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最終章 新しい「疲れたら此処へ来て」
#62
しおりを挟む「子供をいじめるとは感心しないな」
首のあたりをさすっているシャムの背後からハスキーな女性の響く声が聞こえた。階段の下から淡い藤色の和服姿に金髪のショートカットのアイシャとほぼ同じくらい、180cmは軽く超える長身の女性が現れた。シャムはそのまま金髪の美女の膝元にまとわり着いて嘘泣きを始める。
「シュバーキナの姐御……」
かなめは金髪の美女にそう言うと、シャムを捕まえようと伸ばしかけた手を止めて、頬を引きつらせながら自分の席に戻っていく。
「マリア、かなめちゃんたらひどいんだよ」
「まあ気にするな私が付いている……」
そう言って部屋に踏み出そうと言う金髪の女性に誠は自然と敬礼していた。
「なんだ……隊長。紹介してくれていたんですか?」
「いんや……そう言えば忘れてたな」
嵯峨は猪口を傾けながら首を振る。
「ああ、私はマリア・シュバーキナ。階級は大尉だ。一応司法局実働部隊の警備部長を拝命している」
「警備部長ですか……」
「オメエが来た時に警備していたたるんでた連中の上官だ。うちの部隊の主に歩兵部隊の隊長ってわけだ」
かなめの言葉で目の前の女性がいかなる立場か誠はようやく把握した。カウラと同じ大尉と言っても少佐に昇格する直前の先任大尉なのだろう。着物の襟もとを直す姿も落ち着いて感じられた。敬礼を続ける誠に軽く笑顔を向けた後、マリアはそのまま嵯峨の座っているテーブルに着いた。
「まったくあの娘(こ)達は……規律ってものが無いのかしらね」
マリアが出てきた下から登る階段に鋭い声が響いた。そこに立っていたのはアジア系とわかる目つきの鋭いマリアと同じくらいの30代後半の女性だった。彼女はいかにもめんどくさそうにその鋭い目つきで嵯峨を睨み付ける。それまでカウラやマリアの眼光にもひるまなかった嵯峨も、彼女の眼には何か思うところがあるようでひるんだように目をそらした。
「もう本当にいつものことながら……こんな役回りばかりで疲れるわ。カウラ。もう少し隊長として自覚もって行動してもらわないと……それと隊長。つまらないディスク配ってまわって面白がる趣味は感心しませんよ」
淡い水色のワイシャツに紺のタイトスカート姿にさわやかさを感じている誠を前に、目つきの鋭い女性はそのまま誠の隣をすり抜けて嵯峨の隣の席に座った。
「神前君。何してるの……って私の自己紹介がまだだったわね。私は許(きょ)明華(めいか)。階級は大佐よ。一応実働部隊の技術関係の部長……まあ技術関係の統括責任者ってところね……それにしても……」
明華が嵯峨をにらみつける。嵯峨は悪びれる様子もなく、にぎやかな彼の部下達の豊かな表情に満足そうに笑顔を浮かべるお春が注ぐ酒に淡々と杯を重ねていた。
「おっ。面子もそろったか。アタシも腰を落ち着かせようかね」
続けて入ってきた小さな影。クバルカ・ラン中佐は当然というように嵯峨のテーブルの隣に明華とともに座った。誠にはその小学生じみた体型が上座を占めるさまについ苦笑いを浮かべていた。
「おい、新入り。言いたいことがあれば言えよ」
「そんな……僕は何も……」
「まあしょうがないんじゃない?ランはどう見ても子供だから。まあ酒は結構強いから安心していいわよ」
「アタシはそれほど強くねーよ」
「まあ謙遜しちゃって」
明華とやり取りするランはそう言うと嵯峨の差し出した猪口を受け取た。
首のあたりをさすっているシャムの背後からハスキーな女性の響く声が聞こえた。階段の下から淡い藤色の和服姿に金髪のショートカットのアイシャとほぼ同じくらい、180cmは軽く超える長身の女性が現れた。シャムはそのまま金髪の美女の膝元にまとわり着いて嘘泣きを始める。
「シュバーキナの姐御……」
かなめは金髪の美女にそう言うと、シャムを捕まえようと伸ばしかけた手を止めて、頬を引きつらせながら自分の席に戻っていく。
「マリア、かなめちゃんたらひどいんだよ」
「まあ気にするな私が付いている……」
そう言って部屋に踏み出そうと言う金髪の女性に誠は自然と敬礼していた。
「なんだ……隊長。紹介してくれていたんですか?」
「いんや……そう言えば忘れてたな」
嵯峨は猪口を傾けながら首を振る。
「ああ、私はマリア・シュバーキナ。階級は大尉だ。一応司法局実働部隊の警備部長を拝命している」
「警備部長ですか……」
「オメエが来た時に警備していたたるんでた連中の上官だ。うちの部隊の主に歩兵部隊の隊長ってわけだ」
かなめの言葉で目の前の女性がいかなる立場か誠はようやく把握した。カウラと同じ大尉と言っても少佐に昇格する直前の先任大尉なのだろう。着物の襟もとを直す姿も落ち着いて感じられた。敬礼を続ける誠に軽く笑顔を向けた後、マリアはそのまま嵯峨の座っているテーブルに着いた。
「まったくあの娘(こ)達は……規律ってものが無いのかしらね」
マリアが出てきた下から登る階段に鋭い声が響いた。そこに立っていたのはアジア系とわかる目つきの鋭いマリアと同じくらいの30代後半の女性だった。彼女はいかにもめんどくさそうにその鋭い目つきで嵯峨を睨み付ける。それまでカウラやマリアの眼光にもひるまなかった嵯峨も、彼女の眼には何か思うところがあるようでひるんだように目をそらした。
「もう本当にいつものことながら……こんな役回りばかりで疲れるわ。カウラ。もう少し隊長として自覚もって行動してもらわないと……それと隊長。つまらないディスク配ってまわって面白がる趣味は感心しませんよ」
淡い水色のワイシャツに紺のタイトスカート姿にさわやかさを感じている誠を前に、目つきの鋭い女性はそのまま誠の隣をすり抜けて嵯峨の隣の席に座った。
「神前君。何してるの……って私の自己紹介がまだだったわね。私は許(きょ)明華(めいか)。階級は大佐よ。一応実働部隊の技術関係の部長……まあ技術関係の統括責任者ってところね……それにしても……」
明華が嵯峨をにらみつける。嵯峨は悪びれる様子もなく、にぎやかな彼の部下達の豊かな表情に満足そうに笑顔を浮かべるお春が注ぐ酒に淡々と杯を重ねていた。
「おっ。面子もそろったか。アタシも腰を落ち着かせようかね」
続けて入ってきた小さな影。クバルカ・ラン中佐は当然というように嵯峨のテーブルの隣に明華とともに座った。誠にはその小学生じみた体型が上座を占めるさまについ苦笑いを浮かべていた。
「おい、新入り。言いたいことがあれば言えよ」
「そんな……僕は何も……」
「まあしょうがないんじゃない?ランはどう見ても子供だから。まあ酒は結構強いから安心していいわよ」
「アタシはそれほど強くねーよ」
「まあ謙遜しちゃって」
明華とやり取りするランはそう言うと嵯峨の差し出した猪口を受け取た。
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