、ここで同じ経営者としてなんとも言い難い同情と、状況の混乱を察してしまう竜司だ。
さらに海潮は続けて言う。
『1人でしたら、あてはあるのですが。あと1人となりますと、…困りました』
頬に手を当てて、あざとくもため息を吐く海潮の様子に。
腕時計を見る竜司がいる。帰りたいとかではなく、ただの時間の確認だ。
そんな竜司の様子に海潮も、
『ああ。そうだ、お金の方を渡していませんでしたね』
彼が金銭を待っているものだと思い込み、そう竜司に言い、財布を出すと竜司の手を握り金銭を置いた。乗せられた金額に竜司も目を見開いた。あまりにも――多すぎる額だからだ。
(~~縁司君っっっっ!?)
身体が身震いしてしまう。この金銭を返したいのは山々だが、そうしてしまっては。
恐らくは――弟が黙っていないだろうし。また、彼女と会ってしまうのではと。
ここは、この額を受け取り。彼を説教する他ないだろうと思った。
『長く引き留めてしまったお詫びですよ。それでは、またお会いして頂けることを待ってますね』
深々とお辞儀をして、指先をひらひらと行こうとする海潮を竜司も。
困っている彼女との別れを、心から嫌だと思ってしまい。
『っぼ、僕じゃ助っ人の1人にはなれないのかな!?』
言ってしまった。
声を張って、彼女まで走り背中に向かって。
◆
そして。その行為に――
(ぉ、…お店って…)
今、どん底までに後悔をしてしまっている。
三柴海潮の経営するお店とは。
男性ばかりが集うメンズカフェとは名ばかりのバーでありパブの何でもありなお店だった。
店内は勿論のこと、様々な年齢層の男性がおり。従業員も男性だけだが女装をしているのも多く。一見したら、男性オンリーの店とは思えない。
「もぉう♡ 縁司さんが優しい男性ですごく嬉しいです♡」
満面の笑顔を向ける海潮も、勿論のこと――男性であることも竜司に知らされた。
だが、気持ち悪いだとか気色悪いだのと感情は一切と沸かなかった。
そういう感情を抜かしても、竜司は海潮が可愛く思っていたし手伝えたことが嬉しく。
笑うときに出来るえくぼも好きだな、と思っている。
「っそ、そうですか? …でも、やっぱり僕は場違いだなぁ」
そう感情のままに流される竜司に海潮は、あろうことか自身の赤色のワンピースを着せた上で黒いエプロンを貸し、淡く化粧を施していた。短い髪には縁司のような花の飾りが散るカチューサを着けさせている。細く長い足には黒いニーハイを履かせていた。
「お似合いですよ? 縁司さんは、身丈が細いですから。私の服が少しぶかぶかで嫉妬してしまいます」
「嫉妬されても、…縁じ――兄も、同じくらいに細いんだけど」
「? お兄様がいらっしゃるんですか? 縁司さんには?」
竜司の言葉に食いついてしまった海潮に、
「ぁ、ああ。はい、いますよ。18歳差と離れてますが」
タジタジと、しどろもどろと言い返すしかないが。しまった感もある。
「そうですか。似てらっしゃるんですか?」
「…ぃ、いえ。あまり、似てはいませんね」と嘘を吐いた。
ここでそっくりと言ってしまえば。後で、嫌なことがありそうだと思ったからだ。
「そうなんですか? まぁ、私は縁司の顔は好みですから♡」
喜々と言う海潮に、「そぉ、ですか?」と竜司も照れてしまう。
「ママ。その男の人がヘルプの方ですかぁ~~?」
「ええ。そうよ、マユちゃん」
「じゃあ。早速、働いてもらってもいいですかぁ? 今日は【あの日】だからーお客様が多いんですぅう」
マユは短いランピースに太ももまでの短いダメージパンツ。白いニーハイと赤いブーツの出で立ちだった。前髪は短くパッツンで、頭部でお団子ヘアーに、丸い眉毛と吊り上がった目が特徴的だった。
化粧はしているのだろうが、全くとそうは見えない。
「あら! 嫌だ、私ったら忘れていたわっ。なんて日にヘルプをお願いしてしまったのかしら…」
両手で口許を覆う仕草をする海潮に、竜司もビクビクとするばかりで。そんな言葉なんか、聞いてもいなかった。
「…長谷部にも、なんて日にヘルプをお願いしてしまったのかしら…」
小さく漏れた海潮の言葉を遮るかのようにマユは竜司の手を掴み。
「さぁ、行くよ! 新人君♡」
「っちょ、ちょっとぉー~~!」
勢いよく店内へと足を踏み入れた。
◇
かかってきた電話に困惑の声を上げた海潮に、勿論のことで竜司も事情を聞いた。
『お恥ずかしいお話しなのですが。私、お店の経営をしていまして、…それで、もう開店をするのですが。従業員の2名が欠勤となってしまいまして』
海潮がお店を経営をしていると話で、もう、ここで同じ経営者としてなんとも言い難い同情と、状況の混乱を察してしまう竜司だ。
さらに海潮は続けて言う。
『1人でしたら、あてはあるのですが。あと1人となりますと、…困りました』
頬に手を当てて、あざとくもため息を吐く海潮の様子に。
腕時計を見る竜司がいる。帰りたいとかではなく、ただの時間の確認だ。
そんな竜司の様子に海潮も、
『ああ。そうだ、お金の方を渡していませんでしたね』
彼が金銭を待っているものだと思い込み、そう竜司に言い、財布を出すと竜司の手を握り金銭を置いた。乗せられた金額に竜司も目を見開いた。あまりにも――多すぎる額だからだ。
(~~縁司君っっっっ!?)
