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#24 おにねーちゃん騎士くん、の実母の働きかけ

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 アララギ=アファガードが【薬師専攻グレイアプ魔法学校】に入学するにあたり、本人の知らないところで働きかける影があった。

 1 魔女 ジーナ=リッチ

(何。薬師の資格が欲しいってのかい)

 なんやかんやと手放した息子を遠くから見守る彼女は息子アララギの頑固たる決意に感銘をし、

(ならば。母がここでなら伸び伸びと然り、きちんと教育が受けられる環境を作ってやろうじゃねぇか)

 自身の息がかかる魔女や噂や薬師魔法学校をあらゆる手段で調べた。
 それは彼女にとっては造作もなく、アララギがのほほんと行動のこの字も始まる前に数校と見定めた。

 1校目 名門薬師専攻デロウ魔法学校 

   ※魔女のみが入学できる 
   ※制服  ※短期/長期の両方の手厚い教育機関 
   ※入学費/授業料が高額
   ※教員の全員が名家の魔女(家族、親族もいる)
   ※寄宿舎生活
   ※国が経営

 2校目 薬師専攻ヴャゼワ魔法学校
 
   ※魔女の家系のみの入学が許可される(魔法使いの入学も可能)
   ※制服
   ※短期/長期の両方の手厚い教育機関
   ※入学費/学費が高額
   ※教員の半分が魔女、もう半分は薬師の権威や他分野の魔法使い
   ※寄宿舎生活
   ※国が経営

 3校目 薬師専攻グレイアプ魔法学校
   ※魔女の家系、魔力のある魔法使い家系のみが入学を許可される
   ※制服
   ※短期/長期の両方の手厚い教育機関
   ※入学費/学費が割安(条件を満たした学生のみ無料)
   ※教員の全員が種属が異なる魔女家系や魔法使い、多分野における権威の教員を招き薬師以外の授業も行う      
   ※寄宿舎生活
   ※個人経営/国からの出資金

「さぁて? この3校に絞ろう」

 どれにしょうとはいうものの。ジーナの中ではもう決まってしまっていた。選択の余地もないなからだ。
 問題はアララギの出生。
 アララギの戸籍上の家族が人間であることもネックである。
 それを学校に直談判を行えば入学は可能だろうが、校長がジーナを知らなければ無理である。受け入れは不可能だ。

「ま。3校目だな」

 薬師専攻グレイアプ魔法学校の校長とは古くからの顔馴染だ。
 それこそ色々とやらかす前からの付き合いでもある。

「あらあら。ご存命でしたの、魔女ジーナ」

「久しぶりの言葉がそれかよ」

 ミクレシア・グレイアプ校長。
 彼女はジーナの前では冷徹だが。内心は大変と大喜びだ。

 しかしすぐに耳を疑うこととなる。

「は?」

「だからな? 俺の子どもを入学させて欲しいんだ」
「え?」
「子どもだよ。子ども。聞こえないのか?」
「え? ええ??」
「なんつぅか。産んだ」

「……ンんん????」

 混乱するミクレシアを他所にジーナは話しを嫌々と身の内の話しを続けていく。

「あ。なぁ、座ってもいいか?」
「ぇ、……ええ! もちろんですわ! どうぞどうぞ!」

 心臓が大きく高鳴った。状況が見えないのだが消息不明だった彼女が自身の前に現れ、お願いをしに来たとあっては喜ばない魔女など居るはずがない。しかも、彼女の誰も知らないであろう秘密さえも知ってしまったのだから、堪ったものではない。

 良くも悪くも。

 興奮をしている。

(鼻血が出そうですわ)
「っそ、それで。あの、お子様は……」

「今は、ぇえっと? 23か24歳の成人の男だ。《人類ヒューマタルト》が父親だ」
「……成人の男性、しかも《人類》ですの」
「ああ。だが、中身は《女》なんだ。最近、結婚をして嫁もいる」

 情報量の多さにミクレシアの頭が横に曲がっていく。

「嫁が薬師を生業をしているんだ。それで仕事を手伝いたい、と資格の取れる学校と入学の可能な先を探していたところ、この学校に白羽の矢が刺さったってこったよ。ま、俺がなw」

 事実と嘘を織り交ぜてジーナがにこやかに言う。

「それでさぁ。ここの入学の許可が欲しい訳さ!」
「いや。でも、しかしです。彼は、……人類ヒューマタルトでは? 《円人類ウロボロタルト》でもなく魔力もない子の入学なんか認めていません。恐らく、どの学校からも言われるでしょう。無理だと」

