何度でも、やさしい嘘にキスをしろ。【完全版】

ちさここはる

文字の大きさ
上 下
1 / 148

EP:1 ピザと恋の熱

しおりを挟む
「遅いな」

 フロイ=トゥーパーが携帯で時間を確認して、不機嫌に言葉を漏らした。
 苛々とした険しい表情をしている。
 そして室内を徘徊して灰色の跳ねた前髪を、指先でくるんで掻き乱し、
「2時間! もう、2時間だぞ?!」
 大きく口を開けて吠えた。
 細い目が怒りに、さらに細くなる。

 ミシ…。

 握っている携帯から軋む音が鳴る。
 右頬にある、二つのほくろも揺れ動く。

(殺す…)

 落ち着こうと冷蔵庫から、ジュースのパックを取り出した。

 その瞬間。

 ピンポーン!

「?! 来た‼︎」

 ピンポーン‼︎

「クソ野郎が!」

 ドルを握り締め、フロイが玄関に駆け出した。
「おい!   君は…ッッ‼︎」

「っは、はい! す、すいませんでしたぁ‼︎」

 三白眼で、毛先の堅そうな黒い髪の毛。
 肌も、日に焼けた健康的な褐色肌で。
 体型はフロイ自身よりも、やや細いが至って普通体型の配達員の青年が涙目で立っていた。
 両手には大きくも四角い箱を持っている。

 身長はフロイの方が、頭4個分、高い。

「お、俺…ば、バイト、初めて、で…その…」

 俯く少年に、怒りが削がれたフロイは、
「君。英語、下手くそだね。アジアの…日本人かい?」
「!  に、日本人、です」

「アズミ。て、名前なのかい?」

 フロイは、彼の胸のプレイを指した。
「はい。安住、です。藤丸安住フジマルアズミ
地区ここの担当?」
「? あ、はい。一応、ですが。そうです…」
 
 苦笑交じりに言う安住に、フロイは鼻先に指をやった。

「僕はピザが堪らなく愛しいんだ」

 フロイは、さらに続けた。

「仕事の休暇中での唯一のピザタイムなんだよ」

「は、はい…」

 安住はフロイにピザの箱を手渡した。
 その箱には、《トータル・トートピザ》と書いてある。

「すいません、でした」
「二度と遅刻しないでくれないか」

「はい」

 ここのピザしかフロイは食べない。
 冷めてしまっているがピザの香ばしい匂いに。

 ついフロイの表情が、緩んでしまう。

 それに安住の表情も、一緒に緩んでしまう。

「何??」
「ぃ、いえ!」

「釣りは要らないよっ!」

 フロイは安住に支払いを済ませ、安住もお辞儀をし身体を翻した。

 咄嗟まさかだった。

「??   ぉ、客…さん??」

 フロイの手が、安住の腕を掴んでいた。
「??? 」
 ただ、掴んだ本人も、してしまったことを、理解出来ずにいる。

「腕が、…痛いです」
「僕は暫く、休暇で居るんだ。ずっと担当なの?」

 真剣な表情。
 安住も携帯を取り出した。

「はい。ぁ、っと…俺が休みの日。教えましょう、か?」

 自身が配達の日は。
 避けたいのだろうと、思ったからだ。

「ああ。教えて貰おうか」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

男は休憩も許されぬ身体を独房の中でくねらせる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...