何度でも、やさしい嘘にキスをしろ。【完全版】

ちさここはる

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EP:4 海上の要塞の憂鬱

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 カツン、カツン――……。

 暗闇の中で、看守たちの足音が響き渡る。

「あー疲れた」

「セスナさんは、いつも、それですよね」
 セスナ=ボンゾイを2つ年下の看守にして同期のフレディ=ジェイソンがため息を吐く。
「お! おいおい? フレディちゃ~ん?」
 セスナはフレディの首に、腕を伸ばし締めつけた。

「いつから、俺様にそんなタメ口を聞くようになったのかなぁ~??」

「っぎゃ!   ゃ、止めて下さいよ~‼︎」
 そんな2人に、横やりを入れる人物がいた。
「何に疲れるんだよ。いつも、ヤりたい放題やっているくせに」
 フロイ=トゥパー看守だ。
 勿論、セスナとフレディとは同期。
 セスナとは、1歳違いの26歳。

 煩悩のまま動く、セスナ=ボンゾイ。
 人懐っこく、気を使い過ぎ、お人好しと言われるフレディ=J。

 そして、そんな2人とは対象的に。

 無感情、無愛想、不器用。
 悪魔のフロイ=トゥパー。

「フロイぃ! 俺様に当たるんじゃねぇよ!」

 セスナの可憐な顔が、怒りにより凄まれた。
 世間の見た目とは違い、セスナこそ悪魔だった。
 夜勤同期メンツを動かし、夜な夜な、囚人をいたぶっているからだ。
 それに、同期の2人は巻き込まれている形に過ぎず。
 セスナを、放っておくのは危険だというのも、2人の頭にあり、お目付け役として一緒に、つるむようになっていたからだ。

「…当たってなんか、いない」

 フロイは暗視ゴーグルスコープに手を添え、ため息を吐いた。

(アズミ。一体、どこの刑務所に…)

 暗視ゴーグルスコープを着けることには理由がある。
 勿論、顔を見せないようにすることでもあったが、真っ暗の消灯後に、襲う獲物を見るためだ。

「そういや。今日、新しい肉便器が来たな」

 セスナが言うと、フレディも。

「…囚人は皆、肉便器ですか? セスナさんにとって」
 呆れ声を漏らした。
「はぁ?! 当たり前じゃねぇかよ!」
「…当たり前って…」

「ここに来んのは人間の屑。肉便器になんのは当然だろうが。どうせ、肉塊死刑になるんだからな」

 嬉々としてセスナが言うと、フロイが聞き返した。

「2人だったか?」
「ああ。2人だったな。確か。だよな?  フレディ」

「ええ。2人ですね」

 その言葉に、セスナがフレディに聞いた。
「ここの近くの檻か?」
 フレディは胸ポケットから、手帳を取り出した。

「ええ。そう、です…ね?!」

 確認したフレディの声の語尾が弱くしぼむ。
 それにセスナとフロイが、怪訝な顔をする。

(ま、さか…嘘、だろ??)

 フレディは、ただ、手帳を指でなぞりながら。
 何度も、その名前を確認していた。

 そして。

 指先は微かに震えていた。
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