 ミクレシアが核心を突く。

「申し訳ありませんが。生憎と魔法が使えないようであれば、入学の許可はお出し出来ません。当然のことながらです」

「あいつは魔法を使えるよ」

 ジーナがため息交じりに応えた。

「俺の目はあいつが産まれたとき目が合って潰されちまってよー義眼よ? 左目が」

「は? どういう――……」
「出産した後すぐに子どもから攻撃を受けたのさ。俺も初めての出産で油断したってのもあるが。まさか産んだ子どもに攻撃なんかされるなんて、どこの誰も母親って生き物は思いもしないだろう? どうだ、ミクレシア校長ちゃんは」

 ミクレシアは組んでいた足を組み返した。

「産んだことなんかないので分かりかねます」

 少しつんっと言い返した彼女に、
「悪い悪い」
 と口にするが悪びれることなくジーナがほくそくんだ。

「目が合った瞬間。左目が破裂しやがって、ぅんだから。産声なんかが怖くてさ、すぐに声を封じたよ。14歳までな。その14歳のときに育ての母親を殺した。もちろん。それは俺の魔法の副作用でもあるが心臓麻痺だ。あいつの目の前でな。俺は初めて魔法で後悔をしたよ。あの育ての母親はいい女だったから。何の悪いことなんかしてない相手が巻き込まれて死んでしまったと分かっている以上――辛い」

 前に身体を倒してジーナは身体を丸める仕種をした。
 弱々しい彼女の態度にミクレシアも、きゅんと胸を高鳴らせた。

「ジーナ」

 ミクレシアの中の天秤が《入学》と《拒否》の間で大きく揺らぐ。

 ◇

 さてどうしたものでしょう。
 あの魔女ジーナからの頼みとはいえ、相手は《人類》さらには《男性》です。魔法も本当に使えるのかどうかも怪しいものです。 学校はほぼ女性とのみとなっています。そこに23歳か24歳かもしれない男性を野放しなんかする真似が出来ましょうか。万が一にも、心が《女》であれ身体が《男》である以上、なんら間違いなんか起きた場合、目も当てられませんし。しかも、その事態の尻ぬぐいや責任なんかも私が負うのです。
 ああ、嫌だ。なんてことでしょう!

 でもです。あの魔女ジーナの血筋の子ども。興味なくもないです。
 既婚者だというのであれば、万が一の間違いも起きないかもしれません。

《男》だということも《女》であることを通して頂ければ何ら無事に卒業までいくかもしれません。よね?

 そこは約束をさせればなんとかなるかもしれません。あと気になるのは、魔女ジーナが学校を自ら選んだという点。まさかとは思いますが。子どもは行こうとしているけど、まだ決めてなんかいないということなのかもしれません。ここで私が完全に拒否をしてしまえば。他の学校に迷惑がかかるのは明らかではないかしら?

 内情を知ってしまった私も、今のこの動揺状態です。
 しかしです。ここで魔女ジーナに恩を売っておけば何かしろの見返しもあるはず。

 ならここは《女》として息子さんを預かるに越したことはないのでしょう!

 ◆

「分かりました。いいでしょう、息子さ――娘さんをお預かりしましょう」

「! ミクレシア校長っ!」

「では。改めて娘さんのお名前や情報を教えて下さい」

「ああ。分かった」

 名前 アララギ=アフォガード 年齢 23~24歳 

 父親:《人類》 ウイリアム=アダムス=ダ・カポネ 

 兄:長男《人類》 ジョイ=アンディ=ダ・カポネ 
 弟:三男《妖精王》 サンドロ=ゾロ=ダ・カポネ 

 妻:《円人類》 魔女アヌ
 同居人:《人類》 アデル

 14歳で実家より勘当 20歳 騎士団入隊 
 24歳 騎士団除隊 国外追放

「ダ・カポネって! あのダ・カポネですかかかかか?? っな、なななな‼」

「そりゃあ。実の父親のところに丁度良く子どもが産まれたと聞けば、事情を説明をして一緒に育ててもらえればいいじゃんか。そう思わないか??」
 ジーナの力説にミクレシアも言葉を失う。
 魔法使いも人間界の情報はよく耳にする。

 ダ・カポネもそうだ。
 暗殺一家。闇の中でピカイチの腕前。

《人類》は当然のことながら《円人類》をも噛み殺すと訊く。
 野蛮な一家。
 その一家の次男とあれば――恐怖の対象でしかない。

(やややや厄介ですっ! やややややはり、入学の許可はででで)

 ミクレシアはジーナへと顔を伺う。

「さて。じゃあ、どうやってここの入学の許可通知を坊やに教えたらいいかな」

 喜々と次の行動を口にしているジーナに、ミクレシアも「ぎゃふん」と言葉を飲み込んでしまう。
 嘘ですなんて言葉を、今更と魔女ジーナに言えるだろうか。
 どんな目に遭わされるか分かったものでもない。

 軽率に言ってしまった自身の安直なメリットのようなものに、眼が眩んでしまったことを呪うしかない。  
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