何度でも、やさしい嘘にキスをしろ。【完全版】

ちさここはる

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EP:112 トイレから棚ぼた

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「手前」

 頭に両手を置いていたゲイリーは、セスナが向かって来ることに気づけずに。
 ついには。

「‼」

 鉢合わせてしまう。

「おぉいぃいい?? 手前ェ゛!」

 便座の横に丸まって座っているゲイリーに。
 セスナは腕を伸ばしてゲイリーの腕を強く掴んだ。
「った! ぃ、ったいー~~‼」
「!? っと!」
 ゲイリーの声にセスナも腕から手を離した。
 離さざるをえなかった。
「っす…すま、……ワリぃな」
 素直に謝られたゲイリーといえば。

「気持ち悪ぃー~~」

 それにドン引き。
 引いた拍子に出た血の感触に、顔を膝に乗せてしまう。

「‼ ぉおぃいい?? っだ、大丈夫なのかよ?? なァ゛、おぉい゛!」

 狼狽えながらセスナがゲイリーに聞くも、ゲイリーは微かに頷くだけで、セスナも、どうしていいのか分からずに狼狽えたままだった。

「「…………」」

 ぎ、ギギギ! とセスナは便座に蓋を被せた。
 そして、その上に腰を乗せた。

(出てけよーもぉー~~)

 腰を下ろす音に耳にして。
 ゲイリーな内心で舌打ちをする。
 苛立っているゲイリーを他所に、
「で。なんだってこんなとこのそんな隅で丸まってんだよ。手前はよぉ」
 セスナが聞いた。

(トイレしてたに決まっているじゃんかー)

 質問されまでもないことに。
 ゲイリーも応えなかった。
「糞でもしてたってか。そりゃあなぁ…こいつァ、臭うな」

「‼ っき、君のだって臭うでしょー‼」

 マスターベーションした後のこともあって、勢いよくゲイリーが声を荒げた。
「!? ぉ、あ゛…まぁな。糞は臭せぇよなァ」
 セスナも引き気味に頷いた。
「っそ…そぉーだよー~~‼ っふん!」
 ゲイリーも頬を膨らませて言い捨てた。

「「…………」」

 とくに、こう話そうとした考えもなく。
 なんとなく、こう2人きりになってしまった。
 銭湯での産まれたままの姿ではなく。
 看守と囚人として。
 互いが互いを知らずに。

 いや、セスナだけが知っている。

「…他の看守の人。何処に行ったの? 一緒に行かなくていいのー?」

「ああ。アイツらにゃあ手前の行くような場所に行かせただけだかんなァ」
「君も行きなよ。人を顎で使っちゃあダメなんだよー」
「いいんだよ。つぅー~~か、手前がいなくなったからだろォうが! 原因はよぉ‼」
 最もな言い分に、
「ボクのせいじゃないもーん」
 ゲイリーが顔を横に反らして言った。
「ばァああか! 手前のせいに決まってんだろォうがよォ‼」
 声を荒げるセスナに、
「勝手に勘違いするからじゃないかーきちんとくまなく見たらーボクのことだって見つかったでしょー」
 機嫌斜めに言うゲイリーに、
「くだらねぇこと言ってんじゃねぇよ! ふざけんじゃねぇよッ‼ 手前わよォおぅ!」
 話しには先行きも、着地点もない。
 
 ただ。
 その言い合いの中でも。

 じゅん。

 じゅわわわ――……と血が溢れ出てしまう。

「っく! ぅうう゛う゛……」

 それにまた顔を膝の上に置いてしまう。
 そんなゲイリーの百面相に。

(んなに血が出てんのか? コイツは)

 鼻息を漏らして、見下ろしていた。

「いつまでいるの? 出て行けよ…」

 ゲイリーはセスナを見ずに。
 はっきりとした口調で言った。

「!? ぁああァ゛??」

 命令口調に。
 セスナが次いで低い口調で言い返した。

「誰に言ってんだァああ?? 手前はよォおおぅ?!」

「看守の人にだけど?」

 ゲイリーの返しに。
 ついにはセスナも腕を掴み直し。
「手前ッッ‼」
 隅から引きずり出すと。
 便座の下に叩きつけ腹部を踏んだ。

「っぐ! ぅくぅ゛‼」

「誰に立てついてんだよォお? あァ゛??」

 っぐ、ぐぐぐ! と足で強く踏み込んだ。
 そして、顔を近づかせた。
「?」
 ふと見た肌がどこか。

「…おい。手前…さっきまで誰かとってたのか?」

「‼ っし、してんんか…ないッ! ぃたいから! いい加減にして‼」
「本当に誰ともシテないってんならよぉ。どうし――」
 イラつきながらゲイリーに確認をしていたときになって、ようやく彼も気がついた。

「一人で…シコってたのか? 手前はよォ??」

 か。

 かかかか。

 カカカカカカカ!

 顔が朱に染まるゲイリーの反応に。
 つられるように、
「ん゛」
 セスナも生唾を飲んでしまう。

「ぃ、いいじゃないか! ぼぼぼ、ボクだって! 男の子だもんー溜まるもんは溜まるんだよー‼」

 ぎゃんぎゃん! と泣くように言うゲイリー。
 その反応にもセスナもゾクゾク! と身体を震えさせた。
「人肌が恋しぃかァ? ゲイリー~~??」
「‼ っべ、別に! 恋しくなんかないもん!」

 可愛くなく言い返すゲイリーの腹を。
 セスナが勢いよく踏み込んだ。

「‼ うぁ゛‼」

「へぇー? じゃあ、7日間きっちりと我慢出来そうだなァ??」
「ぃ、いい加減に出て行け! 君なんか大っっっっ嫌いだッッ‼」
 鋭い眼光でセスナを見るゲイリーに、
「大嫌いでもいいさ。好かれたことなんかないんでね」
 素っ気なく言い返すと。
 素早い動きでゲイリーの口腔に何かを入れた。

「?! むむム゛??」

 腕もまた同様に。
 素早い行動でゲイリーの囚人服つなぎの袖口を後ろで結んだ。

「むム゛む゛ぅう゛う゛‼」

「これで拘束は完了ってこった」

 足をバタつかせるゲイリーに。
「あんまり暴れて音を出したらよォ。あの囚人が起きちまうよォ??」
 意地悪くも耳元で、そう囁いた。
 ただ。
 その言葉はゲイリーには効いた。

 ようやく大人しくなったのだった。

「っは! 静かになったな」
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