「青春」という名の宝物

やまとゆう

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第1章  あの頃と今

7.

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 「変わらないね、みんな!」

僕らを一通り見渡して笑う彼女の笑顔は、僕の体を一瞬にして熱くさせた。満天の星空がそこにあるかのように輝く瞳、冗談抜きで僕の半分くらいしかないような肩幅と腰回り。魅力的だった胸はタイトな服を着ていることもあり、昔よりもまた大きくなっている気がする(昔は見るのが恥ずかしすぎて直視出来なかったので記憶は曖昧)。昔はショートヘアだったが、今は肩ぐらいまで伸びていて、程よくパーマがかかってふわっとした髪の毛が彼女の魅力を何倍にもしている。文字通り彼女に釘付けにされた僕の視線に気づいたのか、彼女が僕の方を向きそうだったので慌てて僕は目を逸らして枝豆に手をつけた。

 「ユカリ!来てくれたんだな!返事が無かったからもう来ないもんかと思ったよ」

ヒロキの声を皮切りに、
「そうそう!来てくれて嬉しいけど!」
「いやぁやっぱりユカリは私たちのマドンナだね!いつまでも」
「もう結婚してるの?」
と、至る所から彼女へアプローチがかかった。

 「ちょっと待ってみんな!私、聖徳太子じゃないからいっぺんに返事出来ない!」

彼女はいつだって人気者だった。今も昔も、こうしてクラスの真ん中で笑いを取っていた。顔も良ければユーモアも兼ね備えている。こんな人が愛されないわけがない。

 「そうだよ。とりあえず席についてもらおう。とりあえずビールにする?」
 「そうだね、そうする!急いで来たから喉カラカラでさぁ」
 「おー、さすがクラス長!優しいなぁ」

しししと笑う下村さんを上手くいなしたヒロキは、彼女を僕の真向かいに座らせた。何もされていないし、何も起こっていないのに僕の心臓は今にもはち切れそうなほど強く脈を打っている。すると、一分もしないうちに厨房から凍ったジョッキに並々に注がれたビールが彼女の手元に届いた。

 「じゃあユカリも来てくれたし、とりあえず乾杯し直そっか」

いつもクラスのお調子者だった平松くんが今日二度目の大スベりを決めて再び空間に笑い声が響き合うようになった。

 「それにしてもユカリ、返事無かったから来ないかと思ってたよ」

学生の頃、いつも彼女の隣にいた山口チハルさんが彼女を横目に見て笑った。今も二人は仲が良いのだろうか。

 「ごめんね、ケータイちょっと壊れちゃっててさ。ついさっき、修理が終わってショップに取りに行ってたんだ。遅れたのはそれが理由」
 「そういうことね。親友の私にもメッセージよこさないから何かあったのかっておもっちゃったよ」
 「へへ、ごめんごめん!でもクラスの人気者が遅れて登場ってサプライズっぽくて良かったでしょ!」
 「自分で言うな。確かに私も嬉しかったけど。安心もしたよ」
 「えへへ、チーちゃんごめんね。私、昔からそういうとこあったでしょ」
 「それは否めない」
 「ふふ、素直なチーちゃんも相変わらず」

ガヤガヤとみんなの声が混じり合うなか、彼女と山口さんのやりとりがやたらと耳の中に入ってくる。隣に座るヒロキもみんなと話しているもんだから僕は一人静かにちみちみとビールを口に流し込む。目のやり場をどうしようかと困っていた時だった。目の前にいた彼女は急にうーんと腕を大きく伸ばした。謎のストレッチを目の前に見た僕はおそらく不思議そうな表情を浮かべているだろう。

 「あのさ」

不意に彼女の声が聞こえた。その三文字が僕を呼んでいるのは彼女の目を見て分かった。星空のような瞳が僕をじっと見つめていた。心臓の音が彼女に聞かれないか不安に思いながら僕は平然を装った。

 「なに?」
 「身長、また大きくなったよね」

彼女の言葉を理解するのに時間がかかった。また?最近どこかで会ったのか?それとも昔の僕を覚えているのか?僕の記憶が正しければ、僕は彼女とまともに話をしたことがない。いや、話すことが出来なかった。彼女と目が合うたびに何を話せばいいのか頭が混乱していた記憶だけが鮮明に残っている。

 「あぁ、ヒロキにも言われたんだけど全然自分じゃ分からないんだよね」
 「えー?そうかな?座っていてもキミと全然目線が違うんだもん。絶対大きいって!身長いくつあるの?」
 「え、えぇ最近計ってないから分かんないけど、百八十四はあったと思うよ」

平然を装いながらも僕は必死に頭を回転させる。僕の身長を知った彼女は普段から大きい瞳を、より大きくさせて僕を見た。さっきのストレッチは流石に話題に出さないでおこうと心がけた。

 「すごい!私と三十センチも違うじゃん!いいなぁ、それだけあればバスケももっと楽しいだろうなぁ」
 「吉田さんも今もバスケしてるの?」
 「うん、やってるよ。お遊び感覚でだけどね!キミもバレーやってるの?」
 「う、うん。お遊び感覚でだけどね」
 「あはは、そうなんだ!一緒だね!」

そう言って笑う彼女は、あっという間に他のクラスメイトのグループの方へ迎えられていった。彼女と話すことに全神経を集中していた僕は、その緊張から解放されて大きく息を吐いた。だが、その緊張以外にもほっこりと暖かい気持ちが心の中にあった。
 僕と言葉を交わす彼女の声は、凍っている僕の心を暖かくしてくれて少しずつその氷を溶かしてくれるようだった。僕はこの時、自分の中で止まっていた時間が再び動き出した気がした。
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