何度でも、やさしい嘘にキスをしろ。【完全版】

ちさここはる

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EP:25 過去から今の君に

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「おい。日本人アズミ
「っふぁ、ふぁい!」

 前を歩くラバーの後ろで安住は身体を縮めこんでいた。

 そんな、安住に振り向くことなく。

 ラバーが話しかけて来たことに、
「ななな、なんでしょうか?!」
 安住も、声を裏返させながら、聞き返した。
「…私はゲイリーたぁ、顔なじみなんだぜぃ」

「!?」

 突然のラバーの言葉に安住はポカンとしてしまう。
 いきなり、だったこともあったが。

「え? ぇええ??」

「何。素っ頓狂な声を上げやがんだ。警備員の野郎どもの目も気にしろぃ」
「‼ …すいま、せん…」
 じわ、と安住の視界が揺れた。
(俺。殺されちゃうんだ)

 じわわー~~…。

(こんな監獄とこに和泉の身代わりにさせられて)

 ごし。

 袖口で目を拭い安住。
「だから! 周りの目を気にしろってんだよ! 日本人!」
「‼ っふぁ、ふぁい~~ぅああぅう゛う゛~~」
 ついには、目が決壊してしまい、大量の涙が噴き出てしまう。

「ぅ、う゛う゛!」
「貴様!」

 苛立った口調でラバーが首元に手をやり、襟を掴んだ。

「泣きてェのなぁ! あいつなんだよォ‼」

 ラバーの表情が、少し――泣きそうで。
 安住も、力なく頷いた。

「はい。……ですよね」
「たりめぇだろうが! っふん!」

 乱暴な手つきで、安住の襟口から手を離すとラバーは、また歩き始めた。

 ◆

「ここなら。大丈夫だ」

 そこは外の柵前。
 少し、視界が遮っている場所でラバーが本を読む場所でもある。
 つまりは。
 プライベートを楽しむところということだ。

「いい姿勢だな」

 コンクリートの上に正座をする安住を、ラバーが見下ろした。

 そして。彼も腰を据える。
 手に持っていた本を開いて安住に指示をする。

「誰もかしこまれなんざ、言ってねェや。楽にしろよ」
「は、はい」

 体育座りをし、顔を埋める安住。
 その姿勢にラバーも眉間にしわを寄せて苦笑をした。

「陰険な野郎だなぁ」

 鼻先で一蹴しながら安住に吐き出した。

「ったく。そんなんじゃ、キサマを守ったあいつも、浮かばれねェってもんだ」
「! …ゲイリー…」
「おいおい。止せやい。貴様が泣いたところで、あったことは変わらねェんだよ」
 安住を見ることなく、本のページをめくっていく。
「顔見知りってのは。あいつの親父だ。私の家族ファミリーだからな」
「! っそ、そうなんですか!?」
「ああ。アイツも小さいころ何度か来やがった。危ないってのによォ」

 ◆◇

『ババさん! ババさん!』

 ◇◆

「まさか。そんなアイツも、こんな監獄に来るたぁ。驚いたがな」
 ふと、ラバーが目を閉じた、
「本当に。昔から、あの人懐っこい笑顔が変わらねェってのは」
 昔を思い出してか口端が吊り上がる。

「っふ。因果からは逃げられねェ運命もんなんだろうなぁ」

 寂しそうにラバーが、小さく漏らした。
「よく俺には分かんないですけど。少なくても、ラバーさんが居たから…」
 安住が思ったことを率直にラバーへと口にする。
 それにはラバーも首を捻った。
「? なんだってんだい」

「ゲイリーは安心しているんだと、思います」

「止せやい…私は。アイツのために何も、してやれなかったんだぜい」

「それは。俺もですから。むしろ、俺のせいで…ゲイリーが…」
 安住も、きつく目を閉じた。
「ゲイリーが…看守たちに…」

「まぁな。こんな監獄ってのは、そういうはけ口の場所でもあるし、仕方ねェよ」
「いや、でも…――はい」

「でだ。話しってのはだな」

 ごきゅ。

「は、はい!」
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