何度でも、やさしい嘘にキスをしろ。【完全版】

ちさここはる

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EP:106 きみのことばかり

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「ぅっわぁ~~‼」

「!?」

 ゲイリーが勢いよく起き上がた。
 するとだ。

 がっちん!

 と額に何かとぶつかってしまう。

「「っだ‼」」

 当たったお互いが、

「ぅううー~~も゛ぉ~~誰だよぉ~~‼」

「ゲイリーの石頭ぁ~~‼ ぃ゛ったぃ~~‼」

 お互いが痛みで声を上げた。

「アズミ‼ アズミ?!」

 ゲイリーも痛みを忘れ、彼の両頬を掴んで。
 視線は合わないために、少し顔を上げさせた。

「っは、ははは。ただいま。ゲイリー」

「ぅ、うん! お帰りぃー~~アズミー~」

 両手を安住の背中に回してゲイリーが抱きしめた。それに。安住もゲイリーの胸に顔を埋めた。

「俺も。しばらく…露天風呂には行かないよ」
「? なんでー~~アズミは行ってもいいんだよー」
「ゲイリーと一緒にいるよ」

「いいけどさーあの彼氏さんには言ったのー?」

 安住はゲイリーの言葉に、少し宙を見上げて言った。

「ん。言ったから大丈夫だ!」

 ◆

「はぁ……」

 フロイはベッドの上に寝っ転がっていた。
 今まさに天国と地獄を味わっていて。
 落ち込んでいた。

「はぁー~~」

 大きくため息しか吐かないフロイの様子を。
 フレディとセスナが見ていた。
 本来なら次の出勤時間までは寝るのだが。
 この2人は寝れずに。

 気がつけばフロイの部屋の前でばったりとかち合ったわけだ。

おっきなため息ですね」
「だな。ま、どぉうせ。日本人アズミ絡みなんだろぉー~~」

 うつ伏せになっているフロイを見ながらウノをしている。
 いつもなら3人でやっているものだ。

「てか。セスナさん、なんか生傷がありますが。どうかしたんですか?」
「ぅっせぇなぁー~~なんでもねぇよ!」

「あの……セスナさん」

 カードを引き。
 切りながら、フレディがセスナに聞いた。
 聞かれた本人もキレ気味だ。

「なんだよ! ぅっせぇー~~なぁ! ゲームをする気あのかよ! 手前はっっ‼」

「セスナさんは。両刀バイなんですか?」
「はァ゛?? なんだァ゛あ急によぉー~~‼」

「お、男と女。どっちが好きなんですか??」

 正面きってフレディがセスナに聞いた。
 本気な眼差しに、
「そりゃあ。女だよ! ここにゃあいないから仕方なく男を抱いてやってんだよ!」
 カードに視線を下げてセスナも応えた。

「溜まるもんを発散しねぇとストレスにしかなんねェしなぁッ‼」

(ヤバい…これはヤバい…)

 セスナの言葉にフレディも喉を鳴らした。
 こんな男にゲイリーの秘密を知られたら。
 知られてしまったら。

 だが。逆に――知られたら。
 知られたで。

(もう少し。扱いを考えるかな…戸惑うかな? ゲイリーのことを避けるかな)

 ごきゅ! とまた喉が鳴った。

「? 喉乾いたのか? なんか持って来いよ。俺様は水でいいぞ」

 カードを頬に当てながらセスナが笑った。

「あの…その…実は…あの」
「?? なんだよ? 改まってよぉ? キメぇなァ」

 目を細めるセスナにフレディも。
 二の足を踏んでしまう。

(どんな行動するかな。ゲイリーを知ったら。この男は)

 フレディの両目の中にはセスナが映し出されていた。

 ◆

「で。お腹の具合とかどうなの? ゲイリー??」
「んー薬って凄いよねーあっという間に和らいだよー~~」

「そりゃあ。そのために製造されている…つぅか。どっからくす――」

「私しか居めぇよ? 日本人アズミ

 どっからともなく湧いて出たラバーに安住とゲイリーも驚いた。
「汚物は出たか?」
 黒い袋を持ち上げた。
 そんなラバーにゲイリーも笑顔で言う。
「まだートイレに行ってないー」

 ゲイリーも顔を横に振った。

「っち! また来らァ」

 そして、牢獄から出て行くのだった。

「お父さんは心配症としか…」

「ボスはーいい人だからねー」

 背中を見送り終えると。
「あのねーなんかねーこないだ酔っぱらって介抱されたときにジェイソンに性別のことを言っちゃってたみたいなんだよねー」

 ゲイリーが安住にそう言った。

「へ?」

「ボクもびっくりしたー告白もされちゃったんだー」
「はァ?!」

「ボスがキレてたー」

 にこやかに言うゲイリーとは対照的に、安住の口が大きく広がっていく。
「ぅ、そ…だろ? マジかよ」
 驚く安住を他所に、ゲイリーはベッドに倒れ込んだ。

「お腹空いたなぁーでも、そこまでじゃないしなァ」
 マイペースなゲイリーに安住も口をパクパクとさせていた。
 彼たちの。
 看守の正体を知らせるべきなのかと。

B・Bビーツー、このビタミンゼリーをやるよ。飲みな」

「わぁー~~有難うー~~ボス~~」
「パパと呼べってんだよ! この野郎‼」

 いつの間にか。
 戻って来ていたラバーが飲むビタミンゼリーを放り投げた。

「っわ! っと、ととと! キャッチー~~」

 喜ぶゲイリーとは対照的に、
(絶対…盗聴されている気がしてきた)
 安住が辺りを見渡していると。

「日本人ぃー~~??」

 恫喝のような低い口調のラバーが安住の名前を呼んだ。
 それに安住も笑い返すほかない、頬を引きつかせながら。
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