何度でも、やさしい嘘にキスをしろ。【完全版】

ちさここはる

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EP:45 君を呼ぶ

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 薄暗い通路を安住は、暗視スコープゴーグルをつけているフロイと歩いていた。

(く、暗い…)

 他の囚人達の居る牢獄の前を通り。
 きょろきょろしながら。

 後ろからついて行く。

(ちょっと…歩くの、早いんじゃないのかなぁ~~)
 フロイの背中を、恨めし気に見ながら。
 歩幅を大きくして、ついて行く。

(少しぐらい、俺のことも考えてくれよなぁ)

 頬を膨らませる安住。
 そんな彼を横目に、フロイも。

(今。僕はアズミと歩いているんだ!)

 少し、口許が緩んでしまう。
 ほくほく、と微笑んでしまう。
 心の中でスキップもしてしまうほどに、フロイは喜び勇んでいた。

 ここから風呂場までは、少し距離がある。

(な、何か話した方がいいのかな?)
 突然のイベントに、フロイも戸惑いを隠せない。
(しかし。イズミとは違うし、性格も違うし…困ったな)
 無言で歩いて行くこと――数分間。
 まるで、一時間のように長く感じてしまった。

「着いたよ」

「あ。入っても…本当にいいのか?」
 上目遣いに安住がフロイに訊ねた。
「ああ。入りたい時に入ってもいいんだ。規約がないからな」
 素っ気なくも、フロイが安住に説明をした。
「ゆっくりと、浸かるがいい」
「うん。あ、あの…看守さんは、どこに居るんですか?」

 浸かった後のことが心配になった安住が、再度、フロイに訊ねる。

「…入り口に立っているさ。あの馬鹿が居なければ、何をするでもないからな」
 壁に身体を預けたフロイに、
「一緒に入らないんですか? 風呂…」
 安住も、誘うかのように言う。
 それにフロイの下半身も反応しかけてしまう。
「!? …ぁ、ああ。入り口に立っている」
 何とかそれを、理性で鎮めつつ。
「分かったら。行けよ、日本人アズミ
「あのータオル、とか。借りられませんか?」
「駕籠の中に入っている。それを使うんだ」

(銭湯みたいだな)

 軽く頷きながら、安住は入り口へと入って行った。

 フロイも、その様子を確認し。
 携帯を握った。

「おい。馬鹿」
『――…はァ? 急に手前から電話があって出てみれば嫌味かよ! っふ』

 ブチ。

「はァ。僕は何を…あの馬鹿に相談したところで…」

 ずる、ズル…ズルズル――……。

 壁からずり落ち、床に腰を据えた。
 携帯を口元に置き、額に上げる。
「アズミ…、アズミ…、アズミ…」
 呪文のように彼の名前を呼ぶ。

 カララ――……。

 ぴっしゃ!

「行った…のか」

 目を閉じ、行き慣れた銭湯を瞼の裏に思い起こす。
 同時に、股間も滾っていく。
 熱く、張っていく。
「アズミ…」
 フロイは股間に指を置き。
「…アズミ」
 立ち上がった。

 カチャ。

「今から、行くよ」

 暗視スコープゴーグルを外した。
 看守フロイではなく、囚人イトウとして。
 安住に、会いに行くことにしたからだ。

 ゆっくりと、首元からネクタイを外した。

「アズミ」
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