何度でも、やさしい嘘にキスをしろ。【完全版】

ちさここはる

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EP:67 地獄湯、修羅場

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 安住の頬はやや膨らんでいた。
 対照的に、
「居ないねぇー居ないねぇー~~アズミー」
 喜々としたゲイリーの言葉が。
 露天風呂に響いた。
「…っつ!」
 その言葉に、安住の身体がビクついた。
「まーいつも来るとはー限らないもんねー? ねー?」
「嬉しそうだな。ゲイリー…」

「! ぃ、いやいや! そんなことはないよー?」
(めっちゃ、嬉しぃよー♡) 

 建前と本音が。
 ゲイリーの中で交差する。
「きっとさー今日はこっちの気分じゃーー…あ゛ー~~」
 喜々とした声が一気に萎んでしまう。
 そんなゲイリーに顔を上げると。

「アズミ。ここに居たのか」

「‼ イ、イトウ‼」
 そこには股間にタオルを巻いたフロイの姿と。
 もう一人ーーフレディの姿があったが。
 彼の姿は安住には眼中になく。
「来てないのかと思った!」
「うぅん。来るに決まっているでしょ? 恋人が居るのにさ?」
 にこやかに言うフロイに、安住はお湯とは別の温度に顔を赤に染めた。
「っこ! ぃびと…!?」
 可愛くも硬直してしまった安住に。
「うん? 違うの?」
 意地悪くフロイも聞いた。
「僕の恋人は嫌?」
「! ぃ、嫌なんかじゃないよ!? うん!」
「そっか、よかった」
 顔を伏せて。
 口元を緩ませるフロイに、
「じゃあ! じゃあ! 二人っきりでどうぞ!」
 フレディは背中を押した。
「っちょ! っふ、ジェイソン?!」
 思いがけない行動に、フロイもフレディを睨んだ。
「っじゃ、邪魔者は他の浴槽に行くので」
 突然、背中に手を置かれたゲイリーも、思わず裏返った声を出してしまう。
「ぇ、え?! ぇええー~~??」
 戸惑いを隠せないゲイリーにフレディも、空気読もうね、とばかりに離そうとする。
「さ。行こうね? ゲイリー君」
 だが。
 それはゲイリーは分かっていても。
 容認したくもなく。
 思わず、当の安住に助けを漏らしてしまう。
「ゃ、えー?? アズミー~~??」
 安住も、あまりに強引なフレディに。
 フロイと、フレディの顔を交互に見た。
 --のだが。
「っちょ! え? 何?? え??」
 フロイとフレディはアイコンタクトで頷いた。
 当事者同士の利害の一致でもある。

 指先で→

 指先で←

 さらに指先で⇔

 何かの合図のように。
 安住とゲイリーも怪訝な顔しか出来なかった。

(アズミ? アズミー?? この囚人ひとたち怖ィ~~)
(いや。元はいい人っぽいよ? 気のせいじゃないの?)
(恋は盲目過ぎー~~‼)
(? よくその諺知ってるなァ!)

「関心するのそこじゃないぃー~~‼」

「「何が??」」

 にこやかに声を揃えて言う二人に。
「何がじゃないでしょうー?!」
 ゲイリーは指を振り回し、
「何を企んでるんだよー!」
 そう聞き返した。
「企むって、人聞きの悪い言い方だね」
 むっつりとフロイが吐き捨てる様子に、フレディも慌てて制止させた。
 低い口調のフロイはヤバいと知っているからだ。
「っちょ! まぁ! まァ! ね? っふ、イトウさん?!」
 顔を高速で横に振るフレディの耳元で。
 フロイが囁いた。
「--~~っつ!」
 それに、またしても。
 高速で縦に振るフレディ。
「っは、はいー~~ッッ‼」
 情けない様子の彼に。
 背中の手を払い退け。
「アズミー長いみたいだからー風呂に行こうー」
「ぁ、うん。そうだな」
 安住の腕を引っ張り行こうとするのを。
 フロイが止めさせた。

「…何ー? あのヒトとコントしてなよー」

 バッキぃイイーーッッ‼

「!?」

 勢いよくゲイリーの顔にフロイの怒りの鉄拳が見舞われてしまう。
 勢いそのままに彼の身体が、大理石の床を滑っっていった。

 ガッチン‼

 床にゲイリーの頭が当たった音が。
 響き渡り、
「っげ、ゲイリー?! イトウー~~ッッ‼」
 目の当たりにした安住が。
 目の前の暴行者フロイを強く睨みつけた。
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