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最終章 再び動き出した時間
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バレーボールの試合がこんなに楽しかったのはいつぶりだろう。試合結果は、残念ながら以前と同じ準優勝だったけれど、僕らは僕らの持つ全力をリライズにぶつける事ができた。永井さんも今村も坂本も、他のチームメイトも満足そうな表情で優勝したリライズを拍手で称えている。表彰式が終わり、今回の大会からMVPとして最も輝いていた選手が一人だけ選ばれるとのことで、何と僕がその一人に選ばれた。いや、選ばれてしまった。会場のアナウンスで全員が初めて聞いたようで、僕ら選手や観客席にいるギャラリーも驚きが隠せないようにどよめいていた。その中で僕は名前を呼ばれ促されるまま表彰台に立ち、この県のバレーボール連盟の会長をされている真柴さんという人から首にメダルをかけられてから表彰状をいただいた。
「おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
賞状やメダルなんて高校生の時にもらった以来だ。鳴り止まない拍手のなか、僕は控えめに頭をペコペコさせてそれに応えた。
「森内くん」
「え?はい」
賞状をくれた真柴さんが僕の肩を軽く叩きながら僕に微笑んだ。人を見上げるのも久々だったけれど、この人の目線は異様に高く見えた。
「君さえ良ければ一回ウチのチームの練習に来てみないかい?今日の試合での君の姿を見て確信した。僕のチームに君が必要だと」
「え、え?」
「また近いうちに返事を聞かせてくれ。君のよく知っている人がそのうち話しかけてくれるだろうから。さ、チームの所へ」
僕は真柴さんとの話が見えないまま元にいた場所まで戻った。その後、真柴さんが閉会宣言をしてから今回の大会は幕を閉じた。僕はさっき言われたことを気にしながら観客席へ戻ろうと歩いていた。
「タクヤ!」
不意に呼ばれた方を振り向くと、元チームメイトのリライズのメンバーが僕の方をまじまじと見つめていた。僕を呼んだのはおそらく満面の笑みを浮かべる小林だろう。
「一緒に写真撮らね?久々に」
「お、おぉ。いいよ。久々だね」
「そうこなくちゃ!こっちこっち!」
僕は小林や上田、中村と手を伸ばせば体が触れる距離にまで迎えられた。久しぶりすぎるその距離に、なんだか恥ずかしくなって顔が熱くなった。
「何かこうやって撮るの久々だな!本当に十年ぐらいぶりか?」
「いや、七年かな」
「相変わらず真面目な返しするなぁ!タクヤは!」
へへへと笑う上田の顔は、近くで見ると高校生の時よりも鼻の下の髭が濃くなっていた。
「お前、ちゃっかりMVP獲って目立ちやがって。何で準優勝チームのやつが選ばれるんだよ」
「はは。それはおれが聞きたいよ。何で選ばれたんだろうね」
「俺はマジでトスワークもトスのクオリティも次元が違うと思ったけどな。タクヤは今のチーム以外でもバレーやってんのか?」
一つ年上の元チームメイトの前田さんもそう言って僕の方を見た。この人は相変わらず身長も顔もでかい。
「いや、スマイリーズだけっすね。あとはもうホントに自主的にトレーニングしてるだけで」
「マジかよ、それであんだけ綺麗なトス上がるもんなのか。ぶっちゃけ高校生の時より技術上がってね?」
「そうっすかね?喜んでいいんすか?」
「いや褒めてんだから素直に喜べよ!」
「前田さんは顔怖いから褒めてんのか怒ってんのか分かんないよ」
小林が笑いながら前田さんの肩を叩いた。
「あ、でももしかしたらスマイリーズもそろそろ抜けちゃうかもしれないです」
「え?バレー辞めちゃうのか?」
「いや、辞めないっすよ。実は」
「じゃあそろそろ撮るぞ」
リライズの監督さんの声かけによって僕らの会話は遮られた。
「前田さん」
「ん?」
「いつかまた、こうやってみんなで写真撮りたいです。おれ」
僕とリライズのメンバーが同じポーズをとった。小林のスマホから送られてきたその写真を見た僕は、まるでタイムスリップしたかのように高校生の頃の自分に戻った気がした。僕はその写真をいつまでも大切にしようと決めた。
