何度でも、やさしい嘘にキスをしろ。【完全版】

ちさここはる

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EP:97 我慢と限界

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「私はそんな嘘を吐くような男なんかじゃねぇぞ?」

 モニターから手を離したラバーが、頭部の上で掌を合わせた。

『いいや。あんたはいつだって嘘吐きさ。ゲイリーと同じで。醜いのさ』

 嗤いながら、酷くも吐き捨てるジュエルに、ほくそくみながらラバーが聞く。

「ああ。そぅいや…旦那ホープとはどうなんでぃ?」

 嗤っていたジュエルの顔も真顔に変わる。

『嫌な男ね。アンタって男は』

「癖でね。相手を甚振るのが大好きなのさ」

 ジュエルがモニター外からグラスを取り出し。
 ゆっくりと呑んでいく。

『アタシ達…姉弟はさ。頼る相手もいなかったし。寂しくて、彷徨って。気がついたら異国だ。そりゃあ世界の全てが敵だ。信じられるのは姉弟アタシたちだけで――その魔法が解けたちまっただけさ。アンタにも責任があるんだ。自覚しな』

「いい気分だよ。ざまぁねェなァ~~ジュエル」

 喜々とした顔と、声で言い返すラバー。
 ジュエルにとっていい思いなわけでもなく。
 眉間にしわをよせ、

『本当にアタシの周りにはいい男がいないよ! 旦那の…元旦那は元旦那で潜入中のファミリーのお嬢様を孕ませたときた! あァ゛ああ゛ァ~~‼』

「ふぅん? Jrミラとゲイリーの腹違いの兄弟ってやつか。めでてェじゃねェかよ」

 パチン! と指をラバーが鳴らしたところで。

 ばっちん! と接続回線が向こうから切られてしまう。
 ラバーはジュエルの怒り具合に、苦笑を漏らした。

「お前さんが恋しいってのは本当さ…ジュエル。ただ。ただよォ――私の世界も変わっちまったんだよ」

 ◆

 時間が刻々と過ぎていく。
 その中。

(ど、どうしょうかなぁ)

 そわそわ、と安住がしていた。
 
 あれから二人は食堂にも行かずにベッドに寝転んでいる。
 安住自身も、絶対安静レベルで身体のあちこちが痛いため、ゲイリー自身も、絶対安静レベルではないものの、23年間生きて来ての初潮体験に、胸やけと吐き気に、倦怠感と頭痛に、混乱していて、どうしていいかも分からなかった。

 ただ、動く度に出る違和感に、身体も身震いさせてしまう。

 何をしていても。
 意識がある以上――気持ちが悪いこと、この上ないわけだ。

「ぅうう゛~~ぎも゛ち゛わ゛る゛ぃ゛~~」

 へばっているゲイリーを横目に。
 安住はフロイに聞きたいことがあり、堪らなく彼に会いたかった。

(でも。会って…何て言う? 嘘吐き? 大嫌い? フロイ…フロイ…――)

 ただ。真相が知りたかった。

「ゲイリー? 大丈夫…じゃあ…ないよな?」
「ぅう゛ん゛ーもォー~~無理ぃ~~」

 背中を合わせていたゲイリーが。
 安住の方へと顔を向けた。
 
「ぅ~~んンン? 俺じゃあ何も手助けが出来ないしなぁ」

 態勢を変えたゲイリーに安住も言い返した。
 そのときだった。

 がっっっっっっっっぷッッ‼

「――――~~~~ッッ‼ っづ、ぁ゛‼」

 ゲイリーが安住の首筋を。
 思いっきり歯を当てて噛んだ。

 唐突なゲイリーの噛みに。
 安住の目もチカチカと火花が散った。

「っひ、ぅ゛!」

「アズミ…アズミぃー」
「ったいって! ゲイリー~~たんまッ! たんまってば!」

 安住が大きく声を荒げた。
 しかし、ゲイリーは止めず、首筋の至るところを噛まれ、離れた箇所はゲイリーの唾液が風に辺り冷たくなる。

 ッガ!

「っふぁ゛! ぃ゛っだッッ‼」

 ガジ‼

「今日までー誰も噛んでないんだよーアズミー」

 そうゲイリーが安住の耳元で。
 そう囁いた。
 
「我慢の限界ー」

「っちょ! たんまっっ‼ 待てって! ゲイリー~~‼」

 必死に安住はゲイリーを制止させた。
 ゲイリーも怪訝な表情で安住を見る。
「…――イトウのこと考えてるのかよォ゛?」
 声も、低く聞き返した。

「! …俺。イトウが、お前を傷つけるの…見たくないんだ」

「『噛むのは俺だけにして欲しい』ってアズミが言ったんじゃないかー」

 安住もバツが悪そうに視線を泳がせた。

「そ。だけど…でも。イトウが…お前を。ゲイリーを傷つけるよ?」

「いいよ。殴られたって平気ーボクだってーマフィアの息子だよー?」

 にこやかに歯を見せて笑うゲイリー。
 気にしていたことも、嘘のように安住も折れてしまう。

「後、どれくらい噛みたいのさ?」
 
 枕に顔を埋めて首を差し出した。
 その首筋に、ゲイリーも指先で。
 噛んだばかりの唾液のついた歯型をなぞった。

「時間が来るまで――ずっとだよーアズミぃー~~」

 ガジっっっっ‼
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