身体が身震いしてしまう。この金銭を返したいのは山々だが、そうしてしまっては。
恐らくは――弟が黙っていないだろうし。また、彼女と会ってしまうのではと。
ここは、この額を受け取り。彼を説教する他ないだろうと思った。
『長く引き留めてしまったお詫びですよ。それでは、またお会いして頂けることを待ってますね』
深々とお辞儀をして、指先をひらひらと行こうとする海潮を竜司も。
困っている彼女との別れを、心から嫌だと思ってしまい。
『っぼ、僕じゃ助っ人の1人にはなれないのかな!?』
言ってしまった。
声を張って、彼女まで走り背中に向かって。
◆
そして。その行為に――
(ぉ、…お店って…)
今、どん底までに後悔をしてしまっている。
三柴海潮の経営するお店とは。
男性ばかりが集うメンズカフェとは名ばかりのバーでありパブの何でもありなお店だった。
店内は勿論のこと、様々な年齢層の男性がおり。従業員も男性だけだが女装をしているのも多く。一見したら、男性オンリーの店とは思えない。
「もぉう♡ 縁司さんが優しい男性ですごく嬉しいです♡」
満面の笑顔を向ける海潮も、勿論のこと――男性であることも竜司に知らされた。
だが、気持ち悪いだとか気色悪いだのと感情は一切と沸かなかった。
そういう感情を抜かしても、竜司は海潮が可愛く思っていたし手伝えたことが嬉しく。
笑うときに出来るえくぼも好きだな、と思っている。
「っそ、そうですか? …でも、やっぱり僕は場違いだなぁ」
そう感情のままに流される竜司に海潮は、あろうことか自身の赤色のワンピースを着せた上で黒いエプロンを貸し、淡く化粧を施していた。短い髪には縁司のような花の飾りが散るカチューサを着けさせている。細く長い足には黒いニーハイを履かせていた。
「お似合いですよ? 縁司さんは、身丈が細いですから。私の服が少しぶかぶかで嫉妬してしまいます」
「嫉妬されても、…縁じ――兄も、同じくらいに細いんだけど」
「? お兄様がいらっしゃるんですか? 縁司さんには?」
竜司の言葉に食いついてしまった海潮に、
「ぁ、ああ。はい、いますよ。18歳差と離れてますが」
タジタジと、しどろもどろと言い返すしかないが。しまった感もある。
「そうですか。似てらっしゃるんですか?」
「…ぃ、いえ。あまり、似てはいませんね」と嘘を吐いた。
ここでそっくりと言ってしまえば。後で、嫌なことがありそうだと思ったからだ。
「そうなんですか? まぁ、私は縁司の顔は好みですから♡」
喜々と言う海潮に、「そぉ、ですか?」と竜司も照れてしまう。
「ママ。その男の人がヘルプの方ですかぁ~~?」
「ええ。そうよ、マユちゃん」
「じゃあ。早速、働いてもらってもいいですかぁ? 今日は【あの日】だからーお客様が多いんですぅう」
マユは短いランピースに太ももまでの短いダメージパンツ。白いニーハイと赤いブーツの出で立ちだった。前髪は短くパッツンで、頭部でお団子ヘアーに、丸い眉毛と吊り上がった目が特徴的だった。
化粧はしているのだろうが、全くとそうは見えない。
「あら! 嫌だ、私ったら忘れていたわっ。なんて日にヘルプをお願いしてしまったのかしら…」
両手で口許を覆う仕草をする海潮に、竜司もビクビクとするばかりで。そんな言葉なんか、聞いてもいなかった。
「…長谷部にも、なんて日にヘルプをお願いしてしまったのかしら…」
小さく漏れた海潮の言葉を遮るかのようにマユは竜司の手を掴み。
「さぁ、行くよ! 新人君♡」
「っちょ、ちょっとぉー~~!」
勢いよく店内へと足を踏み入れた。
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