バレーボールの試合がこんなに楽しかったのはいつぶりだろう。試合結果は、残念ながら以前と同じ準優勝だったけれど、僕らは僕らの持つ全力をリライズにぶつける事ができた。永井さんも今村も坂本も、他のチームメイトも満足そうな表情で優勝したリライズを拍手で称えている。表彰式が終わり、今回の大会からMVPとして最も輝いていた選手が一人だけ選ばれるとのことで、何と僕がその一人に選ばれた。いや、選ばれてしまった。会場のアナウンスで全員が初めて聞いたようで、僕ら選手や観客席にいるギャラリーも驚きが隠せないようにどよめいていた。その中で僕は名前を呼ばれ促されるまま表彰台に立ち、この県のバレーボール連盟の会長をされている真柴さんという人から首にメダルをかけられてから表彰状をいただいた。
「おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
賞状やメダルなんて高校生の時にもらった以来だ。鳴り止まない拍手のなか、僕は控えめに頭をペコペコさせてそれに応えた。
「森内くん」
「え?はい」
賞状をくれた真柴さんが僕の肩を軽く叩きながら僕に微笑んだ。人を見上げるのも久々だったけれど、この人の目線は異様に高く見えた。
「君さえ良ければ一回ウチのチームの練習に来てみないかい?今日の試合での君の姿を見て確信した。僕のチームに君が必要だと」
「え、え?」
「また近いうちに返事を聞かせてくれ。君のよく知っている人がそのうち話しかけてくれるだろうから。さ、チームの所へ」
僕は真柴さんとの話が見えないまま元にいた場所まで戻った。その後、真柴さんが閉会宣言をしてから今回の大会は幕を閉じた。僕はさっき言われたことを気にしながら観客席へ戻ろうと歩いていた。
「タクヤ!」
不意に呼ばれた方を振り向くと、元チームメイトのリライズのメンバーが僕の方をまじまじと見つめていた。僕を呼んだのはおそらく満面の笑みを浮かべる小林だろう。
「一緒に写真撮らね?久々に」
「お、おぉ。いいよ。久々だね」
「そうこなくちゃ!こっちこっち!」
僕は小林や上田、中村と手を伸ばせば体が触れる距離にまで迎えられた。久しぶりすぎるその距離に、なんだか恥ずかしくなって顔が熱くなった。
「何かこうやって撮るの久々だな!本当に十年ぐらいぶりか?」
「いや、七年かな」
「相変わらず真面目な返しするなぁ!タクヤは!」
へへへと笑う上田の顔は、近くで見ると高校生の時よりも鼻の下の髭が濃くなっていた。
「お前、ちゃっかりMVP獲って目立ちやがって。何で準優勝チームのやつが選ばれるんだよ」
「はは。それはおれが聞きたいよ。何で選ばれたんだろうね」
「俺はマジでトスワークもトスのクオリティも次元が違うと思ったけどな。タクヤは今のチーム以外でもバレーやってんのか?」
一つ年上の元チームメイトの前田さんもそう言って僕の方を見た。この人は相変わらず身長も顔もでかい。
「いや、スマイリーズだけっすね。あとはもうホントに自主的にトレーニングしてるだけで」
「マジかよ、それであんだけ綺麗なトス上がるもんなのか。ぶっちゃけ高校生の時より技術上がってね?」
「そうっすかね?喜んでいいんすか?」
「いや褒めてんだから素直に喜べよ!」
「前田さんは顔怖いから褒めてんのか怒ってんのか分かんないよ」
小林が笑いながら前田さんの肩を叩いた。
「あ、でももしかしたらスマイリーズもそろそろ抜けちゃうかもしれないです」
「え?バレー辞めちゃうのか?」
「いや、辞めないっすよ。実は」
「じゃあそろそろ撮るぞ」
リライズの監督さんの声かけによって僕らの会話は遮られた。
「前田さん」
「ん?」
「いつかまた、こうやってみんなで写真撮りたいです。おれ」
僕とリライズのメンバーが同じポーズをとった。小林のスマホから送られてきたその写真を見た僕は、まるでタイムスリップしたかのように高校生の頃の自分に戻った気がした。僕はその写真をいつまでも大切にしようと決めた。
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