何度でも、やさしい嘘にキスをしろ。【完全版】

ちさここはる

文字の大きさ
上 下
26 / 148

EP:26 今の君に誓う

しおりを挟む
『ただ。あいつにゃあ、普通に接してやってくれ』

 ◇◆

 安住の中で、さっきまで一緒にいたラバーの声が、繰り返し響いていた。

 そして、牢獄に戻ると。

「あーアズミー」
「‼ ゲイリー! 起きたのか??」
「んーお腹空いたなーって目が覚めたんだけど―」

 ギシ! とベッドを軋ませて、安住が腰を乗り上げた。

 もともと、このベッドは安住のだが。

「身体がねーははは。動かないんだよねー痛いねー~~」

「なんで! なんだって! ゲイリーッ! お前はッッ‼」

 安住はほんわかと話すゲイリーに、声を荒げてしまう。
 胸が、目尻が――堪らなく、熱くて…痛い。

「そんなにもなってんのに! 俺を! 俺を‼」

 安住がゲイリーの胸元を掴んで、顔を寄せさせた。

「怒鳴れよ! 怒れよッッ!」

 ボロボロ。

 大量の涙が安住の頬を濡らしていく。

「頼むから…頼むからさぁ~~っつ…」

「んー~~でも。ボクはゲイだから、別にーアズミを怒鳴る理由はないよ?」
 
 そう言うと、ゲイリーは安住の額に額をひっつけた。

「ね? だから、アズミが苦しむ必要はないんだよー?」
 優しくゲイリーが、安住に語りかけるように言う。
「ね? アズミー」

 でも、しかしと余計に。

「っそんな、そんな…ぅ、うう」
「ね? アズミー」
「? な゛に゛?!」
 安住は憤りで、声も震えていた。

「笑って? アズミの笑った顔が好きなんだよ。ボクー」

「わら、ぅ?」

 ゲイリーは、安住の頬を濡らす涙を舌で舐めた。
「うん。そうだよーアズミが泣いた顔なんかー見たくないなー」

「ぞん゛な゛」

 そのとき。
 安住の脳裏に、ラバーが浮かんだ。

 ◆◇

『それが。せめてもの、償いになるってもんだ』

 ◇◆

 ぐぐぐ。

「うんうんーその顔が好きなんだよーボク」
「腹減ったんだっけ? あーもう、昼飯の時間じゃ――」

「はい。食べるかい?」

「「!?」」

 そんな二人に声をかけたのはライルだった。
 後ろには、舌打ちするラバーとアイジの姿もあった。
 ラバーの登場は分かるものの。

「なんだって。そんな一緒に??」

 安住の言葉に、
「えーだって。喧嘩の声がうっさかったんだもん! 寝てたってのにさw」
 ライルが包み紙を毛布の上に放った。
「ライルが来るって言うから、オレも来たんだ。飲み物持って来たよ、ライルはパンし――」
日本人アズミ?? キサマは一回、シメられてェのかい?」
 ゴメスの言葉を遮って、ラバーが低い口調で、安住に言った。

 ぶん!

 ぶぶん‼

「わー~~っつ、たたたぁ~~」

 上半身を上げ、小さく悲鳴を漏らすゲイリーに、
「おいおい。いいから寝てやがれ、ゲイリー」
 ラバーが制止させるも。
「ううんーありがとーババさんー~~」
「‼ っよ、よせやい…っち」
「へへへー~~」

「ほらよ」

 ラバーはゲイリーの手に小さな箱を置いた。
 そこには《薄いコンドーム》の文字があった。

「病気は怖いしな。相手だって、少しゃ、…ま。つけてもらうに越したことはねぇ」

「? あー~~へー? ゴムって、こんな箱に入っているんだー~~?」
「「「!?」」」
「ボク。女の人とのSEXだけにつけると思ってたー」

「「「‼」」」

 さすがにコンドームを知っている安住も絶句してしまう。

「っほ、本当に…経験、なかったのか?? ゲイリー、さん????」

「そういう雰囲気になる前にーみんな逮捕とか、死んじゃったりしたからー」

 ばっこん!

「った!」

 安住の脳天を、険しい表情をしたラバーが拳で殴った。

「日本人ッッ‼ いい加減にしねェか!」

「っふぁ、ふぁい‼」
 そんなやり取りをする2人に、
「なんか仲良くなってるーいつの間にー?? ははは」
 ゲイリーが微笑んだ。
 その顔に。

(俺も、強くなんなきゃ。ゲイリーを守れるぐらいに!)

 安住は強く想った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

男は休憩も許されぬ身体を独房の中でくねらせる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?

ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。 ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。 そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

処理中です...